(´・ω・`)
「ゼル、酔った。」
「大丈夫か。安心しろ、レイ。目的地には着いた、少し安めば良くなるであろう。」
「なでなでを所望。」
「う、うむ。」
いちゃつきながら、セーフティスポットで休憩をとる。レベルアップ酔いなのか乗り物酔いなのか、レイはぐったりしていた。
どうにも先客の冒険者がいたらしく敵意のある目つきで睨んできた。若く、男だけで構成された4人組のパーティーだ。
「ちっ、いいご身分だな、着ぐるみ野郎。」
「どうした?同じ冒険者どうし仲良くしようではないか。」
「ふざけんな、舐めてんのか着ぐるみ野郎。そんなナリで何しにきやがった。いいか、ここのボスは俺らが倒す。」
「ちょっ、やめとけ、こいつバルカンが言ってた悪魔野郎かもしれない。」
「我は、この周辺の草むしりに来ただけだ。迷惑はかけない。」
「はっ、草むしりだと、植物系のモンスターは、下の階層のボスだ。馬鹿にしやがって、悪魔か何だか知らんが、気分が悪い。いくぞ。」
「すまねぇ、リーダーには悪気は無いんだ。あっ、草刈りするなら、この鎌やるよ。ドロップアイテムなんだが、これは、換金率が悪いから。」
「あぁ、ありがとう。」
移動した冒険者を後に、草むしりを始めるゼル。ザクリ、ザクリと切って採取する。あらかた採取が終わり、レイの異次元ポーチに格納したところ、他の冒険者の救援を呼ぶ笛の音がした。
ピィィィー
「む、近いな。さて、どうするかな。」
「ゼル。」
「なんだ?」
「お手手、汚れてる。完全洗浄」
「ありがとう、レイ。少し焦っていたようだ。」
他人の心配より、まずは自分の事をする必要がある。汚れた手では、操作を誤るかもしれなかった。勇者でも無いのに、少し力を手に入れたからと、増長していたようだ。しかし、お節介かもしれないが、助けたい。他人のピンチに、スマホを撮って騒いでるだけの傍観者には、なりたくない。
動く、今なら動ける。
「レイ、可能なら助けてやりたい。それに、試し撃ちのいい機会だ。」
「ん、いいよ。」
ドルン。ドッドッドッドッ。
魔導バイクのアクセルをひねる。ゼルは自分の弱さを知っている、レイを危険に晒してはいけない。攻撃して即、撤退だ。助けられなくても撤退だ。それなら、安全を確保できるだろう。
ぐぉぉぉっ、魔導バイクは吠える。救援の笛の音がした場所を目掛けて、魔導バイクは疾走する。
「ふざけんな、植物系モンスターじゃねぇか、硬すぎるっ、全然攻撃通らねぇぞ。なんでここを徘徊してるんだ。」
「慌てるな、リーダー。一か八か、救援の笛は、鳴らした。今、出来る事をするんだ。」
「あの、悪魔が言ってた。草むしりってこれの事か。」
「痛ぇぇ!一発くらっちまった。もう駄目だ、囮になるから、お前ら逃げろ。」
「うるせぇ、激マズレーション食べとけ。」
びゅん、びゅんと、触手のようなツタを振り回し、ガサガサと歩き回る巨大なツリー系のモンスターに、先程の新米冒険者達は、襲われていた。
ぐぉぉぉん。
「何だと?後ろからも魔獣がきた!」
「いや、落ち着け、さっきの着ぐるみ野郎だ。助けに、助けにきてくれたのか。」
「知らねぇよ、悪魔だろ。嘲笑いにきただけかもしれないっ。」
植物系モンスターは、思ったより硬そうだった。所々、斧の斬撃や焦げ跡があるが、強そうだ。恐らくは、下の階層のボス級。特異モンスターがなんの間違えか、徘徊していたのだろう。
ゼルは、硬そうな外皮を見て、魔導バイクによる轢殺は諦める。そして、冒険者達と合流し、魔導砲のスイッチを入れた。
