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エアロバイクで、空をかっ飛ばす。バリア機能があるので、風も気にならない。初心者平原を抜け、迂回が必要な岩山、荒れ地を、睥睨し、すいすい越えてゆく。
何者にも邪魔されない自由。重力から、そびえ立つ岩山から、悪意ある魔獣から、人々のしがらみから、解放される。面倒くさい事をすべて、置き去りにして、前に進む。
それは、圧倒的な爽快感。
コォォォォ。
「ゼル、気持ちいい。あそこ、ゴブリン小さい。あの岩山、変な形。」
「そうか。良かったな。」
お気に召したようで、何よりだ。レイが後部座席から、興奮して背中をパンパン叩いて、発見したものを、いちいち教えてくれる。
可愛すぎかよ。
「ゼル、あのね。」
「なんだ、レイ?」
「ゼル、すごく格好良いよ。」
「恐悦至極。」
嗚呼、目標が1つ叶った。借り物のチカラだが、それで十分だ。
背中に、のの字を書きながら、レイは言葉を贈ってくれた。ニヤケが、ニヤケがとまらない。きっと、今、悪い顔で笑ってる。
あとは、チュワークの最後の悪あがき、100の要求を片付けて、目標達成だ。
覚悟は、あるか?何の為に生きている。だらだらと目標もなく生きているのか?それは過去の俺だ。死んでいた。いや、体は生きていたが、心が、死んでいた。
覚悟は、ある。レイの笑顔のためだけに、己の全てを使い果たす、あの日、そう決めたんだ。
だから、レイよ、なんの屈託もなく笑ってくれ。時折、見せる寂しそうな顔は、必ず、俺が終わらせてやる。
赤い物が、見えてきた。レイが、くいくいと引っ張って教えてくれる。
近付くにつれて、だんだんと大きくなってくる赤の森は、圧巻だった。そこは、レイの産まれ育った場所。
卑劣なる大商人チュワークにより、蹂躙され立ち入る事が出来なくなっていた、奪われた大切な土地。
エルフの民よ、先祖の土地を奪還したぞ。まだ、異物が排除出来ていないが、近い内に、汚物は浄化する。約束しよう。
「うぐっ、ひくっ。」
レイは背中で声を殺して、泣いていた。爪が、掴んだ背中につきたたり、堪えていた。
おじさんの背中の痛みより、もっとその心は、痛いのだろう。ずっと我慢していたのは知っている。でも、これ見たら耐えられないよな。
生まれ故郷の暴力的に美しい景色。初めて見たおじさんだって、心が揺れる迫力がある。自分の心を偽るのは、この雄大な自然の前では不可能だ。だから、無理するな。
「レイ、頑張ったな。泣きたい時は、泣けばいい。背中は貸してやる。」
「うぇぇぇぇん。」
赤の森に、入り、その上空で停止する。
眼下の片隅で、チョロチョロと我が物顔で、土地を荒らしながら、闊歩するネズミ族が目に入った。彼らは、貪欲さ、醜悪さ、卑劣さというような人に受け容れ難い性質があるため、良いネズミは、少ない。現に、今も枯葉剤のようなものを撒いたり、木を噛り散らかしたりとロクなものでは無い。
能力が低いが、繁殖能力が優れている。簡単に殺され、簡単に生まれるそういう実に、不愉快な種族だ。
レイが泣きつかれ、すやすやと眠りについたので、移動を再開する事にした。
懐から地図を取り出して確認し、レイの産まれ故郷、ポプの集落へ向かう。
小さい頃に家族で紅葉狩りに出掛けた事がある。そこで見た風景に、この赤の森は、どこか似ていた。それを延々とデカくした狂気すら感じる美しさを秘めた森。
木の上に作られた建物群が、見えた。どうやら、到着したらしい。
いくつかの建物は、土台の木ごと、なぎ倒されていたが、その殆どは無傷だった。良かったと胸を撫でおろす。
どういう技術かは、分からないが、ツリーハウスとでも言えば良いのか。上にある家々は、上空の吊り橋で繋がっていて、かなり、お洒落な建築集落。
驚くのは、吊り橋の上にアーチがあり、移動の際も濡れないようになっている事だ。
まるで、空中に浮かぶ小さな町といった様相を見せている。
その中で一際大きい建物にあるテラスへと静かに着陸した。




