2 生と死
――――――光を見た。
巨大な流れ星のような光。暗闇をひたすら進み、やがて別の大きな光とぶつかる。
心に染みる温かさに包まれ、その光を抱きしめた。
それは、シュトラの放っていた光と同じだった。
光が身体の中に入っていく。光が身体に溶けていく。光そのものに、成っていく――――――。
「生きろ」
どちらか一方しか生き残れなかった。どちらか一方は死ぬことになる。必ずどちらかにしか、未来は訪れない――――――。
「なぜ、生き残ったの?」
石川さんが自分を守って死んだから。死ぬ前に、意地を張りたかった。生きた証を、残したかったんだ。
「それは、誰の生きた証なんだよ」
石川さんの生きた証のことだ。石川さんは死ぬべきではなかった。死んでほしくなかった。
「本当に?」
嘘じゃない。嘘なんかじゃ、ない。
「自分のために、生き残ったんだろ」
違う。おれのためじゃない。おれは生きたくなんてなかった。それなのに、生きろって言われた。死ねなくなった。生きることを、押し付けられたんだ。
――――――あ。
やっぱおれは、最低だ。
= = = = = =
昂大は天井を見ていた。
何もせず、何も食べず、何も考えず―――ずっと天井を見ていた。
シュトラとの戦いから三日経ち、戦いの傷は完全に癒えていた。腕を切り飛ばされ、体中に穴を開けられても、その痕跡すら残っていない。
しかし、昂大は布団から一歩も動けなかった。
「……」
三日も何も食べていないはずなのに、不思議と腹は減らなかった。体調もすこぶる良い。だが、石川とシュトラの死に際がずっと脳裏にこびりついて消えなかった。
――――――ピンポーン。
旧時代の、音が鳴るだけのチャイムの音。掠れたチャイムの音が、何度か繰り返された。
「昂大」
昂大の名を呼ぶ声がした。その声はよく知った声だった。
扉が何度もノックされ、名前を呼ぶ声が大きくなる。しかしそれでも動けなかった昂大の耳に、扉が叩き壊される音が響き渡った。
扉が押し倒されると、土ぼこりが部屋を舞う。
「……」
「……三日もこうしてたの? 死ぬ気?」
扉を破壊した浅井美樹は、天井を見上げていた昂大を上から覗き込む。
美樹の顔が酷く疲れ切っていたのを見て、昂大は布団に潜り込んだ。
「学校にも行ってない。無断欠席してるでしょ」
「……」
「別に学校はいい。でも雅治の葬儀に来なかったのは何で?」
「……おれが行けるわけないだろ」
美樹は芋虫のように布団に包まっている昂大を睨みつける。
「じゃあ、これからどうするの」
「……知らねえよ」
「いい加減にしな」
美樹は昂大から布団を取り上げる。無理やり体を叩き起こすと、目の前にあぐらをかいて座った。
「昂大はシュトラを倒したんだよ。それなのに、生きていくことを放棄するの? 学校にも行かずに、ずっとこうして引きこもっているの?」
「……おれは生かされたんだよ。シュトラは光のような人だった。化け物でも、天使でもない。一人の人間だった。本当は人を殺したくないって思ってたのかもしれない。おれが勝てたのは偶然なんだ」
「偶然でも、昂大が生き残った」
「そうだよ。偶然だよ。本当は死んでたんだ」
「だから何? 生き残ってしまったことに罪の意識を抱いているとでも言うの?」
美樹の瞳が鋭くなる。
軽蔑されている――――――その圧を受け、昂大の心臓が早鐘を打ち始める。
「……わかんねえんだよ。なんでみんな、おれに優しくしてくれるんだろ」
「どういう意味?」
昂大はその質問には答えなかった。
「気持ちはわかるよ。辛かったのも、苦しかったのも。これまで昂大が、万ちゃんの指示でしか人を殺せてないこともわかってる」
「……じゃあなんで教えてくれなかったんだよ。シュトラが来るって。臨起っていうのは、考えられないほどデタラメな力なんだって……教えてくれてたら」
「わかってたら、変わってたの?」
「変わってたよ! おれがもっと遠くで、シュトラに殺されれば、誰も死なずに済んだんだ」
「そうはならないよ。雅治も雪も言ってたでしょ。昂大は世界の臨起の適格者。貴方の意思なんて関係ない。必ず生きなきゃいけなかった」
「……何だよそれ! じゃあ本当はわかってたんじゃねえのか。石川さんが死ぬのも」
その言葉に、美樹は昂大の顔面すれすれに蹴りを繰り出した。大きな衝撃が部屋に響いた時には、美樹の足が壁に叩きつけられている――――――その目は深い怒りと悲しみに満ちている。
「わかってたわけねえだろ」
昂大はこれまで見たこともないほど怒っている美樹から、目を背けてしまった。
しばらくして冷静になった美樹は昂大から手を放し、大きなため息を吐いた。
「ごめん……ちょっと出かけよっか」




