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「ここは、天国なのか?」
「違うけど、ゼルが天国と思えば天国。大事なのは、心の在り方。人はフィルターを通して世界を観測。そして、観測された結果に世界は収束。」
「マリナのお部屋だよ?」
魔獣キャンディー社の中に、なぜ個人の部屋があるかは置いておいて、この部屋は、他の部屋のファンシーなイメージと違いメカメカしい何かを感じる。バイク、テレビ、マッスルポーズを極めたゴーレム。部屋一面に置かれた魔道具が存在感を放っているからだ。
「これらは、もしかして魔道具か?」
「うん。マリナは、魔道具集めが趣味なのー。ラピュラスの着ぐるみも、材料に魔道具を使っているの。」
そうか、なら飛べるのも納得だな。なワケ無いだろ。どんな超古代技術で動いているのやら、疑問点があふれる。だが、そこはスルーだ。新人が、やらかしがちなミスに少しでも疑問に思った事をどんどん聞くというバッドな行動がある。一見、知識を深める素晴らしい質問と本人だけは錯覚するが、これが実はとんでもない。
例えるなら、そうだな。スマフォの販売員が操作説明をしているのに、基板の構造や電波の仕組みについて聞いているようなものだ。
世の中、ほとんどの人が理解できていない技術を、当たり前のように使いこなして世界は回っている。構造が、極めて簡単な単3電池ですら、縦切りにして中身を確認した人が何人いる?した事がある?では、リチウム電池は?さすがに無いだろ。まぁ、あったらオツカレサンで終了だ。つまり中身を知る事に、大して意味は無い。コアな内容は、電池を開発する人だけが知っておけばいい。
質問するなら、中身では無く、使い方だ。中身は妖精さんでも構わない。
「それにしても、凄い数だ。よく集めたな。暴走とかしないのか?」
「えへへ、頑張ったの。凄いでしょ。暴走はしないよー。というか、動かないの。ラピュラスに使ってる異次元生命体人形が稼動したのが初めてかな。」
「そうか、せっかく頑張って集めたのに、勿体無い。大変だっただろう。」
「ありがとう、ゼルさん。さすがマリナのラピュラスに認められる人だよー。」
「んん。レイのラプラス。」
レイが、話を混ぜっ返しだしたので、もふもふしたお手手で、綺麗な御顔をムニムニする。清廉な顔つきが、へにゃりと幸せそうな表情になり、再び沈黙した。
マリナの魔道具コレクションを見渡す。その中に、バイクがあった。無性に男心をくすぐる一品。自転車、バイク、車なんて女性には理解されない趣味だ。最高峰のランボルギーニですら、一度だけ乗ってみたいかな?そんなレベルだったりする。
「触って見てもいいか?」
「どうぞ、どうぞー。」
返事だけ良いが、マリナは両腕で、ラピュラス好き好きホールドを極めたままだ。ハッキリ言って動きにくい。
人は、慣れる生き物だ。ゼルは、気絶する程の幸せの快感に慣れてしまった。
動きにくいから、マリナに離れてくれ、なんて言うのは3流だ。このまま幸せに浸るのも2流。ならば1流はどうだ?
1流の男、ゼルの出した回答はこれだ。抱きつかれたまま引きずって歩く。体重の軽い少女なので2人いても問題ない。
そして歩く事により、ぽゆんぽゆんとした至福の感触を倍増して愉しめる。そして、レイも、どさくさに紛れて抱きしめる。
レイちゃんはナイチチを気にしていたが、とんでもない。抱けば折れるような、ぐにゃぐにゃした細い身体が、庇護欲と征服欲を刺激しまくる。充分に魅力的なのだ。2人は、ベクトルが違うだけで、至高の存在。
ゼルは、バイクに辿り着くまで、ルートを遠回りした。感触を愉しみたいからである。そして、バイクのもとに辿り着いたが、スルー。さらに、他の魔道具を見るフリをしながら、もう一周。
ふぁぁぁ、サイコーだ。天国はここにあった。パチンコでリールが揃っているのに途中で帰るやつがいるか?いないだろ。出し尽くすまで打つ。
揺れろ揺れろ、至福の感覚が、脳髄を焼き尽くす。ドーパミン溢れまくりである。まさしく王になった気分だ。
ただ、3周目には入らない。こういうのは引き際が肝心だ。麻薬中毒のように依存しては、ならない。ツッコミすぎるとハコは直ぐに飲まれる。
ゼルは、バイクを観察する。観察して分かったが、これは紛れもなく魔道具だ。なぜなら、科学的に動かすために必要なパーツが無いし、意味不明な部品がついているから。バイクの形をしたなにかというのが相応しい。
おそらくだが、ゼルと同じ世界から来た人間が、異世界の技術で再現したのだろう。まさしく超古代技術。
「ゼルさん、それ気にいったの?良かったらあげるよー。」
「良いのかマリナ?いや、しかし。結構したのでは無いか?」
「気にするなら、今日のバイト代って事でいいよー。ラピュラスのもふもふには、それだけの価値があるよー。」
「ん。マリナ、分かってる。」
「えへへ。ありがとう、レイ。」
「あぁ、ありがとう。動けば遠慮なく貰おう。」
貰えるのか、これは是非とも動かしたい。ヤル気に火がつく。
鍵はついている。鍵を回すと、モニターパネルが光った。幸先が良い、この魔道具は生きている。ならば、なぜ異世界人のマリナに動かせなかったのだろうか?おっ、キックスターターがついている。理由が分かった、これだ!
キックスターターは、ペダルを思いっきり踏み下ろすことによって軸を回転させ、ギアを介してエンジンの出力軸を回転させることにより、エンジンがかかる仕組みだ。つまり、魔道具には、本質的に不要な物だ。
だけど、様式美として、つけたのだろう。おそらく起動するための鍵みたいなものになっている。中身は、どうでも良い。どうせ、説明されても理解できないが、分からない事は、ブラックボックスに入れよう。
キックスターターを踏み抜けば、この魔道具は起動する、そんな予感がした。
「2人とも、この魔道具を起動するから離れてくれないか?」
ゼルは、ぐへへと緩みきった顔を、引き締め、2人にお願いする。
「んん。」
「え?やだよー。マリナは離さない。」
確変か!
ここで、まさかのボーナスタイム突入である。まだ打ち切っていなかっただと、驚愕の事実に震える。
震える胸の感触。そして、甘い少女の髪の香りを堪能する。すぅぅぅー、肺に深く落とし込む。マイナスイオン?タバコ?はっ?快感物質が足りないんだよ、そんなもんは。最強にハイになれるのは、この香り。
相棒のバイクよ。幸せに浸っているので、少し、起動は待ってくれ。




