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魔導バイクで、月明かりの下、平原を走る。完全によそ見をして、運転は、オートドライブ機能に任せていたら、鈍い衝突音がした。
ドンッ!
事故をおこした?心臓がドキドキする。白い何かをはねたのが、視界の片隅に映った。何をはねたのか確認するべく慌ててブレーキをかけて、停止する。そこには、魔導バイクに轢殺された瀕死の白い棒状の魔物がいた。よく見ると、人面のようなイラッとさせるドヤ顔をしている魔物は、ピクピクと蠢き、光になってそいつは消えた。後には、何も残らない。
「何だったんだ、こいつは。」
「ノードロップ。倒すところは初めて見た、本当に何も落とさないんだ。」
【ノードロップ】
平原にたくさん生息していますが、近づくと地中に逃げるため、討伐の難しい魔物。討伐してもアイテムをドロップしない事から、ノードロップと呼ばれています。ドロップ品は、あまり知られていませんが、地中に落ちます。価値の低いアイテムなので、土を掘るより、肥料にする事をお勧めします。
「いや、脳内電話案内によると、地中にドロップしているらしい。最も、掘り起こす価値の無いアイテムのようだが。」
「そうなんだ。」
平然と会話しているが、ドクドクと心臓の鼓動が、いまだに、おさまらない。事故を起こしてしまったからか、いや事故では無い事は分かって安心したはずだが、動悸は止まらない。と同時に気持ちいい。チカラが、湧き上がる感覚。体験した事のない高揚感。
「それにしても、何か変だ。チカラが湧いてくる感覚があるのだが。」
「え?レベルアップしたのー?」
「ノードロップも、いちおう魔物だからあり得るかも。」
【レベルアップ】
魔物を殺戮し、そのマナを取り込む事で、より上位の存在になる行為。血が湧き、己が書き換わるような感覚を伴い、強化される。マナを過剰に、取り込みすぎると、いずれ人の心を失った怪物へと至るとの噂。
「では、もう数匹、倒してみるか?試してみて損は無いな。ん?こいつら、隠れるのか?」
「そうだよ、倒すのは無理かなー?」
「ん。」
遠くを見ると白い棒がひょこひょこ立っており、ゆらゆらと揺れている。近くの白い棒は、視線が合うと、ひゅんっと、地中に逃げるように隠れた。逃げ足だけは、早い。異常に早い。
近くで見た顔は、腹立つ表情をしているのだが、遠くでよく見えないと、少し、幻想的に見える白い棒状の魔物である。
視線は、かなり遠くまで届くようで、視線を感じて隠れているようだ。なら、問題無い。視線を隠す魔法がある。
「さて、レベルアップの時間といこうか?2人とも、目を閉じてしっかりとシートを握ってくれ。」
「何でー?」
「ん、痛くしないで。」
「何でもだ。別視点。くくく、ノードロップとやら、気付かぬ間に経験値の糧にしてくれる。ボーナスタイムだ、行くぞ。」
まずは、あの集団に突っ込み、モンスターを轢き殺す。次はあの集団だ。その次は、あれ。
ドゥン、ドゥドゥドゥドゥ。
ぐおぉぉん!加速して、平和に突っ立っているだけの白い魔物ノードロップを、弾き飛ばす。
ドドンッ!
芸術的に、飛び散る、白い魔物ノードロップ達。惜しい、1匹、仕留め損なった。魔導バイクのバリアに弾きとばされ、絶命する哀れな魔物達。
気を取り直して、次の標的に襲いかかる。当たる瞬間。機動をフックして、斜めにぶつかる事で、当たる面積を多くする。
てめぇらは、ボーリングのピンだ。若い子は、もうボーリングなんかしないのだろうか?おじさんの時は、娯楽が少なかったから、よく通ったものだ。
だから、昔獲った杵柄とでもいうのかな?それなりに、上手いんだ。
ドパンッ!
よしっ!ストライク。ぐぉぉ、漲ってきた。沸騰した血が流れる感覚、強くなっている。
弱者を痛めつけて、強くなる。あぁ、糞みたいな真実だ。気持ちええ。生まれて初めて、搾取される側から、搾取する側に回っている。
これは、麻薬だ。世の中から糞野郎共が消えない理由が分かった気がする。初めて少しだけ、奴らに共感したよ。だけど、許さないがな。
人間相手に、このチカラを向けた時、人は、怪物になる。
ドパンッ!
無害な、ただそこに突っ立ってるノードロップ共を轢殺する。よしっ!ダブルだ。2連続ストライク、調子出てきたじゃないか。
殺人は、いけない事だ。猫をいたぶって殺す事は、許されざる事だ。
では、ゴキブリは?同じ生命だよ、なぜ殺そうとするの?助けてあげようよ。こんな世迷い言を言う糞がいたら、浄化すべきだ。
なぜなら、ゴキブリとは共存出来ないからだ。
ドパンッ!
哀れなノードロップ共を轢殺っ!この世から居なくなれ魔物共よ。
3連続ストライク、トリプル?間違ってはいない。だがそいつはモグリだ、高らかにここに、宣言する、ターキーだ。訪れる最高の快感っ、達成感。
が、急に、冷水をぶっかけられたように、高揚感は霧散する。
見てしまった。
最初に、仕留め損なった魔物ノードロップに再度、すれ違った時、そいつが、悲しい顔をしている事に気付いたからだ。涙を流しながら、地中に逃げる事なく、そのノードロップは、呆然と立っていた。それを見てしまった。
アクセルを握る手に力が入らない。ゼルは、魔物について、あまり知らない。もしかしたら、こいつらは、共存出来る魔物だったのかもしれない。
僅かだが、その可能性がある。敵だと、ハッキリするまでは攻撃出来ない。
ゼルは、涙を流すノードロップの前にバイクを止めて、ヒラリと降りる。
「おい、魔物よ。お前は俺を殺しに来て良い。俺の名前はゼルだ。」
ドゥン、ドゥドゥドゥドゥ。
バイクに乗り直し、立ち去るゼル。どこまでも甘く弱い男、それがゼルだ。




