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青春のかたち  作者: さくらんぼ
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「僕」の、かたち。

昔から人混みが苦手だ。嫌でも人の「声」が聞こえるし、アスファルトを走る車の音やバイクのエンジン音も苦手だ。それなのに、僕は今、東京のど真ん中。世界で最も忙しい交差点にいる。赤から青に変わるのを、ただ待っている。「イヤホンでもつければいい」と高校の頃、同性の友人に言われたことがある。ただ、僕にとって、歩きながらイヤホンをつけるのはどうしても抵抗がある。僕の前から来る人や、自転車の邪魔になったらどうしよう、事故になったらどうしようかと考えてしまうのだ。

人の顔色、声のトーン、言葉の選び方。それらは僕にとってその人に対する態度の判断材料だ。その3つで相手を察し、相手に合わせ、相手を傷つけないようにする。

昔からそうだった。感受性が強くて、責任感が強くて、完璧主義。

自分がそうなのだと、気づくまでに時間はかからなかった。

けれども、とっくの前に気づいたはずなのに、今もしんどい。

人より繊細で、心配性な「生きるのが大変」な自分。治したいと思ったときもあったけれど、「生きるのが大変」な自分が好きだった。「人より大変」で、「人より違う」。手放したくなかった。「自分は大変だから助けて」「自分はかわいそう。だから君より苦労してるよ?」内心では、そう思ってる。性格が悪い自分。それをこの完璧主義な自分は許さないのだ。どれが本当の自分かわからない。学生時代からずっと。社会人になった今でも、わからない。学生時代は青春を見下していた。人の恋愛をみて、キャッキャしてる人たちをみて、何が良いんだろう。とずっと思っていた。

青春なんて、味わうべき時間に、味わなかった。

「おはようございます」

会社にたどり着き自分の椅子に座ろうとすると、決まっていつも部下の市原に挨拶される。

「おはよう」

挨拶は人として当然の習慣。しなかったことはない。

高校時代に勉強を頑張って、いい大学にいって、そこそこの企業に勤めた。

ここでの自分は、「表向きの自分」だ。会社に入った時点でスイッチは勝手に押される。

みんなからしたら、僕は優しくて、真面目で、気が利く、できた人間。

だから信頼もされる。

仕事もたくさん任される。

僕は常に笑顔で対応する。いい人に思われますように、と。

そして、日が沈む。

これが、僕の日常。

そんなつまらなく、居心地悪く、吐き気を催すような日常を。

あなたは粉砕したんだ。






いつもの残業帰りだった。

日はとっくに沈んでいて、街灯と飲食店の明かりだけがつく、賑やかな夜の街。騒がしいから、大嫌いだ。

駅まで歩き、電車という箱に詰められ、帰る。

そしていつも改札の3メートル前から定期を取り出し、手の中で握る。

改札の手前で、出すのに戸惑って後ろから来る人の妨げになりたくないから。

あの日も、「3メートル前準備」をしようとすると、足がふらついた。

(あれ、)

ふらついたまま、駅の汚い壁にもたれて、座り込む。突然頭痛がし、めまいがする。

(気分悪い、、)

