表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼境の子羊《メシア》たち  作者: くろ飛行機
4章 予言者はかく語りき
35/53

3 ソナタを占って進ぜよう


「その節は、母がご迷惑をおかけしまして……」


 相談者、飯田とよの自宅に着くと、開口一番中年の娘が謝罪してきた。


「いえいえ。お気になさらないでください」

「もうほんと、おばあちゃんの奇行にはうんざりしてて……交番に行った日も、ちょうど私が出かけてるタイミングだったものですから……」


 娘はぺこぺこと頭を下げ続ける。


「割とどこにでも行かれるんですか?」

「そうなんです。訳の分からないオカルトに支配されたみたいで……手が付けられないんです。それでね、おばあちゃんったらご近所さんに……」


 娘はペラペラと身の上話を語り出した。

 退屈そうに鼻をほじくる大谷のわき腹を肘で突くと、娘の話を中断させる。


「そう言えば、とよさんは今日もいらっしゃいますか?」

「ええ。奥の自室におりますわ」

「せっかく来たので、相談内容について聞きたいですし、お邪魔させていただいても?」


 娘は快く二人を中に招き入れた。


「おばあちゃん。入るわよ」


 通されたとよの部屋は、怪しげな香の焚かれた、いかにもオカルト趣味全開の部屋だった。


「うわくっさ!!」

「……」

「痛てえ!!」


 藤堂は肘で大谷の鳩尾を突く。


「あははは! いやあ、うちの若いのは正直でして申し訳ない……」

「いえ。私もちょっとこれは、臭いと思ってますの。おほほ……」


 言葉とは裏腹に、娘の顔は引きつっていた。悶絶した大谷はしばらく喋らなくなる。


 藤堂は改めて、とよの部屋を見渡す。

 壁には、大きな青い花が刺繍された巨大なタペストリーがかけられており、六芒星を象った祭壇が壁に沿って築かれている。エンジ色のカーペットの上には、占い用と思われる祭具が乱雑に散らばっていた。


「誰ぞ。儂の結界を破りし不届きものは」


 飯田とよは部屋の隅で丸くなっていた。痩せぎすの小さな体を重そうに上げ、藤堂を見るなり鋭い目つきで睨みつける。


「ソナタ……良くないぞ。良くないぞォ。きええええええっ!」

「わあああっ! 妖怪ババアだ!!」

「大谷、お前うるさいぞ!」


 とよは、祓い棒のようなもので、藤堂の肩を叩いた。


「こらおばあちゃん! 何するの!! 刑事さんよ!?」

「ほう。刑事とな」


 とよは、刑事と聞くなり、借りてきた猫のように大人しくなる。


「そうかそうか。良くおいでなすった」

「はあ……」

「何なんすかね、この婆さん。怖い」


 とよはにっこり笑うと、祭壇の前に座った。


「して、捜査の進展は如何に?」

「えっ。捜査っておばあちゃん」

「何じゃ知子(ともこ)。昨日も一昨日も、警察に行ったではないか」

「行ってないよおばあちゃん」


 とよは、話を聞かず一方的に続ける。


「よいな刑事さん。あの学校の下には、負のエネルギーが満ちておる。儂はそのエネルギーの正体を、悪魔降臨のために霊脈から集めたオドであると睨んでおる。ほれ見ろ! 儂の占星術によると、巨大な凶星が第三宇宙から光り輝いておる。生徒たちが危険じゃ。今すぐに、あの土地を封鎖さねばなるまい」


 とよは身振り手振りを用いて、藤堂たちに説明する。

 娘と大谷は呆れかえる一方、藤堂は真剣なまなざしで質問する。


「とよさん。私ね、降霊術とか占星術に大変興味がありまして、よろしければ占ってくださいませんか? 私の未来を」

「然り。待たれよ。略式ではなく、正式に占って進ぜよう」


 とよは祭壇に火を灯すと、占い道具の中から怪しい粉を取り出し、藤堂に振りかけた。


「うわあやべえ! 小麦粉だ! 公務執行妨害っすよ!!」


 お香と似た臭いのする怪しい粉を全身に振りかけられたが、藤堂は一切動じなかった。


「ここに手を当て、刑事さんの(アニマ)を投影するのじゃ」

「アニマ……つまり魂と。非常に興味深い」

「はわわ……藤堂さんがおかしくなっちゃったよぉ」


 大谷と娘は、必死に藤堂の体にかかった白い粉を払っていく。

 藤堂は差し出された水晶玉に手を当て、目を瞑る。


「見える! 見えるぞ!! これが刑事さんの未来じゃ……きえええええっ!!」

「うわあ全然落ちないっすよこの粉! おばちゃん! ウエットティッシュ!」

「ちょっと待っててね! すぐに持ってくるわ」


 とよが叫び終わると同時に、とよは床に崩れ去った。


「これは……残酷な結果となる。覚悟はよろしいか」

「はあ……」


 とよは血走った目で藤堂を見つめ、静かに告げる。


「ソナタはこれまで、巨大な闇に立ち向かおうと努力してきたな。じゃがそれは叶わなかった。多くの部下を失い、ソナタはそれを大きく悔いておる。諦めきれず、隠れて調べているの。違うか?」

「ッ!」

「そんなソナタは近い将来、見てはならぬ深淵を覗いてしまうことじゃろう。それを見たソナタの運命は再度大きく変わる。巨大な渦が再びソナタの運命を翻弄し、ソナタの前に因縁が立ちはだかる。だがそれは、ソナタを奮い立たせる。これは定まった運命じゃ。じゃが、これも何かの縁。らっきーあいてむを教えるから、それを必ず身に付けなさい。そうすれば、ソナタがこの世界を救うきーまんとなるじゃろう」

「……ラッキーアイテムとは」


 とよは部屋の隅から巨大な壺を持ってくる。


「この壺を家に飾るのじゃ!! さすれば、ソナタは救われるであろう! 今ならなんと、百万円するものを三十万で売ってやろう! どうじゃ?」

「……結構です」


 それ以降、とよの商談が長々と繰り広げられた。

 藤堂含め三人は、冷めた目のまま、部屋を後にした。



オチを含めて、とても気に入っています(笑)

こういうユルい話がいいんだよなぁ。という気持ちです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