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Re:Make World‼︎  作者: 霜月アズサ
第7章

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第192話『檬果3年、因縁も3年』

 最後の1人が倒れると、屋根にうつ伏せていたセレーネは、息をついて立ち上がった。


「はぁ……全員倒してしまったわ。結果的にアイツに従ったみたいになるの、なんだか凄く(しゃく)ね……まったく、5人も押しつけてどういうつもりなのかしら」


 ブツブツ呟きながら、突起を掴んで軽快に建物を降りるセレーネ。通りに着地すると、シャロが消えていった方向に歩いていこうとして、


「――!」


 服に血を滲ませて横たわる、フィオネの姿を見つけた。顔色を変えたセレーネは、周囲に人の気配がないことを確かめると、駆け寄って状態を確かめる。


「撃たれたのは2発……鎖骨と太ももの外側。骨はダメになってるけど、心臓と肺は無事そう……脈は感じられない。……うん? 口から血……? いや。貴方、生きてるわね? よく見たら、頬の内側から血が出てるじゃない。何してるの?」


 翡翠の瞳をじとりと細めると、微動だにしなかった口元が微かに笑った。


「バレちゃった……わね……。さっきの子は、騙せたのに……ふふ。知ってる? 素人向けの芝居じゃ……リアルよりも、演出が好まれるのよ……ああ、痛い」


「はぁ、ここは芝居小屋じゃないんだけど。2発撃たれて死んだふりなんて、どういう胆力してるのかしら。……けど、悠長にはしてられないわよ。このままじゃ本当に貴方は死ぬ」


 セレーネは手早くフィオネのネクタイを解き、特に出血の多い太ももを締め上げた。


「どうする? 一か八か、最寄りの適当な医者に突き出されてみるか。時間をかけてでも、ジュリオット=ロミュルダーのもとに戻って診てもらうか」


「……いや。貴方が1人で戻って……ペレットに迎えに来てもらうのが、1番早くて確実ね……はっ……シャロのことも、早く話さないと……」


「はぁ。アイツにも何かあったのね。……ねぇ、それってすぐに解決できること? 人手が必要なら、ペレットくんと一緒に来てもらうけど」


「いいえ……多分、そう簡単なことではないわ……少し、考える時間が……欲し……い……」


 そこまで言って、フィオネは目を閉じた。呼吸を浅くして血行を抑えているようだが、その額にはびっしりと脂汗が浮かび、顔色はつい先刻よりも悪くなっている。セレーネは吐息をすると、フィオネの両腋(りょうわき)に手を入れて引きずった。


「……あの辺りなら、見つからずに済むかしら。……貴方背が高いから、あまり期待は出来ないけれど」


 セレーネは細い路地の、ガラクタが集まった場所にフィオネを押し込め、拳銃をそばに置いた。


「それじゃあ。10分を切れるように頑張ってみるけど、死なせたらごめんなさい。いちおう言っておくわね。さようなら」


「……ふふ」


 セレーネの露悪的な態度にも、フィオネは笑うだけだった。セレーネは路地の壁を蹴り上げて、昼の空に飛び出していった。





 夜。セレーネたちは、宿泊するホテルの庭園に集まっていた。


 庭園は、ライトアップされた翠玉色のプールを中心に、大理石の道や、人工芝とヤシから成る広大な空間だった。

 絢爛な見た目に相応しく、たとえばラウンジチェアでは使用人を(はべ)らせた男が。プールサイドではスター(ぜん)とした華美な雰囲気の女性がくつろいでいる。


 金の匂いを漂わせた、煌びやかで危うげな庭園。その一角にある、5人用のテーブル席で、話し合いは密やかに行われた。


「昼も簡易に伝えたけれど、改めて報告するわ。12時過ぎ、私とフィオネ=プレアヴィール、シャロ=リップハートの3人が、『皇帝候補』アリシアからの襲撃を受けて、フィオネが銃弾2発を食らう重傷。シャロが行方不明になったわ」


 頬骨をビビッドカラーに照らされながら、セレーネが話を切り出すと、小さな手帳を握るジュリオットが継いだ。


「フィオネさんは現在、銃弾の摘出をして仮手当を終え、ペレットくん、フラムさん付き添いのもと部屋で休息をとっています。が、ある程度の情報は聴取してきたので、彼への質問は私が引き受けます」


