蕾ルート3話
「それじゃあ来週からよろしくね」
「はい!」
蕾さんとの島外デートから1週間後、俺は彼女との約束通り、大島屋の面接に来ていた。
結果は合格。
まぁ、バイトだから軽いものではあるが。
これで蕾さんとこれからも一緒のわけだが、問題がひとつ。
俺の担当がキッチンではなく、ホール担当だ。
理由としてはキッチンが十分らしく、足りないのはホールらしい。
少し残念ではあるが、蕾さんと一緒の職場で働けるのは嬉しい。
賄いは主に蕾さんが用意することが多いらしく、彼女の手料理は食べ慣れているが、外での食事は楽しみである。
『バイト面接終わりました』
メッセージアプリで蕾さんに報告する。
午後2時過ぎの昼下がり。
帰りにチラリと職場を見学させてもらったが、客足は少なく、ピークはすぎている様子だった。
まぁでも業務は続くはずなので、ゆっくり返信を待つことにしよう。
スマホをポケットにしまい、桜が舞うこの島をのんびり散歩しながら帰るか。
そんなことに思考を巡らせていた。
ヒュポ。
即座にメッセージアプリの返信。
『お疲れ様。結果どうだった?』
暇では無いはずだが、返信が早すぎる。
『合格です。今やり取りしてて良いんですか?』
心配になりつつ、結果と暇があるのかそれとなく質問を投げる。
『おめでとう』
スタンプが送れられて数秒後、ヒュポっとスマホが鳴る。
『大丈夫、今遅めの休憩もらったから』
ほっと一息。
俺のことが気になりすぎて、仕事サボってるんじゃないかと心配になったが、問題はないようだ。
『今は帰り?』
『はい。花見がてらコーラでも買ってゆっくり家に向かうつもりでいました』
『そっか。可愛い人や美人な人がいても、誘いに乗らないでね』
『わかってますよ』
恋人になりたてだが、蕾さんの心配性はわかる。
一目惚れで晴れて付き合い始めた俺たちだが、俺は咲倉蕾さんという相手を大事にしていきたい。
いきたいのだが、早速問題発生。
「あのー」
「はい」
地図を持った女性に控えめに声をかけられた。
藍色の髪に、丸型のグラサンをかけた女性だった。
「あのー、大島屋という定食屋に向かいたいのですが、道を訊いてもよろしいでしょうか?」
「この通りをまっすぐ行くだけですよ」
「そうですか、良ければ詳しい場所をお話しながらお伺いしていいでしょうか?」
「あのー、俺彼女いるので、そういうのはちょっと」
サッとすり抜けようとしたが、腕を掴まれた。
「そう言わずに、ちょっとだけ、ね?お姉さんが奢ってあげるから」
「いえ、ですから……!」
強引に誘われる。
どう断るべきかわからん。
逆ナンなんて初めてだからな。
「あれ?まもりん?」
救いの女神キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
ちょうど桜花姉が通りかかった。
「桜花!ちょうど良かった!」
「え?なになに?」
キョトンとする桜花姉。
「すみません、お姉さん!彼女が迎えに来てくれたので失礼します!」
桜花姉の手を取りサッサッサと足速にお姉さんから逃げる。
「どうしたの?」
「逆ナン」
「あー、なる」
理解力のある相手でよかった。
「ところで面接どうだった?」
「合格だよ。来週からだって」
「そかそか」
ニヤー。
桜花姉がイタズラを思いついた子どものような表情を作る。
「これでまもりんはあたしの後輩というわけだ」
「そうなるな」
「そして担当は違えど、愛しの恋人と同じ職場」
「そうなるな」
ニヤー。
「何が言いたいんだ?」
「いや、さっきみたいに女性に絡まれた時どう言う対応取るか楽しみでね。上手く捌けなかったら、蕾さんとの中に亀裂が入らないか心配でね」
「桜花姉がいるだろ?」
「あたしは自分の仕事があるからねー」
「助けてくれよ」
「やだ」
「なんで?」
「さっき呼び捨てにしたお返し」
「あれは不可抗力で……」
桜花姉の表情が真面目になる。
「まもりんは、そこそこイケメンだって自覚持った方がいいよ。いつでもあたしが助けてあげられる訳じゃないんだから。女性からのお誘いの断り方学びな」
「桜花姉……」
「蕾さんのこと大事なんでしょ?」
ひょこっと覗き込む。
鼻を通る柑橘系の香り。
「そりゃあな」
「だったら、なおのこと頑張りな。蕾さん泣かせたらあたしも許さないから」
「おう」
なんか桜花姉って本当にお姉さんだなぁ。
見た目は下手したら中学生に見えなくもないが、中身は本当にお姉さんだ。
桜花姉の存在は大きい。
そう思えた瞬間だった。




