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Re:Make World‼︎  作者: 霜月アズサ
第7章

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第193話『敵を殺すにはまず味方から』

作者のXアカウントが変わりました。更新状況、作品イラストなどに投稿に興味がございましたら、ぜひフォローしていただけると嬉しいです。

@Shimo2ki_Azusa






 窓辺に肘を預けていたアリシアは、扉が開く音に振り返った。


「……アンドレ。シャルル様のご様子は?」


「しばらく部屋の開錠を試みたり、壁を引っ掻いたり、何かを呟いたりしておられましたが、つい先程おやすみになりました」


「そう……かなり、抵抗していらしたのね」


 紅茶のトレーを運ぶアンドレの、頬に刻まれた引っ掻き傷に、アリシアは吐息をして机上の書類をまとめる。


「大奥様に封印されているとはいえ、シャルル様の『赤の女王』はワタシと同じ、精神に干渉するスキル。同じ属性同士のスキルは、かかりにくいことは知っていたけど……これは少し、骨が折れそうね」


「エントリーの締め切りまでに間に合うでしょうか。戦争屋からの報復も警戒しなければなりません。シャルル様につきっきりでいるわけにも参りませんし……」


「大丈夫。必ず間に合わせるわ。これまでの時間を、無駄にするつもりはないから。ところで」


 アリシアは、目の前に置かれたティーカップを指さした。琥珀色のアップルティーを、茶葉が3つ4つ遊泳している。


「これは……どういう淹れ方をしたのかしら。茶柱が立ったってレベルじゃないんだけど」


「運がよいですねアリシア様。我々の幸先も良好と見えます」


「ち・が・う! 貴方またカップに茶葉をインして、抽出した後に取ったでしょう! お茶って言うのはフィルターを通すの!」


「左様でしたか……ご無礼と浅学(せんがく)をお詫びいたします。申し訳ございません。何なりとお仕置を」


「お尻を出そうとしないで! はぁ……仕方ないからもらうけど。次は淹れる前にワタシを呼んでよね」


 哀しげに尻をしまうアンドレを横に、目を閉じてカップに口付けるアリシア。

 そのときだった。離れた場所から突然、連続した爆発音が響いた。驚いた拍子に紅茶がこぼれるが、アリシアの白い衣装に落ちる前に、俊敏なアンドレの手が受け止める。


「熱ッ」


「ちょっと、何してるの! ……今のは何? また候補者同士のバトルかしら。この前もアバシィナ=イェブラハが夜間市場を荒らしてたらしいけど……」


 アリシアがカーテンを開けようとすると、その手をアンドレが制止する。


「お待ちくださいアリシア様。貴方の姿が見つかるといけない。ここは私が確認いたします」


「……そうね。じゃあ、お願い。ワタシは火傷薬を持ってくるから」


「いえ、私に薬など不要……あぁ、行ってしまわれた。薬は怪我が治るから嫌いだと、何度も申し上げているのに……」


 アンドレは嘆息して、カーテンをわずかに開けた。隙間に柘榴(ざくろ)色の視線を忍ばせると、真夜中でも明るいクァルターナの街並みに、重力を忘れたように跳び回る人影が複数。


「あれは……」


 距離と逆光ゆえ、シルエット以上の情報は得られない。アンドレは自分の耳に手を添えた。すると、300メートルは離れた位置にいる彼らの声が、同じ部屋にいるかのように、はっきりと聞こえてきた。


「――殺してやるわ、ジャック=リップハート!」


 真っ先に飛びこんだのは、昼間対峙したセレーネが、リップハートの嫡男に殺意を向けるセリフだった。





 帝宮を中心に巨大水路が四方へ伸び、それを縁取るように建物がひしめくクァルターナ。夜間市場が盛んに開かれ、石灰の白とランプの橙が幻想的な光景をなす街の上空に、合計5人の男女がいた。