そのまま気を失った。

目が覚めると、見慣れない天井があった。

革のソファの感触がする。

驚いて、勢いよく起き上がって、周りを見渡す。

僕は毛布をかけられていた。寝ていたソファからローテーブルを挟んで、反対側に1人用ソファが2つ。1人は立っていて、もう1人は座っていた。

目がぼやけて、性別すら分からない。

「あ、起きた」

明るい、けれど、どこか疲れたような男の声。

やっとピントが合う。

立っている方は女性で、秘書のようなメガネをかけていて、凛々しい立ち方だ。

「だーいじょうぶかよ、、」

とこじんまりと座っていた男はソファから立ち上がって、ペットボトルの水を差し出した。

状況が理解できず、思わずソファの中で、意味ない後退りをする。

「だ、誰、、?」

相手をよく見ると、左耳にピアスをしていて、目の下に少しクマがあり、金色のネックレスをしている。

男は、少し目をパチパチさせたが、「ま、そりゃそうだよな」という表情をして、そのまま僕にペットボトルを押し付けた。

ペットボトルは冷たくキンキンで、手に水滴がつく。

俺はポケットから出したハンカチでそれを拭った。

「、、ありがとうございます、、ごめんなさい」

一口飲んで、キャップを閉めようとするも、上手く力が入らなかった。

「、、、なんで、、僕、ここに、?」

男はまた元のソファに座る。

「覚えてないのか。俺達はたまたま通りかかったんですよ、仕事帰り。マネージャーの車に乗ろうとして」と、男は親指で女性を指さした。

「そしたら座り込んで意識失ってる人いたから、、。顔色悪かったし。だから、事務所まで運んだ、車で」

「まあ救急車呼ぶほどではなさそうだったし」

思い出した。駅の手前で、貧血とめまいをおこしたんだ。

「、、そうでしたか。本当に申し訳ないです。」

と、謝るも、途中すこしひっかかった。

「え、事務所?」

ピアスをし、金色のネックレス。

(、、やばい系、、?もしかして)

と1人で萎縮していると、男は照れたように髪をかきむしった。

「えーーと。普段あんまり芸能とか見ない感じですか?」

きょとん、としたが、すぐに察した。

「あ、芸能関係の方ですか?」

申し訳ないことに、俺は芸能関係やバラエティなどは全く見ない。昔から興味がなかった。

男はマネージャーの女性と目を見合わせた。

「一応、BULEKNOWっていって、、アイドルやってるんですけど、」

ブルーノウ、、、。芸能を知らない俺でも耳にしたことがある名前だった。

相手は指をもじもじさせている。

「恵那川桃李といいます。。よかったら覚えてください、」

と苦笑いされた。

「あ、いや、え、いやあ、聞いたことありますよ。アイドル知らない俺でも聞いたこと在るんで、、そんな、いや、大丈夫ですよ、」

と慌てて弁解する。

まずい、ここは最低限の対応を、、。

「はは、大丈夫ですよ。そんなんで誰も責めないです。」

相手は柔らかく微笑んだ。でも、すぐに表情が曇る。

「、、、さっきから俺、引っかかってるんすけど。」

「、もしかして、結構真面目な方ですか?」

「え?」

胸を突かれたような感覚がした。ここでも僕は、そうです、とか言って「自分で認めるんだ」と思われないかびくびくしていた。

「逆になんでそう思ったんですか、?」

挙句の果てにこのような意味のわからない返しをしてしまう。

相手は手を組んだ。

「ま、顔色的に貧血だったんで。あとは、雰囲気?とか?真面目そうだなあって」

「それに、ペットボトル。」

と相手は机の上に置いてあるペットボトルを指差す。

「、手のひらに水滴がついた時、わざわざハンカチで吹いていたんで。ちょっと神経質なのかなあ、って」

驚いた。初対面でここまで見られたのは初めてだった。

初めてだったからこそ、つい嬉しくて、僕はポロッと心の声が漏れてしまった。

「、僕、完璧主義なんです、」

「それを自覚し始めてから、楽になると思っていたのに、、逆に最近しんどくて」

頬を人差し指でかきながら苦笑いをする。

ハッとして、相手を見る。重いって思われたかな?と、また気にする。

相手は、ものすごく温かい目をしていた。

「じゃあ、一個教えてあげますよ」

「人はもともと完璧じゃない。だからこそ、そこに完璧を追い求めてる時点で、」

「、、。完璧じゃないのかもしれないですよ。?」






「どうも、BULEKNOWでーす!!」

珍しく僕のスマホは、キラキラのアイドルでいっぱいになっている。

あれから数日後。もちろん、あれっきりだ。

そして、自分の目を疑った。

そこには、ニコニコで、さわやかで、元気で、お笑い担当の恵那川桃李がいた。

僕が感じた繊細そうな恵那川桃李は欠片もなかった。

スマホを閉じ、安心できるソファに座ってふぅ、とため息をついた。

「、偽りのアイドル、、か、」

その呟きは、夜の街に消えた。


初めて書きました。

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