ガゴンッ
「よぅ、助けがいるか?」
「くそっ悪魔め、何が望みだ。何でもくれてやるから、助けろ。」
「何もいらぬ。ただ一撃だけ、チカラを貸そう。その間、我を守れ。」
「はぁ?」
フォォォー
エネルギーがチャージされていく。不満げな若造が抗議してくるが無視だ。魔導バイクの先端から、出て来たレーザー砲のような物に、すべてをかける。
メーターパネルは、照準のようなグラフィックに変わり、出て来たトリガーを握る。
最悪な事に、気付けば、モンスターに近づきすぎていた。状況は悪いが、今更、後悔しても遅い。迫る鞭が恐怖を煽る。目の前の若造が盾でガードした。嫌な衝撃音がする。飛び散った木片が、くるくると回りながら高速で顔を掠める。頬から、血が滲む。
ドクドクとアドレナリンが流れる。すぐに逃げ出したい気持ちを抑え、深く息を吸い、ふーっと息を吐きながら照準を定める。確実に一撃当てる。大丈夫だ、白の部屋に入れたなら、これくらいのプレッシャーは、余裕だ。むしろ、もう一度入る。獲得した白の部屋の鍵が輝く。
ツリーの魔物は、植物を思わせない俊敏な動きだったが、あの感覚を思いだせば、問題無かった。
極限まで高められたゼルの意識は、高次元へと到達した。まずは、音が引き伸ばされる。そして、動きがスローモーションになる。そして、見える。魔獣の荒れた木肌が、生々しくハッキリと見える。
音が消えたっ!
風景が消える。来たり、白の世界。
凡人の彼には、長居する事の出来ない神の領域。すべての雑念が消え、この部屋にいるのは、魔導バイクに乗ったゼルと、植物の魔物だけ。
この部屋には1人で来たが、大丈夫、背中には、あの温もりがある。全幅の信頼を寄せてくれる小さなお手手の温もりが。だから、緊張は無い。やれる。
この一撃は、確実に当たる。トリガーを引く前に、結果は分かった。
ガチリッ
バシャッッ!!
魔導バイクの先端から突き出たレーザー砲から、放たれる魔導砲。視界を白に染め上げる眩しい光、焦げた匂い。
バリバリッ
幹の裂ける音がする。木の魔獣には、大きな穴がポッカリと空いていた。穴からは、燻る煙。その巨大な体は、2つに裂けている、瀕死の一撃を与えた。が、倒しきれていない。不穏な空気。
ゼルは、深追いをしない。優先順位があるからだ。もう次の動きは決めていた。バックだ。即、撤退っ。一撃離脱。
びゅん。目の前を鞭のように、しなる枝が通りすぎる。間一髪だった。痛覚というものが無いのだろうか、瀕死のダメージを負ったツリーの魔獣は、なおもノロノロと動く。生命の火が消えようとしている弱々しい反撃。
躱せて良かったと一安心したゼル。
ぐちゃりっ
後ろに下がった魔導バイクが、何かを轢殺した。おこぼれに与ろうとしたゴブリン共に、いつの間にか囲まれていたようだ。
形勢逆転を悟り、散り散りに逃げ出すゴブリン共。
「うぉぉっ、すっげぇぇ。これが、悪魔のチカラか。」
「反撃の時間だ、冒険者舐めるなっ、木片に変えてやる。」
「やるじゃねぇか、着ぐるみヤロー。」
「くくく、勝った!」
「ふーっ、何とかなったか。」
「やったね、ゼル。」
止めを刺すのは、簡単だった。新米冒険者達の剣が斧が、精彩を欠いたツリーの魔獣を、あっという間に討伐した。
ドロップアイテムを吐き出し、光の粒となって消えた。
「やったぜー!」
喜びを爆発させる新米冒険者達。格上の相手を倒した。湧き上がるレベルアップの衝動が、全員を襲う。
それは、異世界でしか味わう事の出来ない独特の感覚。麻薬に近いなにか。