「なら、ジュリさん……! シャロは……アイツはどこに行ったんダ!? 死んだわけじゃねーんだよナ!?」


 ジャックがローテーブルに身を乗り出すと、ジュリオットは手帳を開き、細やかなメモを覗かせる。


「絶対の保証はありませんが、フィオネさん曰く……シャロさんには、傷1つつけられていないだろうと」


「そっ、それは……嬉しい……いや、嬉しくはねーケド……なんでだ? フィオネは2発も撃たれたのに、シャロは見逃してもらえたのカ?」


「いえ――」


「アリシアは、シャロの実家に忠誠を誓ってるんだろ」


 声を滑り込ませたのは、やけに沈んだ面持ちのギルだった。

 いつもは不敵に光る赤の双眸。それが、今は誰の目も見られないというように、手帳の中身に集中している様に、ジュリオットは口を結んだ。


「……ご名答。よくわかりましたね」


「いや。何日か前に、アリシアと直接話したんだ。闘技場に金集めに行ったのも、そいつの助言を当てにしたからで……そのとき、本人がそう言ってたんだ。悪い。言っとくべきだったな。助けてもらって、少しアイツを信用しちまってた」


「助言を……? それは少し妙ですね。が、一旦置いておきましょう。ギルさんの言う通り、彼女はリップハート家に忠誠を誓っているから、危害は加えられていないだろうというのが、フィオネさんの考えでした」


 すると、ジャックが困惑したように眉をひそめる。


「アリシア? そんな名前のやつ、うちにいなかったと思うケド……」


「でしょうね。彼女は、ジャックさんたち家の人間と、対面する機会を与えられていない……裏方専門の『奴隷』ですから」


「奴隷――」


 顔を曇らせるのはテトリカだ。水都でそういった扱いを受ける仲間たちを、解放するために皇帝を志すテトリカとしては、聞き逃せない単語だったらしい。咎めるような緑の視線が、ジャックの顔に突き刺さった。


「そうなのか? 君の家も……クァルターナの富裕層のような、差別主義者の集まりなのか」


「……ッ、そんなわけないダロ! なぁ、どういうことなんダ? アリシアがうちの『奴隷』って……」


 声を震わせるジャック。意外な反応だったらしい。ジュリオットはやや目を見開くと、紺青の瞳を淡く光らせた。嘘を見抜く能力『絶対審判』の使用だ。ジャックはそれに気づかず、肩を縮こめながらも、不満げに口を尖らせた。


「うちのことは知り尽くしてる……けど、奴隷なんていなかったゼ?」


「……残念ですが、文字通りの『奴隷』です。ジャックさんには、存在が伝えられていなかったようですが。その調子だと、ご実家の源流はクァルターナにあることも、一家の人間には魅了の呪いがかかっていることも、ご存知でないようですね」


「エッ」


「魅了の呪い……?」


 セレーネが顔を険しくする。ジュリオットは静かに頷いた。


「ええ。リップハート家は、近代こそオルレアス王国に居を構えた公爵家でしたが、元々はクァルターナで呪術の名門として栄えた豪族なんです。魅了の呪いとは、特定のタトゥーを彫った奴隷に作用し、一族への従属を使命たらしめるもの」


「ふむ……外の人間のはずなのに、妙に聞き覚えのある名前だと思ったが……そういうことだったのか。しかし、やけに詳しいじゃないかロミュルダー。魅了の呪いについても知ってるなんて」


「えぇ、まぁ……3年前にリップハート家を襲撃した際、かなりしっかりと調べましたから」


「――!?」


 ジャックとテトリカの顔に動揺が走った。ギルは横髪をいじっており、セレーネは平然と腕を組んでいる。


「えっ、お、オレんちって襲われてたの!? しかも、ジュリさんに!?」


「……そういえば、あなた最近まで記憶を取られてたから、ここ3年くらいリップハートの嫡男(ちゃくなん)である自覚がなかったのね」


 目を閉じるセレーネ。


 あれはおよそ3年前。ドゥラマ王国での兵役を終え、実家に帰ろうと国境の検問所にいたジャック。

 彼に目をつけていたヘヴンズゲートは、彼が将来的に戦争屋と癒着することを恐れ、派遣したセレーネにその場で襲わせた。そして、人格が崩壊しない程度に過去の記憶を没収させたのである。


