3 ソナタを占って進ぜよう
「その節は、母がご迷惑をおかけしまして……」
相談者、飯田とよの自宅に着くと、開口一番中年の娘が謝罪してきた。
「いえいえ。お気になさらないでください」
「もうほんと、おばあちゃんの奇行にはうんざりしてて……交番に行った日も、ちょうど私が出かけてるタイミングだったものですから……」
娘はぺこぺこと頭を下げ続ける。
「割とどこにでも行かれるんですか?」
「そうなんです。訳の分からないオカルトに支配されたみたいで……手が付けられないんです。それでね、おばあちゃんったらご近所さんに……」
娘はペラペラと身の上話を語り出した。
退屈そうに鼻をほじくる大谷のわき腹を肘で突くと、娘の話を中断させる。
「そう言えば、とよさんは今日もいらっしゃいますか?」
「ええ。奥の自室におりますわ」
「せっかく来たので、相談内容について聞きたいですし、お邪魔させていただいても?」
娘は快く二人を中に招き入れた。
「おばあちゃん。入るわよ」
通されたとよの部屋は、怪しげな香の焚かれた、いかにもオカルト趣味全開の部屋だった。
「うわくっさ!!」
「……」
「痛てえ!!」
藤堂は肘で大谷の鳩尾を突く。
「あははは! いやあ、うちの若いのは正直でして申し訳ない……」
「いえ。私もちょっとこれは、臭いと思ってますの。おほほ……」
言葉とは裏腹に、娘の顔は引きつっていた。悶絶した大谷はしばらく喋らなくなる。
藤堂は改めて、とよの部屋を見渡す。
壁には、大きな青い花が刺繍された巨大なタペストリーがかけられており、六芒星を象った祭壇が壁に沿って築かれている。エンジ色のカーペットの上には、占い用と思われる祭具が乱雑に散らばっていた。
「誰ぞ。儂の結界を破りし不届きものは」
飯田とよは部屋の隅で丸くなっていた。痩せぎすの小さな体を重そうに上げ、藤堂を見るなり鋭い目つきで睨みつける。
「ソナタ……良くないぞ。良くないぞォ。きええええええっ!」
「わあああっ! 妖怪ババアだ!!」
「大谷、お前うるさいぞ!」
とよは、祓い棒のようなもので、藤堂の肩を叩いた。
「こらおばあちゃん! 何するの!! 刑事さんよ!?」
「ほう。刑事とな」
とよは、刑事と聞くなり、借りてきた猫のように大人しくなる。
「そうかそうか。良くおいでなすった」
「はあ……」
「何なんすかね、この婆さん。怖い」
とよはにっこり笑うと、祭壇の前に座った。
「して、捜査の進展は如何に?」
「えっ。捜査っておばあちゃん」
「何じゃ知子。昨日も一昨日も、警察に行ったではないか」
「行ってないよおばあちゃん」
とよは、話を聞かず一方的に続ける。
「よいな刑事さん。あの学校の下には、負のエネルギーが満ちておる。儂はそのエネルギーの正体を、悪魔降臨のために霊脈から集めたオドであると睨んでおる。ほれ見ろ! 儂の占星術によると、巨大な凶星が第三宇宙から光り輝いておる。生徒たちが危険じゃ。今すぐに、あの土地を封鎖さねばなるまい」
とよは身振り手振りを用いて、藤堂たちに説明する。
娘と大谷は呆れかえる一方、藤堂は真剣なまなざしで質問する。
「とよさん。私ね、降霊術とか占星術に大変興味がありまして、よろしければ占ってくださいませんか? 私の未来を」
「然り。待たれよ。略式ではなく、正式に占って進ぜよう」
とよは祭壇に火を灯すと、占い道具の中から怪しい粉を取り出し、藤堂に振りかけた。
「うわあやべえ! 小麦粉だ! 公務執行妨害っすよ!!」
お香と似た臭いのする怪しい粉を全身に振りかけられたが、藤堂は一切動じなかった。
「ここに手を当て、刑事さんの魂を投影するのじゃ」
「アニマ……つまり魂と。非常に興味深い」
「はわわ……藤堂さんがおかしくなっちゃったよぉ」
大谷と娘は、必死に藤堂の体にかかった白い粉を払っていく。
藤堂は差し出された水晶玉に手を当て、目を瞑る。
「見える! 見えるぞ!! これが刑事さんの未来じゃ……きえええええっ!!」
「うわあ全然落ちないっすよこの粉! おばちゃん! ウエットティッシュ!」
「ちょっと待っててね! すぐに持ってくるわ」
とよが叫び終わると同時に、とよは床に崩れ去った。
「これは……残酷な結果となる。覚悟はよろしいか」
「はあ……」
とよは血走った目で藤堂を見つめ、静かに告げる。
「ソナタはこれまで、巨大な闇に立ち向かおうと努力してきたな。じゃがそれは叶わなかった。多くの部下を失い、ソナタはそれを大きく悔いておる。諦めきれず、隠れて調べているの。違うか?」
「ッ!」
「そんなソナタは近い将来、見てはならぬ深淵を覗いてしまうことじゃろう。それを見たソナタの運命は再度大きく変わる。巨大な渦が再びソナタの運命を翻弄し、ソナタの前に因縁が立ちはだかる。だがそれは、ソナタを奮い立たせる。これは定まった運命じゃ。じゃが、これも何かの縁。らっきーあいてむを教えるから、それを必ず身に付けなさい。そうすれば、ソナタがこの世界を救うきーまんとなるじゃろう」
「……ラッキーアイテムとは」
とよは部屋の隅から巨大な壺を持ってくる。
「この壺を家に飾るのじゃ!! さすれば、ソナタは救われるであろう! 今ならなんと、百万円するものを三十万で売ってやろう! どうじゃ?」
「……結構です」
それ以降、とよの商談が長々と繰り広げられた。
藤堂含め三人は、冷めた目のまま、部屋を後にした。
オチを含めて、とても気に入っています(笑)
こういうユルい話がいいんだよなぁ。という気持ちです。




