第11話『大人がやっても割と楽しい』★
【第1章のあらすじ】
秘密裏に『殺戮兵器』の製作を進め、国の強化を図っていたウェーデン王国の国王、および関係者を殺害した『戦争屋インフェルノ』。
帰還したのも束の間、ギル・シャロ・ペレット・マオラオの4人は、戦争屋のリーダーであるフィオネから、次の遠征に行くよう言い渡される。
【第2章の遠征の流れ】
①北の宗教国家『アンラヴェル』には、神子と呼ばれる教皇の孫がいる。
②神子の誕生は、40年前を最後に公表されておらず、軟禁されているものと思われる。
③しかし神子の持つ『洗脳』の力を使い、戦争を促そうとする者がいる。
④戦争が起きると、世界情勢が変わってフィオネの『世界改変』計画とずれる上、フィオネの求める蔵書が焼失する可能性がある。
⑤なのでギルたちは、教皇や神子のいる宮殿にメイドのフリ※をして潜入する。
(※宮殿では、就職先のない男性を聖騎士として、女性を使用人として雇用している。後者は近年志願する者が多く、潜入に有利なほど飽和気味であるため)
⑥軟禁された神子を探して誘拐し、戦争を企てる犯人を炙り出す。その後、神子はこっそり戻す。
《ざっくり世界地図》
遠征初日。東の山々の間から、太陽が昇り始める港町オルレオにて。ギルたちは、大北大陸行きの渡航船に乗っていた。
「ふわぁ……」
霧が漂う甲板で、海を眺めていたシャロが欠伸をする。肩まで伸びた亜麻色の髪が、潮風を受けてやさしく揺れた。
「シャロさん、ここにいたんスか」
声をかけられて振り向いた。声の主はペレットだ。出てきた部屋のドアを閉めると、彼は慣れた仕草でポケットに両手を突っこんだ。
「うん……涼しいとこにいたら、目ぇ覚めるかなって……ジュリさんも徹夜のとき、冷たい水で顔洗ってるって言うし」
「ふーん。確かにシャロさんの顔、半分オネンネしてますね」
近づいてグイッと覗き込むペレット。シャロの頬を引っ張り、手をはたかれると、その口端がにやりと持ち上がった。
「また夜更かししてたんスか? 寝なきゃもたない身体のくせに、よくやりますよねぇ。ほんと学習しないんだから。アンタ、ほんとに同じ16ですか? 俺たち、頭の性能にずいぶん差があるみたいっスねえ」
「うっ、うるさいなぁ……ウチも後悔してるよ! けど、あの嘘みたいに難しいパズルが、ようやく完成しそうでつい……ふわぁぁ。逆に、ペレットはうざいくらい元気だね。いつもぼーっとしてるのに、ジュリさんからやばい薬でももらった?」
「まさか! 俺、夜中は冴えてるんスよ昔から。ジュリさん曰く、夜型ってわけじゃないらしいんスけどね。寝たくても気が休まらなくて……アンタたちが起きてくる頃、ようやく眠くなるんスよ。つまり」
ペレットは、2本指をぴっとシャロに突きつけてウィンク。
「もうじき俺は倒れます」
「自分でベッドに行くんだぞー、絶対運ばないからな」
呆れたように目を細め、羽虫を扱う動作で追い払うシャロ。ふと、その動きが止まった。
「そういえば、さっきウチのこと探してなかった?」
「あー、そうっスね。『トランプしたい』ってギルさんが言ってたんで、頭数増やしにきました」
「『シャロちゃんと遊びたい』くらい言えよ。けど、トランプって今から? いいけどウチら、これから3日間も船に乗るんでしょ? 今から遊んだら、ほんとに暇になったときしんどくない?」
「そこはご安心を。チェス・パチーシ・マンカラ……他にもいろいろ出せますから。全部ジュリさんのですけどね」
ポケットから出した手に、トランプのひと塊を召喚するペレット。彼は手慰みに、見惚れるような不思議な手捌きでカードをシャッフルし始めた。
「俺がいれば、荷物に悩まされることはありません。使える男でしょう? 誰かさんと違って」
「今ディスる必要あったか?」
「ディス? 別に、シャロさんが荷運びで役に立たないとか、むしろお荷物側だなんてそんなことは……」
と、そのときだった。ふいに強い風が吹き、掴み損ねた数枚が海のほうに煽られた。
しかしペレットは動じない。手持ちをポケットに避難させると、海上を舞うカードに手を差し伸べた。直後、カードが手中に戻ってくる。
高速移動というよりは、地点Aから消えてBに出現した。そんな挙動だった。
ペレットは、掴んだ数枚もパーカーのポケットにねじ込んだ。
「ふー、危ない危ない。内緒でパクったジュリさんの私物、速攻で濡らすところでした」
「いっそ濡らして怒られてほしかったケドね。っていうか」