 ゆえに、3年間家(跡地)に帰らず報道も気に留めず、今の今まで滅亡したことを知らなかったのだろう。


 ジャックはチェアに深くもたれ、夜空を見上げて、『えぇーマジか』と顔を覆った。


「まぁ、壊したのは主にギルさんですが……『処理班』――協力者集めに奔走していたころ、フィオネさんがあの家に目をつけたんですよ。シャロさんに会ったのは、想定外の副産物で。本来の目的は、地下にいた奴隷たちに会うことでした」


「でも、アイツらは全員イヴに解呪してもらって、『処理班』に引き入れたはずだよな。アリシアはなんなんだ? 取りこぼしてたのか?」


「おそらく。みな、植え付けられた忠誠心のせいで、反抗したり自死したり、一箇所に集めるのも大変でしたから……彼女もまた、主人を襲った私たちに反感を抱き、家の再興や私たちへの復讐をもくろんで、来たる日のために逃亡していたのでしょう」


 ジュリオットが眼鏡の位置を直すと、セレーネは小さく吐息をする。


「フィオネ=プレアヴィールが殺されかけたのはそういうことね……でも、おかしくないかしら。彼女、ギル=クラインには助言をしたのよね? 不死身だし殺せないとしても、仇の不幸を笑わない理由にはならないでしょう」


「あァ〜……まぁ、あんときゃシャロもいなかったしな。俺に仲間宛ての手紙を出させて、シャロを呼んでもらいたかったんだろ。で……家の再興ッつったな、ジュリさん。まさか、『皇帝選議』への参加がそうだってのか」


「えぇ。先程も言った通り、リップハートは元々クァルターナの豪族。アリシアさんが皇帝になれば、華々しく返り咲かせることが出来ますから。ただ、シャロさんを回収した以上、『皇帝候補』は彼と交代するでしょうが」


「えっ……シャロがテトリカの敵になるってことカ!? い……いやだ! 殺せるわけねーダロ!」


「そもそもだ。リップハート……あぁ2人いるんだ、ややこしいな。――シャロを『皇帝候補』として参加させる、なんてことが可能なのか?」


 テトリカが怪訝そうに眉をひそめると、セレーネはおもむろに自分の片耳を触った。


「……出来るでしょうね。アリシアには、歌を介して人の意識を改竄(かいざん)する能力がある。やめさせるなら今のうちよ。彼女の居場所を割り出して殺しましょう」


「いえ……そうもいきません。私たちには、アリシアさんの力が『特殊能力』なのか、『呪い』なのかわかっていませんから」


「それが違うと、何が変わるんダ?」


 トロピカルジュースの氷をストローで混ぜながら、ジャックはきょとんと目を瞬かせた。


 そもそも特殊能力とは、世界全体で使われている、超常を起こす力である。発動に道具を用いない代わり、能力者の心身どちらかを疲弊させる。また1人につき1つ、所持する人間は人口の3割という限られたものだ。


 対して呪いは、ほぼ大南大陸のみで使われる力である。発動に道具や手間を用いるが、才能さえあればいくらでも使うことが出来る。都市伝説だが、使い手は性格に難があることが多いとされ、人口は確認できていないものだ。


 引き起こす事柄に差はないため、懸念事項があるようには思えないが――。


「能力は、術者が死ぬと効果が解けます。しかし呪いは、術者が死んでも残り続けるんです。現にリップハート家襲撃で当時の主がいない今でも、アリシアの『魅了の呪い』は続いているでしょう」


 すると、ギルが顔を強張らせる。


「つまり、アリシアの力が呪いだった場合……アイツを殺したら、シャロは永遠に『家の再興を果たす』って使命に囚われるのか」


「ウーン……能力でも呪いでもサ、会いに行って解除しろ! って脅すのはダメなのカ?」


「ええ。『魅了の呪い』により、アリシアさんの最優先事項は、主人への忠義を果たすことになっているでしょうから。脅しても甚振(いたぶ)っても屈せず、死ぬまでシャロさんにかけた力を解かないでしょう」


「つまり……アリシアの力が『特殊能力』か『呪い』か判明させて、前者だった場合しか解除させられないのね。でも、殺さずに調べる方法なんてあるの? しかも、発動した後に」


「ええ、ありますよ。それも意外と簡単です。隙を見計らうのに張り付く必要はありますが……アリシアさんを気絶させるんです。それで、解ければ能力、解けなければ呪い。――それではここから、本題に入りましょう」


 ジュリオットは、青い瞳を鋭く細めた。


「これから私たちは、内部分裂を起こし――人数の半分をアリシア陣営、いえ、シャロ陣営に協力させます」

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