 まず目立つのは、折れ線を描きながら空へ駆け上がる稲妻だ。5階建ての塔より高所にくると、その雷光は青年の形に戻る。ジャックだった。

 ジャックは片手でピストルを形作ると、人差し指から電撃を乱射。狙われたのは、ランプを下げる街のワイヤーに、曲芸師のように立つペレットだった。


「さっきからそればっかりで、芸がないっスねえ。手数の多さというか、発想の柔軟性じゃ弟サンのほうがまだマシっスよ?」


 ワイヤーに足を絡めると、後ろに身を投げるペレット。脳天がぐるんと真下を差し、彼の足裏を電撃が素通りする。

 と、絡まっていたワイヤーが少しほどけて、ペレットの身体が横向きにねじれた。逆さまで再度対面したペレットは、ジャックの心臓めがけて発砲。


「……!」


 咄嗟に電気に変身し、縦横無人に飛び回るジャックだったが、ペレットの射撃が執拗に追いかけた。

 通常目に追えない速さでの逃走だが、逃げ先を先読みしているのか、電気性の肉体は常に撃ち抜かれ、ジャックは生身に戻る機会を得られない。


 すると、


「うわっ」


 どこかから凄まじい勢いで伸びてきたツタが、ワイヤーに絡まってペレットを揺り落とす。あえなく落下するペレットは、間一髪別のワイヤーに掴まって、ツタが飛んできた方向を見上げた。


「ッ!」


 目が合うのはテトリカだ。どうやら屋上で育てられていた植物を、能力で急成長させたらしい。テトリカは続けて、ロングボウをペレットに向けて構えた。


「へぇ?」


 ペレットは空いた手に手榴弾を召喚すると、テトリカのいる屋上に放り投げ、飛んできた矢と入れ替わるように姿をくらます。


「なっ……!」


 目を見張るテトリカ。それを跳んできたマオラオが抱き上げ、爆風を浴びながら屋上から飛び降りる。


「危なッ……」


「すまない、助か……まずい、アズネラだ!」


 テトリカが叫んだ直後、高所から2人目掛けて機関銃が掃射される。マオラオはワイヤーに着地すると、ランプが割れる音に追いかけられながら、対岸の建物に向かって走り抜けた。


「ちっ……鼠みたいに走るやつね。ほんとにイライラしてきた」


 塔の屋根を陣取るセレーネが、弾倉を捨てて次の攻撃を準備。構え直したところではっと振り返った。上空から舞い降り、鉄槍を振り上げるジャックがいる。


「隙ありー!」


「っ……!」


 額を殴られそうになり、咄嗟に銃を盾にするセレーネ。肉体への攻撃は回避するが、屋根から叩き落とされてしまう。


 彼女はすぐさま、銃を前方にブン投げた。そして腰の鞭を振るうと、ワイヤーを掴んで振り子のように滑空。靴底で地面を舐めると、鞭を回収し、落ちてきた機関銃をキャッチした。


 ――この、ジャック・テトリカ・マオラオ対ペレット・セレーネの構図は、ジュリオットを伝言役にしたフィオネの発案だった。

 街を巻き込んで仲間割れを演じ、戦争屋陣営の一部をアリシア陣営に送り込む、という作戦の序章である。


 なお、送られるのはペレットたちのほうで、2人以外にもジュリオット・ミレーユがアリシアの味方につく予定になっていた。

 『皇帝選議』に必要な知力と武力を補いつつ、アリシアの動向を探ったり、シャロのメンタルケアをしたりする人選だ。また心許なくはあるが、精神干渉系の能力者のジュリオットとセレーネで、アリシアの洗脳対策もしている。


「――」


 遠目に5人が見える水路の橋上。はらはらと拳を握りしめるミレーユは、手元の手帳に書きにくそうに文字を連ねた。


『皆さん、本気で戦ってませんか……?』


 すると、隣のジュリオットが手帳を引き継ぎ、慣れたようにペンを走らせる。


『殺さないよう伝えてありますが、テトリカさん以外は本気でしょうね』


 その隣にはレムもいるが、斧を手に辺りを警戒するばかりで、筆談に参加する様子はなかった。


 筆談は、現状誰も姿を見ていない『アリシアの協力者』への対策だった。


 曰く、誘拐される直前シャロが1人だけ女性の声を聞き、自身は声を奪われるような体験をしたというフィオネ。彼は、アリシアの味方に声を操作する能力者がいると判断し、筒抜けさせたくない会話は筆談するよう命じたのだ。


 ちなみに、この作戦に多大な煽りを受けたのはジャックである。咄嗟に巧みな嘘をつけず、読み書きも十分ではない彼は、意思を押し込めることを余儀なくされ、当てつけのように電撃を撒き散らしていた。


