第2話
『あと2ブロック先、目標地の食堂です。複数名による犯行のようで、現在交通も止まっており、渋滞となっています。十分なご注意を』
「犯人の装備は拳銃だけ?」
『エンジンを改造されたスクーターに、軍事用の大きな機関銃を積んでいる様です。詳細までは分かりません』
建造物の多いこの街では、ジェットパックのような飛び方より、壁や車を飛び移る方が適している。こうした渋滞時には車が障害物となり、予測もしづらい。
「あと50秒はかかるかなぁ。ドローン飛ばして!」
『では、偵察に参ります』
小さなドローンなら、私よりも格段に速く現地に着ける。実は、戦闘能力も重要なのだけど、情報はより大事だ。
私は18の時に活動を始めた。最初は小規模な事件や事故からで、次第に大きなものにも手をつけていった。やりがいも大義も感じた。その結果、大学に行くつもりも無くなり、貯金を崩しながらヒーローやってる。それの底を尽きるまではとりあえずやるつもりだ。私についての心配は後回しと決めている。
『人数は8人。リーダーはスクーターの上の、赤いスカーフをした男です。地下格闘で一時期名を上げた者のようですね。人質は縄で縛られ、喋れない状況ですが、身の安全は問題ありません。では、急ぎましょう』
「にしても、スーツの改良はまだ出来そうだね。まだまだ遅くってさ!」
『時速200kmは出ていますが、これ以上を行くのなら、何か別の方法が要りますね』
車や建物に飛び移りながら街を駆け抜けるのは、あまりに清々しく、心地いい。そしてその姿は黒いイナズマのように激しく見えてくれる。
もう、その場が見え始めていた。
「さて、このSILVER CROWが行くよ!」
クラクションの音よりも大きく、銃声がこの場を支配していた。乱発によって割れたガラスが地面に飛び散っている。
「4000万持ってこい!さもなきゃここ動かねぇぞ!」
メガホン片手に、ボスみたいな男が騒いでいた。
私も負けじと、ゴーグルのスピーカーをONにした。
「高望みだねぇ。誰も持ってないよ?そんな大金。帰るなら見逃す!って言っても帰らないだろうけど。でも本当だよ?逃げちゃえよ」
最近ちゃんと分かってきた。挑発は、実は私の得意分野で、効果アリだってこと。
「誰だあんた?」
「お前に聞かれるのは………なんか嫌だけどいいや。SILVER CROWってヒーローだ」
あくまで市民の希望のための名前なんだけどな。是非もっと沢山の人に名を知られたい。それに京都の300番ブロック辺りでは、段々名前も定着してきたし。
「なんか聞いたことあるかも。あんま見た事ねぇけど」
あー最悪。犯罪者の恐怖対象でしか無くなるのは嫌だってのに。
「まーいいや。ちゃっちゃと行こう、君ら雑魚でしょ」
「おい、俺らはあの、百鬼夜行団だぞ!分かってんの?」
下っぱらしいやつが言った。にしても間抜けな名前だ。安直だし長い。もちろん聞いたこともない奴らだ。でも良かった。挑発が効いてる。
「知ってるよ。雑魚が100人群れあってるだけの、腰抜け集団だ」
「もういい!殺せ」
さて、1対8ってところかな。みんな大体、銃かバットかナイフってところだな。機関銃だけ注意すれば問題ないだろう。
「Y.A.T.A.煙幕出して!」
『了解しました。油断なさらず、お気をつけて』
ドローンから吐き出された煙で奴らの視界を奪う。でも、私には見える。優秀なドローンという目があり、ゴーグルがあるから。奴ら、拳銃は打てないし、近接で私が勝てない訳がない。一人ずつ、的確に無力化していけ。冷静に。
「あっ!」
情けない呻き声と共に、私の爪にナイフが狩られた。振動と熱を組み合わせた、アルミニウム合金のこの爪は、大抵のモノを切り裂く。きっと、銀行の金庫でさえ。
そして、小型スラスターをふんだんに使う事によって、私の非力で乏しいスピードを大胆かつ丁寧に補う。
「いっ!」
重い蹴りを入れてやった。綺麗に吹き飛んだ。思い通りにやられてくれると、やりがいがあるというものだ。
「どこだ!どこに居る!」
「見えたもんじゃねえ!あぁっ!」
「大丈夫か………あぁっ!」
さて、あと三人。しかし、そろそろ煙幕が切れてしまう。しかしまだ、機関銃が片付いていない。
「こっちには人質がいる!分かってんのか!」
「Y.A.T.A.人質は大丈夫そう?」
『リーダーと思われる男のそばに居ます。少々危険かと』
「見えたっ!お前っ!」
マズイ、銃を向けられている。じきに他のやつにもバレるだろう。
「分かったよ。お手上げだ」
と言いながら、ドローンは奴らの背中を捉えている。お手上げは、Y.A.T.A.への背後を取れという合言葉の様なもの。私が合図を言えば、捕縛装置を吐き出す。
「降伏してくれるならありがてぇ。殺人罪は流石にめんどくせぇからな。殺さず後でアジトに持って帰ってやるよ。そうすりゃ………」
「合図!」
勢いよく飛び出した捕縛装置はロープを体中に絡め、あっという間に制圧してしまった。
「は?んだよこれ!」
リーダー1人だけだが、これで十分だ。後は本当に腰抜けしかいない。
「さて、リーダーは捕まえたよ。君たちに勝ち目は微塵もない。大人しく降伏してもらおうか」
「………分かったよ」
警察を呼び、その場を離れようとしたその時だった。
キンッーーー
冷たく、大きな金属音と共に、赤い一滴が頬に跳ねた。
リーダーの首が飛んでいた。あまりに一瞬で、何が起こったか理解を拒んだ。
「………おい、おい!あんたがやったのか?嘘だろ?」
「違う!私じゃ………Y.A.T.A.どうなってる!」
『すいません。捉え切れませんでした。私のシステムの誤作動でもなく………何かが首を取っていったとしか言えません。そして、最悪の事態です。人質の子供が消えています』
「警察だ!道を開けてくれ!」
その顔は、幸か不幸か、さっき取り調べを受けた警察官だった。
「先に言うけど、断じて誓う!私は殺してない!」
「待て、何があっ………君がやったのか?なぁ、事故を起こしたんじゃないか?その武器のせいで」
「違う!私じゃない何者かが彼を………」
「………悪いが、話は署で聞くよ。君を容疑者として連行する」
その顔は、何一つ信じていなかった。私は何も言えなかった。首の無くなったその死体には、私の捕縛装置が巻き付いていた。辺りの人も全て私がやったものだ。彼らは死んでいないとはいえ、私があまりにも怪しく見えてしまう。
グローブもブーツもゴーグルも外し、私は手を頭の後ろに回し膝をついた。
冷たくてキツい手錠をかけられ、私は警察用車に入れられた。




