11 導きの日 ~信念《おもい》の黎明~
昂大はただ一点、人体の急所であるシュトラの心臓目掛けて拳を放った。
迷いのない、機械のような動き。万屋に教えてもらった殺し方。これまで多くの人間を殺してきた業だ。
常人ならば、為すすべなく心臓を打たれて昏倒するところだった。しかし、シュトラは昂大の拳を受け止めた。
昂大はそれを見透かしていたように膝蹴りの態勢に入り、シュトラの懐に潜り込む。腕を蹴り上げ、大きく体勢が崩れたところに、昂大の手が伸びる――――――。
首を、掴む。
そのまま力強く握れば、握力で骨が砕かれる。
「ッッッッッ!!」
その瞬間、昂大の右腕が天から降り注いだ光の刃によって斬り裂かれた。
赤い鮮血が草原に飛び散り、右腕はあっけなく転がった。
「昂大君!!」
「来ちゃだめだッ!!」
雪の助けを拒絶した昂大は、大量に血が流れる右腕を押さえ、再びシュトラを見据えた。
「言っただろ……おれの……意地だって」
「そんな意地いらない! 勝てるわけない!! このままじゃ死んじゃうよ!!」
昂大はシュトラに飛び掛かるが、空間に形成された三本の光の槍が、昂大の体に穴を開けていく。
為すすべなく天を仰いで倒れた昂大に向け、シュトラは右手をかざした。
――――――激しい痛み。朦朧とする意識。これが、今際の際というやつか。
昂大は死を意識した。勝てるわけがなかった。本当は、雪の言う通り尻尾を巻いて逃げるべきだったのだろう。
でも昂大は、石川と同じく、力の限り体を起こそうとする。
「まだ、だ……」
「意地を貫いているのだな。強き者よ」
血だらけの体を、最後の気力で何とか立たせる。
もう動くことすらままらない出血量のはずだった。意識を保てていることが奇跡だった。
そんな昂大を見て、シュトラは先ほどの戦いで見せた黄金の剣を形成し、天に掲げる。
「見せてみろ、少年……!!」
光が収束し、剣を覆いつくす。放出された巨大な力の奔流が、天を貫いた。
その剣を、昂大に向けて振り下ろす――――――。
衝撃が草原を割り、地面を抉る。真っ白な光に覆われた昂大は、その衝撃と共に消えた。
雪は衝撃を避けようと、腕で顔を覆う。
光が消えた時、ようやく前を向いた。
「昂大……君……」
= = = = = =
――――――ドクン。
朦朧とする意識の中、昂大の心臓が大きく跳ねた。
じんわりと温かい熱が、昂大の全身を駆け巡っていく。
――――――おれは。
死んだ。確実に、死を迎えたはずだ。
生きるために戦って死んだのだ。初めて自分の意思で死地へ立ったのだ。自分の意地を貫いた。それで負けたのなら後悔はない。
「……本当に?」
「えっ」
蒼い光が昂大の心臓からあふれ出す。その光が昂大を包み込むと、体が重力を無視し、空間に漂い始める。
やがて白い空間が星々の瞬く宇宙に塗り替えられると、遠くの方から声が聞こえてきた。
「本当に、後悔はない?」
優しく、芯のある、懐かしい声だった――――――。
声を聞いた昂大は、不意に涙を流していた。
「後悔は……ないはずがない」
「どうして?」
「だっておれは、何もできなかった。誰も護れなかった。いつだって、大切な人は手のひらから零れていくんだ」
宇宙が、大きく回り始める。
星の光が、一つ一つ意思を持ったように固まっていくと、川の流れのように昂大の全身を押し流していく。
そして星の中から、小さな人影が現れた。
「じゃあ、どうしたいの?」
「おれは……」
人影は昂大に迫ると、そっと頬に触れてくる。
それが誰なのか、昂大にはわからなかった。けれど、頬に触れられた時、再び涙が零れ落ちた。
「死にたくない。あの人……シュトラに勝って、生き続けなきゃいけない」
指が、昂大の涙をそっと拭う。
「わかった。大丈夫。私が守るからね、お兄ちゃん」
そしてすべての光が、昂大の中へ吸い込まれていく。