能力特有の、奇怪な現象を見せられたシャロは、いつかのように口を尖らせた。
「気になってたんだけど……ウチら、船に乗らなくてもよくない? ペレットの、その……能力があれば、国と国の行き来くらいスキップできると思うんだケド。いろいろ自慢してくるくせに、その辺気が利かないよねー」
思い出していたのは、ウェーデンの城を襲撃した夜のことだ。あの日、シャロたちは拠点に帰るために『転移陣』を使用した。
『転移陣』とは、空間を操るペレットによる産物だ。どんな長距離でも、一瞬で複数人を移動させられる優れものなのだが、今回もそれを使えば時間短縮になるはず。
シャロが考えを説明すると、ペレットは首を傾げた。
「あれ。シャロさんには言ってないんですっけ。俺の特殊能力『空間操作』は、行ったことのある場所にしか移動できないんスよ。残念ながら今回の遠征の地、アンラヴェルには行ったことがないんで、そういうわけにはいかないんです」
「えっ、そうなの? 2、3年の付き合いだけど初めて聞いた気がする……じゃあ、ウェーデンには行ったことがあるってコト?」
「はい。行ったことあるっていうか、俺の出身地っスね。ま、記憶も思い入れもないんスけど」
「えぇ!?」
驚愕するシャロ。生まれ故郷を襲っても、悪びれる様子のない少年に、彼はやや引き気味だった。とはいえ戦争屋に道徳を説いても今更だ。シャロは言及を諦めて、甲板の手すりにもたれかかった。
「そう……で、トランプだっけ。いいよ、マオは参加するの?」
「はい、マオラオくんも参加します。ちなみにギルさん発案で、ゲームには順位を設けて、1位の人は4位の人になんでも1つ命令が出来る、というルールでやります」
「ふーん? いいじゃん、やってやろうじゃないの。ペレットをあの手この手で叩き落として、1位になったウチが靴の先っぽを……」
そこで声が途切れた。渡航船が突如、重厚な作動音とともに起床し、前後に大きく揺れたのだ。どうやら出港時刻になったようだった。
「わっ……ととと、わぁっ!」
シャロはたたらを踏んで、間抜けな悲鳴と一緒に転倒。手すりを超えて海に滑り落ちてしまう。すぐに大きな水飛沫が上がり、ペレットは目を丸くして駆け寄った。
「は!? アンタ何してんスか!?」
急いで海面を見下ろすが、シャロの姿は見当たらない。作動と同時に起こった排気で、特殊な海流が生まれて巻き込まれたのだろうか。
確かシャロは泳げたはずだが、空気を吸う暇はなかっただろう。船底まで沈んだなら、浮上する前に窒息するに違いない。
それに出港した以上、タラップは回収されて船に戻る術がない。それこそ、ペレットの『転移陣』でもなければ、彼はここに置き去りになるだろう。
「は~~ったく……人は召喚できないんだから、直接行くしかないじゃないっスか……あンの馬鹿野郎……!」
乱暴に頭を搔いて、パーカーを脱ぎ捨てるペレット。彼は鮮やかに手すりを超え、秋の朝の冷たい海に飛び降りた。
なお、この献身も彼の罪状は清算しきれず、天の定めか後のトランプ大会では彼が最下位だった。
*
渡航3日目。その晩、ギルたちは休憩のため停泊した小島にやってきていた。
「休憩は1時間や。遅れたら置いていかれるから、早めに食うようにしたってな」
マオラオ先導のもと、港付近の酒場に入店する一行。なお、4人とも現在20歳未満だ。この世界の未成年者であり、飲酒を許可された歳ではないのだが、その辺りは犯罪者らしく全員気にしていなかった。
ベル付きの扉を開けると、顔に圧すら感じるほどの熱気と酒気、酔った船乗りたちのご機嫌な会話が彼らを出迎えた。
最後尾を歩くペレットが、顔をしかめて鼻をつまむ。
「うっ……思ったよりキますね。俺、窓が近いテーブルがいいです。出来れば俺の椅子は、その中でも1番窓に近いやつで……」
「すまんな、こないなところ連れてきて。この時間やと、酒出してる店しか開いてないねんな」
「それは別に構わないんスけど……アンタたちはよく耐えられますね。ギルさんは能力があるとして、マオラオくんはどうなってるんです?」
「いつかのパーティーじゃ、酒樽3つ開けてもけろっとしてたよね、マオ」
「肝臓もそうだが、胃袋もどうなってんだ。コイツ、実は人間じゃねェんじゃねーの」
などとやりとりしつつ、4人は窓のそばのテーブルに着席。文字が読めるシャロが注文をすると、ギルがジュリオットの秘蔵ワインを割った話で盛り上がった。
「……ちっ」
そのそばで、小刻みに片足を揺する巨漢の存在には、まだ気づいていなかった。




