3 導きの日 ~前昼~
第一化学教室から帰ってきた昂大は、いつものように教科書とノートを机にしまった。
化学基礎の時間だけ大きな教室に移動することに、最初は抵抗があったが、二か月も続けていると当たり前になっていく。教室の広さも黒板の大きさも普通の教室とは違うため、いっそのこと全部の教科をあの教室でやってくれたら、などと考えてしまう。
次の時間は日本史である。担当教員の石川は、昂大が眠そうにしていると、およそ試験には出ないであろう難しい問題を振ってくることがある。
前回の授業の時は、突然陰陽師についての問題を出された。有名な安倍晴明の師匠は誰だ、など答えられるわけがない。
――――――ちなみに答えは賀茂忠行。先日授業で見た映画に出てきたため、何となく覚えてしまった。
「……ん?」
机の中に教科書を入れようとすると、妙に突っ張って入りにくかった。教科書を出して、机の中を確認する。
――――――綺麗な白い封筒。
特徴的な蒼い花の封印が施されている。差出人は不明。触っただけで上質な紙だとわかる。中には厚めのメッセージカードが入っていた。
「なんだこれ」
昂大は何の気なしにメッセージカードを開いた。そこには万年筆で書かれたような筆致で、達筆な文字が書かれていた。
――――――突然の非礼をお詫びする。来たる三日後の6月6日、17時、貴殿に決闘を申し込む。場所は校庭にて。遠慮も小細工も無用。学生には一切の危害と影響を与えないことを約束する。
しかしながらこれは聖戦である。もし、決闘を拒んだ場合は大変不本意ではあるが、約束を破棄することもやぶさかでない。
沖田昂大殿。貴殿が来ることを切に願っている。
Alfredo Sutra。
昂大はその手紙を読み終わると同時に慌てて封筒にしまい、カバンの中に突っ込んだ。
――――――なんだこれは。意味が分からない。頭が混乱する。
誰からの手紙なのか。なぜ机の中に入っていたのか。決闘? なぜ自分の名前を知っているのか。聖戦――――――?
いたずらかもしれないという考えは、不思議と一切浮かばなかった。恐怖に似た漠然とした不安に駆られ、再び手紙を持って廊下に出る。
その時ちょうど教室に向かっていた石川に、手紙を勢いよく差し出した。
「ふざけてるのか。それとも僕を怒らせたいのか」
「ちょ……中身、見てください」
冗談ではない様子の昂大に、石川は不機嫌な顔のままメッセージカードを見る。
「……おい」
「はい……」
石川は一瞬目を見張り、すぐにいつもの冷静な調子に戻る。
「放課後すぐにお前の家に行く。あそこが一番安全なんだ」
「わ、わかりました」
「これは僕が預かる」
そう言うと、石川はジャケットのポケットに手紙を入れた。
教室に戻った昂大は、頭を抱える。
聖戦とは何なのか。自分には伝えられていない、例の仕事のことだろうか。
決闘ということは、手紙の差出人と戦わなければならないということだろう。
「逃げたら……」
約束を反故にする。つまり、この学校の生徒に危害を加えるかもしれないという脅しだ。
昂大の不安が募っていく。関係のない生徒たちが危険な目に遭うことはあってはならない。それだけは、絶対に嫌だった。
その日の日本史の授業では、無茶振りが飛んでくることはなかった。




