1 やはり人の心はわからない
5章です!
話は昂大くんサイドに戻ります。
人通りのない深夜の山道を、軽バンが走り抜けて行く。
軽バンはくねくねと蛇行する道にエンジン音を響かせながら、山奥の私有地へ入っていく。錆び付いた鋼鉄のフェンスを開け、舗装されていない道を進むと、ヘッドライトに照らされた小さな山小屋が近づいてくる。
運転席に座る石川は、作業着を着た助手席の男に金色の掛けカードを手渡した。
「急に申し訳ありませんが」
「いえ。深夜の取引が多いのは、我々の稼業ではごく当たり前ですので」
ぺこりと頭を下げた作業着の男は、トランクから大きなスーツケースを引っ張り出し、山小屋に入っていく。
「ではこれで」
「はい。よろしくお願いします」
石川は男を見送ると、ハンドルを強く握る。
とんぼ返りするように山を下りた石川は、新田川高校近くのパーキングで車を替え、自身の所有するスポーツカーに乗り込む。新田川高校までは徒歩でも行ける距離だったが、今は時間が惜しい。職員用駐車場に車を停め、職員室へ戻ってきた時には既に外が明るくなってきていた。
「……石川さん」
「何だ」
「すみませんでした。私、その……」
不気味なほど静まり返っていた職員室に、二人分の声がする。職員室の隣にある休養室にいた近藤雪は、申し訳なさそうに頭を下げた。血塗れになった二着の制服がビニール袋に入れられており、今は学校指定のジャージを着ている。
「別に。指示通りデータを入手して教師の一人を排除したんだろう。やり方は強引だったが」
「……すいませんでした」
「別に気に病むことはない」
石川はパソコンのUSBポートにハッキング用の端末を差し込み、パソコンを起動させる。
「今から監視カメラの映像を書き換える。教室の掃除はどうだ」
「それなら昂大君が」
「後で僕が確認しておく」
石川は昂大の名前を聞くと小さく舌打ちをする。手早く監視カメラ映像の管理サーバーにアクセスし、データを改ざんしていく。
「少し質問する」
「はい」
「慎重なお前らしくもない。なぜ学校全体に臨起の力を使った」
「……」
雪は俯いたまま何も答えない。
「答えたくないのならいい。前川は行方不明になり、もう発見されることはない。今後の動きについてだが」
「あの! 昂大君は何も悪くないです。全部私が……私のせいなんです」
「そうだろうな。学校全体に影響するほどの力を使ったことで目撃者がゼロだったことだけが救いだ」
「……すいません」
石川は作業が落ち着いてきたところで腕を組むと、雪を睨みつける。
「この仕事の責任者として、お前にこれ以上の活躍は望まない。それよりもメンタルを整えろ。それが、互いのためになるんじゃないか?」
雪はそれを聞いて、唇を嚙みしめる。
「もう帰れ。あの掃除をしている鈍間を連れて。後始末はやっておくから」
職員室から出て行く雪を見届けた石川は、ビニール袋に入った制服を眺める。
――――――昂大が自分の意思で人を殺した。それを聞いた時の驚きが、顔に出ていなければ良いのだが。
「やはり人の心はわからない」
石川はデータの改ざんを完了させ、第二化学教室へ向かった。




