表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼境の子羊《メシア》たち  作者: くろ飛行機
5章 自己否定《レーゾンデートル》
47/53

6 遠慮の塊やで昂大。食べて帰り


 夕方。昂大は外がだいぶ暗くなる時間まで、やんちゃな子どもたちの相手をしていた。


「おつかれさん。あいつらの相手疲れたやろ?」

「練習よりは疲れないから大丈夫」

「それもそうか」


 将人は申し訳なさそうに大量のキャベツと豚肉を見せてくる。


「ごめん! タコパはまた今度でもええか? 今夜はお好み焼きに変更。たこ焼き器の調子悪くてな……」

「全然いいよ。いただくんだから、何でも嬉しい」


 将人は早速、キッチンでキャベツを切ろうとする。


「ただいまー。あれ、お客さん?」


 その時、中学校の制服を着た女の子が帰ってきた。


「おかえり夕奈(ゆうな)。こいつは一日しもべの昂大」

「誰がしもべだ」

「軽快なつっこみやね。やり手やわ」


 将人と夕奈は、カラカラと笑う。


「いやーええわー。うちにツッコミ役居らんから」

「ツッコミ役……?」

「夕奈もちょっと手伝って。野菜切ってくれへん?」

「ええよー」

「はい、しもべは生地作ってな」

「お前、なんにもやってねえじゃん」

「あれ、ばれた?」


 三人の笑い声が調理場に響く。夕奈の参戦でテキパキと調理が進み、大きなホットプレートの上で、こんがりふわっと美味しそうなお好み焼きが完成する。


「う、うまそ……」

「おなかすいた!」

「おれもたべるー!」


 三人の子供たちと昂大は、目をキラキラさせて将人を見つめる。


「ほな、いただきますしよか」


「「「いっただっきまーす!」」」


 甘めのお好みソースを刷毛で塗り、マヨネーズをジグザグにかけ、鰹節をまぶす。

 湯気でゆらゆらと動く鰹節の香りが立ち込めると、思わず喉の虫が鳴る。


「はい。ご飯どうぞ」

「あひがとござます」


 昂大は口いっぱいにお好み焼きを頬張っている。


「やっぱお好み焼きやなぁ。みんなで食うとしたら」


 第二弾の生地を広げ、豚肉を乗せると、ひっくり返して蓋をする。


「毎日ご飯作ったりすんの、大変だな」

「まあ、慣れや慣れ。夕奈も手伝ってくれてるしな」

「そっか」


 微笑ましいことだと思っていると、子どもたちが残りの一切れを巡って喧嘩を始めてしまう。将人は小手で三等分し、即座に喧嘩を収める。


「将人兄ちゃんは、学校でもこんな感じですか?」

「う、うん。みんなとも馴染んでて、友だちも多くて、ほんとすごいって思いますよ」

「そっか。それならよかった」


 夕奈はお好み焼きを一口食べて、お茶を啜る。


「内心ね、ちょっと心配なんです。二年前に、義父(とう)さんと義母(かあ)さんが亡くなった時、将人兄ちゃんほんまに落ち込んでたから」


 昂大は、持っていた茶碗を机に置く。


「高校行かんと働くとかって言ってたんですよ。楠木家(じっか)のツテで、なんか高給取りの仕事があるとかなんとかで。でもそんな時、新田川高校のお話を頂いて、ほんまによかったと思ってます」

「お話?」

「新田川高校は私立ですけど、全国でも珍しい貧困家庭の支援奨学制度があるんです。該当者には奨学金だけじゃなくて、他にも色んな支援が受けられて、ほんまに助かってるんですよ。あ、ウチも今、近くの付属中学に通ってます」

「へえ……そんな制度が」


 新田川高校にそんな制度があったなんて、全く知らなかった。そもそも付属中学があることにも驚きだった。


「そそ。やで、おかげさまで勉学に励めてるねん。昂大もてっきり、その制度使って入学したんかって思ってたわ。あんなボロアパート住んでるしなぁ」

「あ……おれは、実家から色々送ってもらってるから」

「そっか。てことはお前、関東人やろ」

「えっ」

「だって、関西弁ちゃうもんな。初めて会った時から思っとったんや」


 将人は、なぜかしたり顔で昂大を見つめる。


「将人兄ちゃん。そういうのが関西人やーって、関東の人から嫌われるらしいで。やめとき」

「マジで? ええやんけ別に。関西人は関西のことが好きやねん。ああでも、関西人で括ったらあかんで? 俺は大阪人やから、京都とか兵庫と一緒にされたないねん」

「そ、そっか……」


 関西には色んな派閥があるんだな、と肝に銘じておくことにする。


「話変わるけど、昂大くんは将来どこの大学行きたいとかあったりするん?」

「え……」


 夕奈が何となく振った話題に、昂大は硬直する。ぽかんと口を開け、停止してしまった昂大を見て、夕奈は慌てて謝罪する。


「あ、ごめんなさい……あんまり話したくなかったかなぁ」

「いや! そういうことじゃなくて……あんまり、考えてなかったなって思って」


 将来の話。将来のこと。将来の、夢――――――。

 そんな誰しもが思うはずの、当たり前の話ができないことに気づき、肩を落とす。


「夕奈は公務員か大手企業やもんなぁ。現実主義やなぁ」

「当たり前やろ。ちゃんと就職して、三人の学費稼いだらなあかんし」

「ええ子やなぁ、ほんまに」

「そう言う将人兄ちゃんは、高校卒業したらどうするんよ」


 将人は即答せず、昂大の顔を一瞥する。昂大が顔を見返すと、なぜかニヤニヤと笑った。


「大金持ちになるわ。やから夕奈は、好きなことやり」

「はあ? どうやって?」

「バリバリ働くわ~。世界中を飛び回ったりしちゃって~」


 いつものように明るく笑う将人は、最後に小さく付け加えた。


「だから、夕奈は好きに生きたらええ」


 優しくも、遠くに抜けていくような言葉だった。

 夕奈はそれ以上何も言わなかった。昂大は、将人が何を考えているのかはわからなかったが、心のどこかで、自分と近い何かが(・・・)あるのではないかと感じてしまう。

 そう思った途端―――将人の顔に白い靄がかかった。


 お腹いっぱいになった子どもたちは、テレビに夢中になっている。

 一枚のお好み焼きだけが、ホットプレートに残されていた。


「遠慮の塊やで昂大。食べて帰り」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