「俺」の、かたち。
人が喜ぶ顔が好きだ。
自分で笑ってくれると、より嬉しい。
アイドルのお笑い担当。
ドッキリ企画だって喜んで引き受けるし、喜んで求められるリアクションをする。
アイドルの明るい担当。
テンション高く振る舞って、ニコニコし、ツッコミをいれ、またボケる。
いつのまにか、この道しか残されていなかった。
気づいたら、こんなアイドルの道しかなかった。
小さい頃に母に「お菓子買ってあげるから」と連れられ、着いたのは大きなオーディション会場だった。
翌日には、もうすでに「今日からこの子入るから」と言われていた。
「キャラ付けした方がいい」
つけた。
10年後に、デビューした。グループは2回も変わった。
そして、実は少し大人っぽく、真面目。
この表向きのギャップも10年で身につけた。計算済だった。
どんどんファンが増える。
本当の自分は、アイドルの自分を老廃物を見るような目で見ているはずなのに。
ファンの笑顔をみて快感を覚える自分がいる。
もっと俺を見ろ。もっと俺をすごいって言ってくれ。
人とは違う、俺がいるから成り立っている、と。
もっと褒めてくれ。
承認欲求が高い。
車の後部座席で、帽子を深く被り、ぼーっと外を見つめる。次の現場で今日3件目だ。
今日の担当マネージャーは男。
無言で運転している。
学生時代は、アイドルとして汚名に付き纏われないように、とずっと1人で過ごした。
ほとんど喋らなかったし、喋ろうともしなかった。
アイドルなんて肩書きがなければ、もっと普通でいれたのに。「みんな」と同じように、学校を楽しめたのに。青春には、憧れしかない。
そこで、変なとこに真面目になって、アイドルに忠実になっている自分に気づいた。
嫌いなはずなのに、老廃物なはずなのに。
辞めきれなかった。
「ここまでして?」と、自分のプライドが許さなかった。
メンバーには恵まれた。
みんな優しいし、偉そうな態度とかしないし。
アイドルとして珍しく、思いやりと調和がとれたグループだった。
だから、人気がでた。デビューしてからはトントン拍子。
所持金も増え、高層階のマンションに住み、身につける衣装の値段も一般人なら「高い」と思う金額でも「ま、こんなもんか」と思うようになる。
俺だけの活躍じゃないのに。俺だけの力でここまできたわけじゃないのに。
「恵那川さん!恵那川さん!」
気がつくと、車はもう停まっていた。
「聞いてます?もうつきましたよ」
あたりは、灰色に包まれた地下駐車場だった。
「、、、ごめん。ぼーっとしてた、、」
「大丈夫ですか?もう時間になりますよ」
車のナビの上にある、小さな時計の文字を見る。
「ほんとだ、ありがとね、運転」
「大丈夫です」
エレベーターに乗り込み、5の数字を押す。
このまま家に行けばいいのに、とふと思った。
(アイドル失格だな、、笑)
白い扉をあけると、目の前に壁が鏡になった稽古場 が現れる。俺は自分の姿を嫌でも認識した。
すでにメンバーの1人が、ストレッチを始めている。
「、はやくね?俊」
「桃季も充分でしょ、」
と優しい笑顔で言われる。
リーダーの相馬俊。
面倒見がいい、というかシンプルに優しい。毒舌だけど。
「恵那川さん、」
とマネージャーが書類をもって俺に近づく。
俺は帽子を取った。
「、、仕事きてます、!ドラマの」
「え?」
「おめでとうございます、」
「やったじゃん!桃季!」
と俊にも肩をポンっと叩かれた。
「、、どんなドラマっすか、?」
「えーっと、、」
とマネージャーが書類をパラパラとめくり、パソコンを開いた。
「あ、青春ドラマ、、みたいですね。高校生の、」
胸にグサっときた。
俺の不得意分野、、だけど、世間は、これは俺の得意分野だと思うだろう。
「どうします?引き受けますか?」
「どーすんの?桃季」
2人に見つめられる。
なぜか、断れなかった。
「、、、やります、。」
青春とか、なにもわからない。
青春を知らなきゃ。
どうやって勉強しよう、、、。
ここでも気づいた。
俺は仕事に忠実なんだ、と。
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