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穏やかな空気が流れ、自由への扉を開け放ち、チュワークの地下下水道帝国から帰還しようとした時だった。
ポチョムキンの体がブレた。ドンッという衝撃音。
化け物が、やって来た。
次元の違う存在。
投げられたのは、人、獣人、先程ここまで案内させた犬の獣人スパニエル。そのやって来た漢に、軽くゴミを捨てるかのように、投げられただけだ。
身長160cmくらいの背は高くない筋肉風船。が、圧倒的なその身に内包するエネルギーが、周りの空気を揺らす。オーラだ。修行していない一般人のゼルにも、オーラが視える。
ヤバいヤツがきた。いや、もっとシンプルに言おう、化け物が来た。その男は勇者の末裔。彼の名は、
theプロテイン!!
「す、凄い、筋肉だ。完璧な筋肉、デカく密度が違う。カットが、このように入り得りえるものなのか。それでいて、ナチュラルだ。」
思わず、場違いな称賛が漏れる。完成形だった。ボディビルダーの枠を超えた闘争する筋肉。昔、ジムに通い5日で辞めた先にいたビルダーとは、異なる見た事の無い野生の凄みのある完成形がここにあった。
「ぐふふ、フツーだ。」
暴力的な威圧を放つ筋肉の塊は、その抑えきれない攻撃力を滲ませながら、のしのしと近付いてきた。
チュワークの気紛れな用心棒。勇者協会で繋がってるだけで部下では無い漢がやってきた。チュワークは、この漢が嫌いだが、絶大な信頼を寄せており、勝利を確信した。
「な、何故だ?隣街にいるタイミングを狙った。ルーカスの情報が外れたのか。」
ドヒュッ
爆風が巻き起こる。思わず、目を閉じる。目の前から、筋肉勇者が消え、信じがたいが、後ろから声が聞こえる。
「ぐふっ、良く知ってるな、確かにいた。チュワークが魔道具で、惨めに助けを呼んだから、軽く走って帰ってきただけだ。」
「こんな事、あり得るのか?」
ぎぎぎ、と油がきれたブリキ人形のように、後ろを振り返ると、部屋の中に、暴力的な筋肉がいた。筋肉勇者は、爆発的な筋肉で地面を蹴り、移動したのだった。
筋肉勇者と呼ばれる人間が、早く動けるとは誰が予想するだろうか。駄目だ、ここが、異世界である事を失念していた。常識が通用しない。
「ザ!プロテインは、ヤワな筋肉じゃねぇ。こんなのフツーだ。」
その時、ポチョムキンが受け止めていた、ゴミがピクリと動く。片腕を、軽く握り潰された犬の獣人は生きていた。いや、死にかけだった。
「お、おいっ、生きてるのか!死ぬなっ。」
ポーションを無理矢理、敵に飲ませるゼル。彼は、博愛主義者では無い、では無いが、犬が好きだった。飼っていた事はないが、よく、隣の家の足の悪くなった老人が、飼っていた犬に、餌を与え、小屋の掃除をし、散歩に連れていっていた。
ポーションを無理矢理飲まされ、光りに包まれ、回復する犬の獣人。
「ごふっ、着ぐるみの旦那、何やってんだ、俺ぁ敵だぞ。」
「そんなの関係ない、何て酷い事をするんだ、プロテイン!」
「ぐふっ、罰を与えただけだ。負け犬は死んでもいい。少し、罰が足りなかったか?」
弱者を痛ぶる強者の目、イジメる者、特有の底意地の悪い顔。のしのしと、近寄り追撃をしようとしたが、その間に、ゼルが本能で割り込む。
筋肉勇者「theプロテイン」は、筋肉を称賛したゼルを殺すのは、少し惜しいと考え、貫手を止めたが、僅かにその指先が入る。
ゼルの柔らかいお腹に、theプロテインの指が、僅かに突き刺さった。
「おっと、まぁこれで、罰は赦してやろう、ぐふふふ。」
theプロテインは、手をビシュッと振り、手に付いた血を綺麗に吹き飛ばす。
ゼルの着ぐるみが赤く染まり、ぽたぽたと、血が溢れる。アドレナリンが駆け巡り、痛みは無かった。
「ゼ、ゼル。」
「着ぐるみの旦那っ!」
「大丈夫だ、問題ない。」
格好をつけて、慌ててレイが差し出した、ポーションを、手で断るように、制する。
しかし、傷が、熱を帯びドクドクと鼓動し、じくじくと痛み始めたため、格好つけて制した手をわきわきと動かし、不安な顔で太ももを晒しながら出してくれたレイのポーションを受け取り、有り難く飲んで回復した。
体が光に包まれ、痛みが消えて、着ぐるみは、血まみれのままだが、完全回復した。
「ぐふふふ、それにしても弱いな、お前ら。筋肉だ、筋肉が足りていない!ふはは。」
哄笑する絶対強者、theプロテイン!
「むん、弱くないニク。」
世の中の構図は、弱者は強者に搾取される。否、そのような事は許容出来ない。ポチョムキンの無謀なる反撃が始まる。




