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蒼境の子羊《メシア》たち  作者: くろ飛行機
5章 自己否定《レーゾンデートル》
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7 有り難うな


「今日は楽しかった。お好み焼きも美味しかったし、ありがとな」

「それならよかったわ。こちらこそありがとうな。子どもたちも大喜びやったで」


 子どもたちが風呂に入って寝た頃、昂大は帰宅の途に就く。玄関先で改めて礼を言いあう二人は、少しだけ他人行儀だった。

 そんな空気を感じ取り、将人はいつものように笑ってみせる。


「悪かったなぁ。俺ん家のこと色々話してしまったり」

「そんなことない。むしろありがとな。おれに話してくれて」


 そんな昂大の礼に、将人は少し驚くように言葉を詰まらせた。


「……変なこと言うついでにもう一つだけぶっちゃけるわ」

「?」

「俺さ、お前を初めて見た時、なんてぎこちなく笑う奴やろって思ってん」


 将人は玄関の引き戸を開けると、昂大と一緒に外に出る。


「四月の最初の頃、お前が用務員の神戸(かんべ)さんと、花壇に水やってたやろ? まだ学校始まって一週間も経ってない頃やで? 登校したらお前が花に水やってた。そん時な、神戸のおばちゃんに礼を言われとったよな。言葉は聞き取れへんかったけど、お前がすげえぎこちなく笑ってたのだけはわかった」


 外は暗闇だった。遠くに見えている細い三日月の光だけでは、足元が悪い。


「その笑い方が……両親の笑い方そっくりやった」


 将人の声色はまっすぐだったが、深い憂いを帯びていた。


「色んなもんを抱えとって、苦しんでいる奴はおんなじ笑い方する。だからかな、お前のこと興味持ったんは」


 将人は夜空に向かって大きく体を伸ばした。


「悪かったな、変な話ばっかりして。あんま気にせんといて(・・・・・・・)な」

「……そんなことできるわけねえだろ」


 昂大は真剣な顔で将人を見据える。


「お前だって、抱えてるんじゃねえのか? 今日色んなこと教えてもらって、気づいたこともたくさんあった。お前だって普段と違う笑い方してたじゃねえか。寂しそうに」


 将人は昂大の真剣な表情を見て、ふんわりと口元を歪ませた。


「だからさ、何かおれにできることあれば言ってくれよ。おれ、何でもするから!」

「ふふ……はっはっは!」

「何が面白いんだよ」

「いや、お前優しいなぁって思って。そんなクサいセリフ、言われたことないで」


 将人に指摘され、昂大は顔を赤らめる。


「有り難うな」


 そう言って、将人は昂大の背中をトンと叩いた。


「……あ、そうや。お礼ついでにお土産あげるわ」


 将人は玄関に戻ると、二階へ上がる。しばらくして、大きな箱を抱えて下りてきた。


「家にテレビある? これやるわ、プレスト2」

「プレスト2? ゲーム?」


 古びた箱には、四十年以上前に発売されたゲームハードの本体とコントローラーが入っていた。


「カセットは俺がやっとったやつ、いくつかつけとくわ。レトロゲーって、いつまで経っても色あせへんしなぁ」

「なんでこんなもの……」

「これ、誰もせえへんからいらんかってん。捨てるにも勿体なくてな」

「……ありがとう。暇な時やる」


 そう言って、昂大は箱を抱えたまま夜道を進む。

 思いがけずゲーム機をもらってしまったことで、先ほどのしんみりとした空気は消えていた。家に帰ると、早速家の小さなテレビに繋いでみる。

 ゲームなどほとんどやったことがなかった。この家に来る前は、吉凶のオフィスで暮らしていたが、ゲームなどやる暇もなかった。


 昂大はわくわくを隠し切れず、電源スイッチを入れる。

 本体が起動し、ぎこちなくディスクが回る音がする。


「おおー」


 そして中に元々入っていたソフトが、古めかしくも仰々しい音楽とともに起動した。


「……これ何のゲームだろ」


 題名は『プロジェクトE』となっている。どうやら、アクションシューティングゲームのようだ。


「うわ! 始まった」


 昂大はとりあえず、主人公と思われる派手なチャイナ服を着た女を動かしていく。何のボタンでどのような動作をするのかは、やりながら覚えていくこととした。


 ストーリーモードなるメインモードが始まると、よくわからないシナリオに沿ってステージが始まった。

 広い荒野のような場所から、敵と思われる化け物が魔法を繰り出してくる。


『う、うううううっ』


 女は攻撃を受け、流血し、体力ゲージが減少していく。連続で攻撃をくらってしまったため、ゲージが黄色になってしまった。

 昂大はすぐさま物陰に移動しようとコントロールスティックを傾けるが、とにかく主人公のスピードが鈍く、処理落ちが酷い。


「おっせ! なんなんだよ! 反撃してやる!」


 反撃するが、撃つとなぜかスコープモードになる仕様で、非常に撃ちにくい。その上、撃っても撃っても敵が倒れなかった。

 一応、イージーモードを選択したはずだったのだが―――こちらの体力がなくなっていき、ついにゼロになる。


『ふあ』


 主人公は変な声をあげ、股を全開で開き、倒れた。


 ――――――ゲームオーバー。


「……将人、こんなゲームやってたのか?」


 昂大は色んな意味で、空いた口が塞がらなかった。



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