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状況を確認しよう。暴走する魔導バイクに乗ったゼル。
後ろからは、華奢な美少女レイが、振り落とされまいと必死に抱きついてくる。しなやかな細い腕、微かな胸の感触。圧倒的な征服感、全能感。
そして、前からは、マリナが、コアラのように抱きついている。その弾力のある巨乳に顔は押し潰され、脳からは快感物質が、ドパドパと溢れるように流れてくる。暗闇の中をキラキラと星が流れていくイメージを幻視した。
苦しい、呼吸がしにくい。すぅぅぅ深く息を吸う。甘い、極上の香り。酸化した脂のような自分の体臭とは違う、爽やかな花の香りが、谷間の僅かな隙間から濃厚な空気を脳に供給する。くらくらする。しかし、酸素が足りていない。
何も見えない。アクセルを緩めて、スピードを落とせば、助かる。が、助かりたいか?否!惰弱な考えは捨てろ、守りに入っては何も得られない。刹那的な快楽に、その一瞬に、全てを、命をかけるべきだ。激しく燃えてこそ、命は美しい。
ゼルは漢だ。最後のチカラを振り絞り、あえてアクセルを回す、スピードを上げる。いこう、誰も到達した事のない楽園へ。シャングリラよ、永遠なれ。
永き眠りから目覚めた魔導バイクは、新しい主の願いを叶えるように、さらに加速する。ぐぉぉぉん!!
「うわぁぁぁ、マリナ、もういい子にするからぁぁ。」
「ゼルぅう、止まって。」
「きゃーー。」
「危ねえ!」
「何だ、何で街の中に魔獣がいるんだ!」
「あの魔獣、女の子を咥えてる!」
阿鼻叫喚とかした街を、3人を乗せて疾走する魔導バイク。オートドライブは、優秀だ。ぐおんっ、ぐおんっと通行人を避けて、ジグザグに疾走する。ついには、壁を斜めに駆け上がり、ジャンプして、壁を飛び越え、自由な新天地へと降り立った。
ぐおぉぉぉ。砂ぼこりを巻き上げ、危険なモンスターが徘徊する夜道を、我が物顔で疾走する。
ゼルは、その時、1人、静寂の中にいた。周囲の音が消え去る、いわばゾーンと呼ばれる世界にいた。そこは、音の無い白い世界。
精神と時の部屋、1流のアスリートが極限まで集中した際に到達出来るという、視界がスローモーションで流れる世界の、1つ上の世界。そういえば分かるだろうか。一握りの人類しか到達した事がないステージに、迷いこんでいた。
「女神よ、感謝します。」
彼は、自己評価が低い。だが、言いかえれば謙虚でもある。栄誉あるステージに辿り着いた事を驕る事もなく、ただ、ただ感謝を捧げた。
白の部屋の鍵を、獲得した。
やりきった表情で、満足そうに部屋を出るゼル。この部屋で修行すれば、1000倍の強さを獲得出来る。しかし、彼は迷い込んだだけ、この世界で長く自我を保つ事は出来ない。結局、何ひとつ修行をせず、この部屋を出た。
☆
ドゥン、ドッドッドッドッ。
疾走した魔導バイクは、少し広い丘の上に停止した。気絶した主ゼルと、疲労困憊の美少女2名は、安全装置の無いジェットコースターから解放された。
「ひゃぁぁ、マリナ生きてるっ、マリナ生きてるよぉー。」
「ゼルぅ、お仕置き、お仕置き確定。」
煌々と白く輝く2つの月が、下草の少ない丘の頂上を照らす。まるで、ステージのようだ。
2人の美少女が月に照らされ美しい。しかし、彼女たちは今夜の主役ではない。言うなれば、主役を引き立てるキャンギャル。
美しいライン、月光を纏って妖しく光るボディ、力強さと工業的な美しさを兼ね備えた、今夜の主役である魔導バイクは、存在感を放ち、まるで、ここがモーターショーであるかのような錯覚をさせた。
本来の主役のゼル?彼は、気絶して地面に死体のよう転がっている。なにか問題が?
「ゼル、起きて。」
「ゼルさぁん、ひどいよ、怖かったんだからー。マリナ、泣きそうだった。」
「んあぁぁ。」
「ゼル、何か言う事は?」
「怖かったんだから、怖かったんだからー。」
「どうやら、帰ってこれたようだ、さっきまで、音の無い白い部屋にいた。」
「白い部屋、女神の部屋?」
「ラピュラスーっ。」
「さぁな、女神はいなかったけど、我が言える事は、ただ1つだけだ!ごめん。」
「よ、ろ、し、い。」
「このもふもふ、安心する。」
素早く土下座し、アタマを差し出すゼル。さも当然であるかのように、そのアタマを踏みつけるレイ。いつの間にか抱きついているマリナ。
魔導バイクは、思った。目覚めたのは間違いだったかもしれないと。
ゼルは、土下座しながら、かつての教えを思いだす。
かつて、前の世界で、浮気がバレて、1時間の土下座をした事のあるパイセンは、語ってくれた。
お前らに言っておく事がある。中途半端な土下座はするな、額は地面につけろ。プライドを捨てきれず、地面から額を上げていた不様な俺からの教えだ。いいか、10分ならいい。耐えられる。だが、30分、1時間ともなると、段々と二の腕が痺れてぷるぷるしてくる。結局は、嫁と、重力には勝てないんだ。だから、最初から額はつけろ。
ありがとうございますパイセン。だけど、下が砂利の場合は、どうすれば良いんですか?尖った小石が痛そうだ。こんなの聞いていませんよ。パイセンの教えを活かせず、ぷるぷると重力と戦うゼル。
そうか!その時、突然の閃き。辛い時に下を向くな、逆境の時こそ、笑え、上を見ろ、というではないか。今、上を見上げるとどうなる?そう、スカートに守られた防御を突破出来るかもしれない。チャンスは1度きりだ。大丈夫、失敗しない。自分を信じろ、行くぜ。ぐるんと上を向くゼル。
「ぷぎゅっ。」
「今日のコーデは、ホットパンツだから、下からも無敵、私、やはり天才。」
豚のように、笑顔の顔面を踏み潰された。忘れたてたぜー。
安売りしない美少女レイ。ゼルの完敗であった。




