7 有り難うな
「今日は楽しかった。お好み焼きも美味しかったし、ありがとな」
「それならよかったわ。こちらこそありがとうな。子どもたちも大喜びやったで」
子どもたちが風呂に入って寝た頃、昂大は帰宅の途に就く。玄関先で改めて礼を言いあう二人は、少しだけ他人行儀だった。
そんな空気を感じ取り、将人はいつものように笑ってみせる。
「悪かったなぁ。俺ん家のこと色々話してしまったり」
「そんなことない。むしろありがとな。おれに話してくれて」
そんな昂大の礼に、将人は少し驚くように言葉を詰まらせた。
「……変なこと言うついでにもう一つだけぶっちゃけるわ」
「?」
「俺さ、お前を初めて見た時、なんてぎこちなく笑う奴やろって思ってん」
将人は玄関の引き戸を開けると、昂大と一緒に外に出る。
「四月の最初の頃、お前が用務員の神戸さんと、花壇に水やってたやろ? まだ学校始まって一週間も経ってない頃やで? 登校したらお前が花に水やってた。そん時な、神戸のおばちゃんに礼を言われとったよな。言葉は聞き取れへんかったけど、お前がすげえぎこちなく笑ってたのだけはわかった」
外は暗闇だった。遠くに見えている細い三日月の光だけでは、足元が悪い。
「その笑い方が……両親の笑い方そっくりやった」
将人の声色はまっすぐだったが、深い憂いを帯びていた。
「色んなもんを抱えとって、苦しんでいる奴はおんなじ笑い方する。だからかな、お前のこと興味持ったんは」
将人は夜空に向かって大きく体を伸ばした。
「悪かったな、変な話ばっかりして。あんま気にせんといてな」
「……そんなことできるわけねえだろ」
昂大は真剣な顔で将人を見据える。
「お前だって、抱えてるんじゃねえのか? 今日色んなこと教えてもらって、気づいたこともたくさんあった。お前だって普段と違う笑い方してたじゃねえか。寂しそうに」
将人は昂大の真剣な表情を見て、ふんわりと口元を歪ませた。
「だからさ、何かおれにできることあれば言ってくれよ。おれ、何でもするから!」
「ふふ……はっはっは!」
「何が面白いんだよ」
「いや、お前優しいなぁって思って。そんなクサいセリフ、言われたことないで」
将人に指摘され、昂大は顔を赤らめる。
「有り難うな」
そう言って、将人は昂大の背中をトンと叩いた。
「……あ、そうや。お礼ついでにお土産あげるわ」
将人は玄関に戻ると、二階へ上がる。しばらくして、大きな箱を抱えて下りてきた。
「家にテレビある? これやるわ、プレスト2」
「プレスト2? ゲーム?」
古びた箱には、四十年以上前に発売されたゲームハードの本体とコントローラーが入っていた。
「カセットは俺がやっとったやつ、いくつかつけとくわ。レトロゲーって、いつまで経っても色あせへんしなぁ」
「なんでこんなもの……」
「これ、誰もせえへんからいらんかってん。捨てるにも勿体なくてな」
「……ありがとう。暇な時やる」
そう言って、昂大は箱を抱えたまま夜道を進む。
思いがけずゲーム機をもらってしまったことで、先ほどのしんみりとした空気は消えていた。家に帰ると、早速家の小さなテレビに繋いでみる。
ゲームなどほとんどやったことがなかった。この家に来る前は、吉凶のオフィスで暮らしていたが、ゲームなどやる暇もなかった。
昂大はわくわくを隠し切れず、電源スイッチを入れる。
本体が起動し、ぎこちなくディスクが回る音がする。
「おおー」
そして中に元々入っていたソフトが、古めかしくも仰々しい音楽とともに起動した。
「……これ何のゲームだろ」
題名は『プロジェクトE』となっている。どうやら、アクションシューティングゲームのようだ。
「うわ! 始まった」
昂大はとりあえず、主人公と思われる派手なチャイナ服を着た女を動かしていく。何のボタンでどのような動作をするのかは、やりながら覚えていくこととした。
ストーリーモードなるメインモードが始まると、よくわからないシナリオに沿ってステージが始まった。
広い荒野のような場所から、敵と思われる化け物が魔法を繰り出してくる。
『う、うううううっ』
女は攻撃を受け、流血し、体力ゲージが減少していく。連続で攻撃をくらってしまったため、ゲージが黄色になってしまった。
昂大はすぐさま物陰に移動しようとコントロールスティックを傾けるが、とにかく主人公のスピードが鈍く、処理落ちが酷い。
「おっせ! なんなんだよ! 反撃してやる!」
反撃するが、撃つとなぜかスコープモードになる仕様で、非常に撃ちにくい。その上、撃っても撃っても敵が倒れなかった。
一応、イージーモードを選択したはずだったのだが―――こちらの体力がなくなっていき、ついにゼロになる。
『ふあ』
主人公は変な声をあげ、股を全開で開き、倒れた。
――――――ゲームオーバー。
「……将人、こんなゲームやってたのか?」
昂大は色んな意味で、空いた口が塞がらなかった。