『私たちが対立したって噂が流れたとして、本当に信じてもらえるんでしょうか』


 浮かない顔のミレーユが手帳を渡す。ジュリオットは少し考えて、


『信じてはもらえないでしょう。が、協力を跳ね除けられるほど、私たちの価値は低くもない』


「価値……」


『アリシアは歌唱で富と名声を得て、リップハート家の源流であるクァルターナに漕ぎ着け、コンサートを開いて更に支持を得ているようですが。地下に閉じ込められ、知恵や力を蓄える機会を奪われていた過去は覆らない』


「……」


『信じてもらえなくていい。利用してやる、と思わせることが私たちの』


 と、そこまで書いたときだった。静観していたレムが、斧を構えて振り返った。


「――おっと」


 喉元に刃を突きつけられ、へらりと笑って両手を上げたのはスーツ姿の男だった。反応が遅れたジュリオットは、振り返ってその頬を硬直させる。ミレーユの口からは小さな悲鳴が漏れた。


 そこにいたのは、カジノ『グラン・ノアール』でジュリオットを氷漬けにし、ミレーユをも手にかけようとした氷の能力者。天国の番人(ヘヴンズゲート)のバーシーだった。


 ジュリオットは半歩引き下がり、薬品が入ったトランクの、展開用ボタンに指をかける。ミレーユはふらふら後ずさって、橋の欄干(らんかん)に背中をぶつけた。

 近海や集落が凍りつき、ヘヴンズゲートの船が沈没していた時点で、彼がいることは予想がついていたが――こんなタイミングで現れるとは。


 レムが、声を低くして尋ねた。


「お前さん何者でぃ。ただの野郎じゃねえだろう。何しに来やがった」


「何って……ボクはバーシー。顔見知りがいたから話しかけただけだよ。……まさか、こんなところでまた会えるとはね。ボクの氷はなかなか溶けない自負があったんだけど……どうやってあそこから抜け出したのかな?」


「……答えるつもりはありません。貴方こそどうしてここに?」


 ミレーユを背中にかばいつつ、眼鏡の内の瞳を細めるジュリオット。剥き出しの警戒態勢に、バーシーはつまらなそうに首の裏をかいた。


「えー、それはずるいんじゃない? まぁ、話して困ることでもないしいいけど……君たち、アバシィナ=イェブラハはわかるかな? ボクたちはヘヴンズゲートとして彼を指示して、皇帝になってもらいにきたんだよ」


「ヘヴンズゲート――本気で言ってんのかぃ」


 斧を握るレムの手に、かすかに血管が浮き上がる。緊張する空気。いつ斧が振り上げられ、殺し合いが始まってもおかしくない状況で、ミレーユは必死に呼吸を抑えていた。バーシーの、蛇のような曲線の細目が開く。


「本気だよ。彼の倫理観には、ボクも思うところはあるけどね。ボクたちはクァルターナと強力な繋がりが欲しいんだ。そして呪いと謀略が跋扈(ばっこ)するこの国で、皇帝になれるのは彼しかいない――だから彼を支援する。それだけのことだよ」


「アイツが皇帝になれば、この国はひと月と経たずに滅びる。お前さんらの本懐も遂げられねぇだろうよ。それくらいわかんねえのかぃ、今のヘヴンズゲートは」


「うーん。正直上の命令だから、何言われたって方針は変えられないんだけど……うちの人たちは、救済が好きなだけであって、人が好きなわけじゃないからね。その辺、あんまり気にしてないんじゃないかな?」


「――」


「そう怖い顔で見ないで。殺し合いはやめよう。もし『皇帝選議』に参加する連中に知れたら、危険因子として真っ先に狙われるのが見えてるからね。お互い、ファーストゲームも楽しめずに逝くのは嫌でしょ?」


 バーシーはニコニコと斧を遠ざけて(きびす)を返した。長く骨張った手を軽快に掲げる


「じゃあ、怖いクマさんに噛み殺される前に、ボクはここで失礼するね。君たち3人が参加するのか知らないけど……どうせ、戦争屋は絡んでくるんだろうから。また会えるといいね。特に――ミレーユちゃん」


「……っ」


 怯えたミレーユの視線を受けながら、夜闇に消えていくバーシー。時を同じくして、遠くから聞こえていた爆発や銃撃の音も鳴り止んだ。ひとしきり暴れて満足したらしい。


「……予想以上に、面倒な戦いになりそうでぃ」


 斧を下ろしたレムが、威嚇する獣のように喉の奥を震わせた。

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