(´・ω・`)
コォォォォ、フシューー。。
ギギッ
テラスが、エアロバイクの重量で軋んだ音を立てる。こんなものが空を飛ぶんだから大したものだ。
部屋に入ろうとしたが、鍵がかかっていた。まぁ、盗掘者では無いから、入れなくても問題ない。
それに、テラスは自由に使わせてくれるらしい。椅子に腰掛け、机の上に、アイテムバッグから、魔女サーシャから、分けて貰ったハーブティーのポットを取り出して、カップに注ぐ。お茶の葉から入れるのは難しいので、ポットに作って貰った一品。
あぁ、美味い。持ってきてよかった。この大自然のロケーションで飲むハーブティーは、ことさらに贅沢だ。
お昼寝用のハンモックがあったので、レイは、そこで寝てもらってる。しかし、どれくらい人が入ってないのかは、知らないが、廃墟にならず、綺麗な状態を保っていた。
家精霊が、住み着いているのだろう。恥ずかしがって出て来ないのか、はたまた見る素質が足りてないのか、おじさんには、分からない。
「んん。お婆ちゃん家だ。」
「起きたか、レイ。良ければハーブティーを飲むか?」
「ん。後で貰う。」
とてとて、と迷いない足取りで、玄関に近付く。そして、ガチャリと扉を開いた。
「え?鍵が掛かっていなかったか。」
「ん。家精霊に認められたら開く。どうぞ、ゼル。」
「あぁ、お邪魔する。」
招かれないと入れないとか、知らない間に、吸血鬼になってしまったようだ。ハーブティーは、湯気をたてていたが、好奇心が勝ってしまったので、そのまま、部屋についていく。
廃屋なのに、家具は、隅々まで磨きぬかれたかのように綺麗だった。科学技術の結晶お掃除ロボットの何世代も遥か先。ルンバには出来ない極致だった。
全体的に、白い木で、統一されており、所々赤いラインの装飾が施され、上品で可愛い。そして、生活感のないホテルのような内装だった。
「掃除が行き届いてる。家精霊、凄いな。」
「え、そこ?でも、家精霊が、気に入らないものは、ゴミとして捨てられる。」
となると、ほとんどの持物が捨てられる恐れが。あと、おじさんは、ゴミじゃないから。頼みます、見逃してください、家精霊さま。
「我も捨てられないと良いのだが。」
「ゼル、大丈夫だよ。食事を用意するから、その辺でゆっくりしてて。」
「珍しいな。作ってくれるのか。」
「ん。錬金で疲れてたから。」
「そうか、無理しなくても、いいんだぞ。携帯食も持ってきたし。睨むなよ、分かった。レイの料理は好きなんだ。期待してる。」
「あの、。後で、話したい事がある。」
「あぁ、分かった。席を外そう。」
時刻は、夕方。1日が終わり太陽がその役目を終えて日が沈みだす。テラスに出て、椅子に座り、沈みゆく夕日を眺める。室内も素敵だったが、赤の森が見えるエルフが創ったこの天上のテラスには、敵うまい。
夕陽の赤が、森の赤と混ざり、ココロが震えた。太陽は、森の赤に染まるんだと、ここでは、そんな、いい伝えがあるのかもしれない。
すっかり、冷めてしまったハーブティーを楽しむ。華やかさは、熱とともに消えてしまったが、繊細さが際立ち、これはこれで好きだった。
消えゆく太陽の煌めく朱を堪能すると、夜の時間が訪れる。目が慣れるまで、1番暗く感じる時間。
ふと、灯りが点る。精霊光だ。それは、戯れるような自然の光り。しかしながら、他の主人が不在の家々は、暗いままだ。外観は、綺麗なままなのに。
ショッピングモールの閉店に、ひとり取り残されたかのような感覚。
歳月を感じさせない家精霊の仕事のおかげで、まるで忘れかけていたが、ここはチュワークに奪われていた土地、ゴーストタウンだった事を思い出す。
ハーブティーも飲み切り、寂しさが胸に居来した。もう一杯お代わりをしてもいいのだが、おそらく、この胸を巣食ってしまった寂しさは、温かくはならない。
感傷という感覚だろうか、夜の帳とそれを受け容れる。2つの月が、全てを照らし、家主の帰りを待ち続ける家々の姿が、ハッキリと見えるようになった頃、声がかかった。
「ゼル、ご飯出来た。」
「あぁ、今、行く。」
心に、鎮座した万年氷が解けていく。温かくなってきた。この棄てられた町に1件だけ、明かりの灯る家に帰る。




