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レイが失敗したって顔をして待っていた。お洒落なテーブルには、湯気を立てた料理が一皿ずつ。
それは、思い出の料理。異世界で最初の日に食べた、お粥が鎮座してた。見た目は、残念だが、味は美味しかったはずだ。配分ミスだろうか。
「天才である私とした事が、材料が無いの忘れてた。料理は明日から。」
「前は、この料理で、どやっ、てなかったか?」
「この料理は、材料が無くても、そこそこ出来るのが凄いの。明日は本気だす。」
「俺の世界では、明日から本気だす。は、やらないという意味なんだが。」
「悪魔の世界とは違うもん。」
悪魔の世界、悪魔の世界ね、確かにそうなのかもしれない。あそこは、自分にとっては、心の死んだデストピアだった。その場所は、物欲にまみれていて、心がすでに死んでた事にすら、気付けないのが悪魔の世界の恐ろしさ。
「悪い。楽しみにしてる。それに、レイ、この料理も好きなんだ。作ってくれて、ありがとう。」
「ん。」
普通に美味いな。例えるなら、世界の科学が、さらに進み貧富の差が隔絶された時に、最下層の住人に与えられる餌だ。それは、コンビニ弁当の未来系。
変な例えになったが、コンビニ弁当より美味い。そういえば、あれも10年前と比較して劇的に美味くなった。
☆
食事が終わり、腹も満ちたところで、そろそろ本題に入ろうか。
片付けられたテーブルを挟んで、緊張した面持ちのレイが座り直す。その顔は、憂いを帯びている。
小さなハーフエルフの少女は、その両肩に十字架を背負っていた。
おもむろに、アイテムバッグから、魔女サーシャのハーブティーのポットを出して、ゆっくりと優雅に、レイのカップに注ぐ。
「レイよ。話したいタイミングで話せ。むろん、話さなくても構わない。」
部屋に広がる森厳なる森の香りが、心を落ち着ける。ささくれだった心を癒やす。それは、お婆ちゃんの優しさ。いずれ来るこの日の為にレシピを教えて貰い再現を試みたが、駄目だった。おじさんは、いろいろと出来ない事が多すぎる。
魔女サーシャは、もちろん喫茶店ではない。だから、この時間の為だけに、頼み込んで、特別に作って貰った一杯。
お願いします。探求の魔女サーシャよ、この子の傷をどうか癒してあげてください。
静寂な時間と、森の香りが混ざる。
コトリと、レイが小さな塊をテーブルの上に置いた。習字で使う墨のような物。
「それは?」
「お婆ちゃんの魂の欠片。」
その塊の欠片は、遺骨、位牌のようなものなのだろう。テーブルに置かれた魂の欠片に、光りがくるくると、集まってきた。
「なんだ?光りが、光りに包まれている。」
「ゼルには見えないのね。家精霊が、集まってる。この子達、お婆ちゃん好きだったから。悪魔の力を取り戻したら、精霊の姿が見えると思う。」
「そうか。」
「・・・ごめん。ごめんなさい。」
「何があった?」
レイの瞳には零れそうな涙が溢れてる。
「赤の森に、チュワークを呼んでしまったのは、私。この家を売ってしまったのも私。」
「安心しろ、すでに取り返した。何があった、教えてくれないか?」
「ひぐっぅ。うぇぇぇん。」
「辛い事を聞いた。だが、心の棘を抜くには、傷と向き合う必要がある。ゆっくりで構わない。待つから、ゆっくりでいい。」
「うぇぇん。」
泣き疲れ、落ち着いた赤く目の腫れたレイが、ぽつりぽつりと、話してくれた内容は、クソみたいな話だった。チュワークの野郎、許さねえ。
赤の森に、接する氷結大森林から、迷い込んだ迷い木から、ドロップした選別の枝。この枝から、幼き天才錬金術師レイが開発してしまったのが、忌まわしき勇者薬。
捨てたはずの勇者薬が、極悪非道な勇者協会の目にとまり、これを略奪すべく、チュワークの侵略計画が始まった。つまり、敵を呼んだのはレイと言えなくもない。
赤の森に迷い込んだ人間の学者。それは、チュワークの尖兵だった。敵意の無い外見で近付き、地図と家系図を書いているので家々の名前が知りたいとの名目で、詐欺契約書を次々と記入させ、様々な権利を巻き上げた。全ての権利をまとめあげ、赤の森を奪われた。今にして思えばこの学者は、青の契約書で操られていたのだろう。そして、この家の権利を、親切心に付け込まれ渡してしまったのは、レイだ。
チュワークは、勇者薬の製法が分からなかったが、レシピが部屋に残っていたため、偽薬という劣化薬の開発に成功した。そして、今もなお、この森に存在しない、選別の枝を探し求めてネズミがウロウロしている。
もっとも、選別の枝は、珍しいが、高難度の森でドロップするアイテムなので、偽薬が、新しい勇者協会の商品として、街に蔓延するのも秒読みかもしれない。
「そうか。」「それは辛いな。」「大丈夫だ。」「よく話してくれた。」
一切のアドバイスは、しなかった。説教や助言は、この天才に必要ない。共感し、ただ受け止めた。
美しき、ハーフエルフの娘、「マーシャル、レイ、ヴィクトリア」は、涙を拭う。その顔に、もう迷いは無い。赤く腫れた目は、強く輝いていた。
「お婆ちゃんの魂の欠片を森に還したい。ゼル、送って。」
「良いだろう、案内してくれ。」




