第3話
これまで通りの生易しい取調べ室では無かった。解決策など一つも無い。責めて、腕の良い弁護士についてもらうぐらいだろうか。きっと、そんな都合よく防犯カメラもないだろう。
「危惧していた事が起こったな。相手がマトモな人間じゃないとはいえ、これは殺人だよ。それに、故意じゃないとしたら事故だ。君の武器による事故ということなら、尚更危険だろう」
「あの………1度だけ、希望を持って話してみます。まず、私の発明品に首を切れるようなモノはありません。それに私は拘束してあなた達に引き渡すだけのつもりでした。私じゃない誰か、何かがあの首を切ったんです。もし調べてみても分からないことかもしれないけど………」
焦っていたからか、怯えていたからか。口早に決めていたことを喋りきった。取調べ室の間に置かれた窓ガラスに、弱々しく座る私が映っていた。自分でも驚くほど、私の様子は変わっていた。
「君は僕らの忠告を無視したろ。易々と逃した僕も悪かったが、君はそれを振り解いた。しかも、警察のセキュリティシステムをハッキングしての逃走だからな。類を見ないほど最悪だ。はっきり言って、君が故意に人を殺したってことはないだろう。それは分かるよ。君のような、ある意味完璧主義者はそういうことをしない。ただ、君の発明品まで完璧な訳じゃない。しかも、AIまで使っていた。既製品じゃない、君の発明だ。まぁ、事故だから刑がそんなに大きくなることはないだろう。でも、ヒーローには、もうなれないだろうね」
私にあれが何だか分からない以上、自分の発明品のせいじゃないとすら言い切れない。私のせいじゃないと分かりきっているはずなのに、もはや自信はなかった。あの瞬間を思い出すと、怨念のように頭にこびりついた、首から散る血の絵面が辛いだけだった。
ヒーローを辞めるということは、私にとってはあまりに苦しい。私のおかげで救われたというのは、私が居なければ救われなかったということ。普通の人は、こんなこと思わないのだろうか。
「私には、人を救えるほどの力があって、それをその通りに使いたかっただけだよ。もしかしたら事故かもしれない。もしそうだったら、そんな私はヒーローとは言えない………のか」
「ごめん、憶測で言いすぎてしまった。君の思いは伝わってるよ。実を言うと僕らは、君らのようなヒーローに頼ってる節がある。君とも協力関係にまで持っていきたかったんだけどね。まぁ、できる限りのことはやってみるよ」
それから、私は留置所に入れられた。狭くて、同じように灰色の壁に囲われた。久しぶりに、私はそのままの姿で、SILVER CROWでになることなく、夜を過ごした。
私は、傲慢で、事故中心的で、自信家な私が好きだった。本当に世界一の天才になれたような気分になれた。
そんな私を無くしてしまったのだ。それがあまりに辛かった。途端に現実を見えてしまったのだ。気づかない内に、見ない様にしていたことに気が付かされた。
「おはよう、ミナトさん。あんまり休めなかった?」
「急に、時間が止まった様に感じてる。私って、浅はかだったかな。忠告、聞いとけばよかったよ。ごめんなさい」
感情に歯止めが効いていない。多分、ほとんど寝ていなかった。そのせいなのかな。
「今は、できれば休みなさい。調査はまだまだ続けてるから。じゃあ、発明品について、詳しく聞かせて欲しいのと、調べさせて欲しい。いいかな」
私の発明品がイジられるのは嫌だったけど、仕方なく許可した。一つ、この技術を勝手に使用しないことだけを約束して。
「一応もう一回聞くけど、協力者はいないんだよね?」
「一人だけ。その辺に捨てられた中古のガラクタを使って作ってる。貴重な部品とか素材はなんとか取り寄せたりして手に入れた」
私には、友達どころか家族すらいない。まだこの世界のどこかにいるのかもしれないけど、知らない。ずっと孤独なままだ。
「AIについて、開発はもちろん君だよね。あれは戦闘用?」
「基本は防犯用をベースに、色々組み込んで作った。だから………戦闘用も間違ってはないかな。ドローンとゴーグルについたカメラの二つを使って情報を集めたり、発明品に対する指示を出すときにサポートとして使ってる。だから、誤作動を起こしたら事故も起こりかねないというか………」
言えば言うほど、自分ですら自分を疑う。やらかしてしまったのではないかという思いが、ますます強くなった。
「じゃあ、グローブについて。あの爪は何を想定して付けたの?」
「あくまで、武器やバリケードの打開策のつもりで作った。でも確かに、脅しにも使ったりするよ。本当に威力は高いから」
メモをじっくりと取っていた。私が疑われているのはわかっている。無駄に抵抗するのも、自分を裏切るような気がして、できなかった。
「とりあえず、もっと調べるよ。取り調べに応じてくれてありがとう」
そうしてまた、私だけが取り残された。その日もやはり、ひどく長い一日だった。
「おはよう、三日ぶりかな。そしてまだ、疲れた顔をしてるな」
「あぁ………お久しぶり、です」
喋り方すら忘れていた。贖罪の気持ちばかりが進んでいた。
「いや、朗報だよ。君の証拠不十分が確定された。いやー良かったよ、君の自警団活動が成功の鍵だったよ」
はっきり言って、腰を抜かした。あれだけ私の暴れた痕跡があっておきながら、証拠不十分だなんて。
「えっと………どういうこと?」
「君の無罪は成立されたんだ。まぁ確かに、いいニュースばかりじゃあない。君と情報交換や活動実績を行う。いわば協力関係になるのが絶対条件だ」
「それはいいけど。って本当にいいの?」
安堵だった。どのみち、警察のために何かしようかと思っていたところだった。私にとって、これほどいい条件はない。
「いいよ。だけどもう一つ。この事件について、調査を手伝ってくれないか?犯人を絶対に見つけろという訳じゃないからさ」
「是非、やらせて欲しい。けど、そもそも何かわかるの?」
「これを見てくれ。近くに実は防犯カメラを何台か隠していてね。君のドローンの映像も含めて、映像分析を行なった。ここを見てくれないか?ほんの一瞬の出来事だ」
スロー再生の中、止まって見えるほど遅い世界の中で、その姿は確かにあった。
それはまさしく、人間であった。




