「再会」の、かたち。
伏せ目にして、ため息をつく。
やってしまった。
「これ、言ったやつと違うくない?」
部長の言葉を何回も脳内に流す。
痛恨のミスをしてしまった。
僕のミスによって、部長や色んなところに迷惑をかけてしまったと思うと、苦しい。
申し訳ないし、自分なんてやっぱダメだ。
部長の信頼を失ったのかもしれないし、失ってないとしても、「この人はそういうことをしたんだ」という印象を脳に残させてしまったかもしれない。
ちゃんとしなきゃ。
(「人に完璧を追い求める時点で、完璧じゃない」)
あの時の、恵那川桃季の声が部長の言葉を上書きする。今ふと思い出したその言葉は、少し僕の気持ちを軽くした。
偽りのアイドルさん、、。
あの人は今、どこで何をしているのだろう。
どこかの番組の収録でもしているのだろうか。
踊って歌っているのだろうか。
別のことを考えても、結局は、目の前のミスで、また胸が苦しくなる。
明日の昼までは引きずるだろうな、、、。
怒涛の仕事が終了し、重い足取りのまま、街を歩く。
あれから貧血を起こさないように、と、できるだけ気をつけているが、それでも少しフラフラした。
そんな僕をどうでもいいと言わんばかりに、人は僕を通り過ぎ、車はただただ走る音を出す。
どうでもいいんだ、と思った。僕が何をしようが、失敗しようが、大半の人は興味ない。
目の前に、キラキラした光が目に入る。
見上げると、偽りのアイドルさんの笑顔と化粧品が、大きな広告看板に居座っていた。
やっぱり有名人なのだ、と認識した。
命の恩人、助けてもらった恩人、。
もちろん感謝もしている。
ただやはりどうしても、『偽りのアイドル』という印象が消えない。
性格悪いなあ、自分。
ぼんやりとした意識で、ふと、チェーン店のカフェを見つけた。
ちょうどいい、少し休憩しよう。
入店し、カウンター席にすわる。
右隣には、帽子を深く被り、携帯をいじる男。
(、、ミスった、、)
絶対に、横には誰もいないように座りたかったのに。うろちょろしてるのが嫌で、恥ずかしくて、ついサッと座れるところに座ってしまった。
カフェオレを注文した。
「あれ」
どこか聞いたことのある声がした。
パッと右を向くと、偽りのアイドルさんの顔。
「えっ」
お互い目を丸めている。
「な、なんでここに、、」と僕があたふたしていると、
「いや、、たまたま、今日はもう仕事終わったんで、、」
と相手はコーヒーを一口飲んだ。
以前よりも、顔が疲れている、気がした。
仕事詰めだったのかな。睡眠取れてないのかな。
「、なんか、大丈夫ですか?顔疲れてますけど、、」
と思い切って聞いてみると、相手は苦笑いした。
「最近、大きな仕事多かったんで。ま、まだまだですけど」
そんなことはない。心の中でそう相手に言う。
「全然、俺とか大したことないんで。皆んなの方がすごいし、まだまだ、、」相手はどんどん続ける。
僕なんかに、ペラペラ喋ってしまうほど、追い込まれているのだと感じた。
ちがう、そんなことない。あなたは充分すごい。
だって、人のために自分を偽ることができるのだから。
ずっとそう思っていた。バカにしてたんじゃない、心からそう思っていたから、僕はあなたをずっと気にかけていた。
あなたはあなたが思ってるよりも凄い。
人のためにできるなら、それは優しさだ。
そう言いたかったのに、喉につっかえて言えなかった。かろうじて言いたかったことを言う。
「、、ありがとうございました」
「え?」相手は、急に言われたことに眉毛をひそめている。
「恵那川さんが教えてくださった、完璧主義のやつ。
ちょっと、心楽になりました、」
相手は、また優しく笑う。
「全然。よかったです、」
しばらく沈黙が流れる。
ただ、この沈黙、なんとかしなきゃ、とは、珍しく思わなかった。むしろ、心地よかった。
「あの」
相手は体を僕に向ける。
「青春、分かります?」




