第4話
「これ、本当に人間?どう見ても有り得ない速さしてて」
黒い影が、銃弾のようなスピードで音もなく首を攫っていた。そしてそれは、人であった。
「おかしいよな。僕らも映像の不具合かと思ったけど、どの防犯カメラにも映っていた。それで詳しく調べたら人だったとは。流石に笑ったね」
それはかろうじて人に見える影が見えただけ。もちろん顔も分からない。人と断定して良いものか、疑うほどだ。
「っていうかこれを調べるって、ちょっと無理があるでしょ。ほぼ何もわからなくない?」
「これから探すんだよ。でも、これから現場調査だ。行こう」
正直言うと、気分は良くなかった。ひとつ違えば、事故が起こっていた可能性はあったと思う。私はもっと私を見直さなくちゃいけない。
そして、卑屈であるのが反省であるわけではない。以前の自信家な私も時には必要で、よく考えて行動することも必要なことだ。
SILVER CROWとして生きていくと決めた自分を尊重する。そのためにも、この事件を始めにして、真のヒーローというのを身につけていかなくては。
「まさか君らと協力として、この警察用車に乗る日がくるとは。なかなか、予想できないもんだね」
「僕もだ。正直、君にはもっと渋られるものと思ってたよ。群れるのが嫌いだって言ってたろ?」
確かに、1人の方がやりやすいのは多分そうだ。でも、私はそれを目的にしてはいけない。人を救うことが目的であって、ヒーローになることを目的にしてはいけない。自己満足はヒーローじゃないから。
「方針が変わったの。これくらいの若者にはよくあることでしょ?」
「いや、本当に偉いと思うよ。そういうのって難しいんだ。いつまで経っても変われないヤツもいる。君は早くに変われて良かったんじゃないか?」
「………どっちかって言うと、変わらない為に変わった。そんな感じ」
彼は小さく頷いていた。結局、私だって人に認められたり褒められたりするのが嬉しい。心がようやく整頓された気がした。
「あ、そういや名前聞いてなかった」
「え、言ってなかったか。ケイ・ハナザキだ。ちなみに出身は奈良だ。改めてよろしく」
「ユイ・ミナト。生まれも育ちも京都だよ。なんだか、子供の頃はもっと綺麗だった気がするよ」
「名前は知ってるよ。それはそうと、ここ20年で確かに変わったかもね。反重力物質の普及が原因だ。金持ちが、文字通りに届かぬ場所へ行ってしまった。国は貧乏しか居ない場所に興味は無いのさ。僕みたいなあんまり出来ない奴らは、こっちに飛ばされる。僕らにとっても、上と下は天国と地獄だよ」
私は上に行ったことがない。どんな世界か、下の人間にとっては未知の領域になっている。批判することすら、同じ土俵に立つことすら出来ない。下は下で争い合っている。少しでも上に行こうとしているのだ。濁った空気と喧騒から逃れる為に、汚く金を稼ぎ、奪い合う。まさに地獄なのだ。
「ウンザリしてる。本気で変えちゃおうよ。責めて、善人は救われる様にさ」
「その為にはヒーローが要る。だろ?実はね。警察は目星をつけてるんだ。ヒーローになれそうな人材を。それについても後で話がしたい。君がリーダーになるかもな」
「まさか。私はリーダーってタイプじゃない。でも、ヒーローを集めるのは面白そう。喜んで手伝うとしよう」
ヒーローが集まる。危険ではあるけれど、ロマンのある話だ。それぞれの信念がぶつかりあい、一つになるのだ。
車は、私が前に戦った食堂の前に止まった。封鎖されていて、一般人立ち入り禁止となっていた。車はその上を飛べるから、今は交通も止まっていない。
「さて、着いたぞ。現場調査を始めよう。他の調査部隊もたくさん要る。君は重要な証言人だから、現場のトップととりあえず話をしよう」
「そういえば、私のゴーグルって無いよね。あれでスキャンしたら一発なのに。色々な痕跡を察知できるし………」
「まぁそれも良いが………実はもっとすごいのが来ている。とりあえず、話をしに行こう」
大人達でごった返す中をかき分けながら、事件のあった中心部へと向かった。
「なんでこんなに人が多いの?言っても、たかが一人死んだだけだよ?」
「もっと大きな恐怖に備えているとかなんとか………詳しくは僕も知らないけど」
私は、これほど多くの警察が集まっているのを見たことがない。しかも、制服も違う。全く違う国の人がごろごろいる。緊張感が満ちていた。
「どうぞ、こちらへ」
背の高い女の人が先導した先には、大きなテントが建てられていた。簡易的な会議室の様なところに一人、車椅子の男がいた。若いが、貫禄のあるような。
「どうもありがとうハナザキ。悪いが、ミナトと二人にしてくれないか?後でまた呼ぶ」
「分………かりました。失礼します」
ハナザキはガチガチになりながら外に出ていった。彼の迫力に、圧倒されたのだろう。私の思っていたのとスケールが違う。どう見ても、彼はかなりの権力者に見える。
「私は一昔前、安くて質のいい防弾チョッキを東京で作った。飛ぶように売れたよ。銃もナイフも問題なし。価格もお手頃だったからね。しかし、そうすると、その防弾チョッキには防げない毒ガスなんかを使い始めた。私がガスマスクを作る頃には、毒ガスでさらに大勢が死んでいた。物が変わっただけで、人は変わらなかった。もっと根本を変えなければいけなかったんだ」
私は東京に行ったことは無いが、都市部はどこもこんな感じだと聞いた。京都でも、安価で銃を防げるなら、みんなが買うだろう。そして、同じように被害が出るだろう。同じように、根本が悪いからだ。
「でも、根本をどうやって変える?全員捕まえるとか?大きな罰を与えるとか?」
「そこで、神様の存在が鍵となる」
いきなり変なことを言い出したと思ったが、本気の顔をしていて、言う気になれなかった。
「神様?いきなりすごいファンタジーじゃない?もしかして誰か偉い人を神様って比喩してる?それともあなたがそう?」
「いや、神はファンタジーじゃない。リアルに居る。人間とは格が違う存在だ。我々は、神との接触を可能にした、唯一の組織になった。通称G.U.N.という」
「話が分かんなくなってきたなぁ。そのG.U.N.が今回の事件に動いてるってことは、神様の類が関係してるってこと?」
「よく分かってるじゃないか。そういう事だ。この超常現象のような素早い影を夢で見た。私の予知夢でね。そして君も見た。ヒーローとして、希望としての君を見た」




