(´・ω・`)
マリナの悲しそうな顔が、頭にこびりついて離れない。赤の森を取り返すことの何が問題なのか分からない。この世界について知らない事が多すぎる。
歩くような速度でノロノロと魔導バイクを走らせたが、前は見ているが、集中できず、ぼんやりと、ただ景色が流れていく。マリナは、自分の中でそれなりに大きい存在である事に気付いて、自嘲する。
ふと誰かに呼ばれたような錯覚を無視して、思考への没頭を再開したのだったが。
「痛っ。」
何かが、ぶつかった。頭に軽い衝撃が走る。いや、何かを投げつけられたようだ。バリアをオンにしてから、頭に投げつけられて、着ぐるみの毛に引っかかった物を見るとバネのような物だった。この世界にしては珍しい科学の痕跡のする一品。そして、投げつけた犯人と、目が合った。
「着ぐるみの人、私を無視しようとか、いい度胸です。」
ジャンク魔導具店の娘さんが、ぷんぷんと怒ってる。そして、この前は持っていなかったキラキラと艶めく赤の綺麗なバッグが、存在感を放っていた。
「なんだ?ジャンク屋。今、少し考え事をしていてな。構っている余裕は、というか、貴様に用事があったな。」
「そんな事よりも、私に、何か言うべき事があるはずです。」
「いや無いが、え、えーと、素敵なカバンが似合ってるね?」
「やはり、隠しきれませんか、新作バッグのこの絶対的なオーラが。しかも、限定100個ですよ。すごく高くて諦めかけていたけど、ぼったくりジャンクが売れて、本当に良かった。本来、このハイクラス品が持てるのはお貴族様だけ、あぁ、私も深窓令嬢の仲間入りをしてしまいました。なんと美しいお嬢様ですって、あら、ありがとう。お気持ちは、嬉しいのですが、私は、王子様を待っています。惚れては駄目ですよ。」
金貨1枚(100万円)の臨時収入を、さっそく、無駄遣いしたらしい。物欲の亡者であるが、笑う姿は年相応に可愛い。似合ってるよ。
そして、珍しい事に、店の前には先客がいた。初めて他の客を見た気がする。
先客であるドワーフは、ジャンク魔道具店の店先に置かれた魔導バイクのような形をしたジャンクと格闘しながら唸っていたのだが、ついに声を荒げる。
「駄目だ、姉さん。たぶんこりゃ部品が足らねぇよ。だいたい車輪が、無ぇ。」
ドワーフの厳ついおっさんは、丸太のように太い腕で、困ったように頭をかく。
「車輪って?」
「丸いヤツだ。魔導車なら、キラーハムスターが入ってる心臓部だ。そうよ、コレ、コレ。」
魔導バイクに駆け寄り、車輪を指差す。
「これは、見た事、無いです。」
「なら、お手上げだ。なかなかミスリル鉱山が見つからねぇ。また、面白そうなネタがあったら呼んでくれ。」
用はすんだとばかり、お酒を片手に、のしのしと帰っていくドワーフ。諦めが、ついたらしい。
これに、あわわと焦ったお姉さんが、次なる標的を探しだす。そして、またまた目が合った。にっこりと、営業スマイルで微笑まれる。
「いらっしゃい!ジャンク魔道具店に。素敵な魔導バイクにお乗りですね。そんな貴方に、お勧めが。特別に、夢の塊はいかがですか?御値段たったの小金貨2枚(20万円)」
「高いぞ。ジャンクはいらぬ。」
「てへっ、貧乏人さんには、過ぎた話でした。」
「ふふ、ジャンク屋の小娘よ。買えないのでは無く、買わないのだ。なぜなら、今、小金貨5枚を所有している。」
「そんなっ、駄目、買ってくれないと。家賃が。」
どうやら、この娘、ギリギリの生活をしているらしい。高級バッグのせいだと思われる。悲壮な顔で、よよよと泣きまねをするが、高級バッグが、キラキラと光るため、説得力が、まるで無い。
「バッグを売れば良かろう。」
「私の大切なモノを奪おうと言うの、この悪魔め。」
「悪魔だからな。それより、今日は儲け話を持ってきた。」
「私、高いですよ。それに初めてだから優しくしてくれないと泣く。」
「先程から、誤解を生む発言はやめて貰おうか。許可がとれた。オークションの件だが、のってもいい。」
「手数料は、20%。」
「良いだろう、成立だ。」
「マジですか!これは、ついにミスリル鉱山当てました。家賃、いえ、家が買えちゃいます。そして、新作アクセも。」
「金がいる。高く売ってくれ。」
「そんなの当り前です。着ぐるみの人。」
がしっと拳を合わせた。これは、頼りになるパートナーだ。信頼した目でお互いを見つめる。ドキドキと心臓が高鳴る。恋では無く、共に野望に燃える高鳴りだ。
「私達、パートナーですよね?」
「その通りだ。」
「実は、下準備のお金が無くて。でも貸してくれなんて、パートナーにも言えません。だから、この夢の塊を小金貨5枚(50万円)で買ってください。」
「こ、小娘。」
有り金を、全部、毟られた。信頼とはなんだったのだ。いや、宣伝費とか、必要経費なのは分かるんだが。やり返さなければ。
しかし、夢の塊(魔導バイクに似たジャンク)は重そうだ。活性化3発でギリギリ持てるが、反動がくる。そうだ、ポチョムキンを呼ぼう。ポチョムキン!フフフ。初めて役に立ってくれそうだ。
「ジャンク屋の娘よ、一件が片付くまで、警備員を貸そう。」
「ありがたいですけど、お金が払えないので。」
「遠慮するな。維持費も込めて、こちらで持つ。俺たち、パートナーだろ?」
「き、着ぐるみの人。」
「後で、派遣する。名をポチョムキンという。」
うるうると感動で潤んだ瞳が、別のうるうるに変わるのは、すぐ後だ。パートナーは、苦労を分かち合おう。
☆
「むん。よろしくニク。」
「あの、悪魔め。」




