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蒼境の子羊《メシア》たち  作者: くろ飛行機
4章 予言者はかく語りき
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1 藤堂尽一《とうどうじんいつ》警部補のだらけた一日

 よく晴れた日だった。五月にも関わらず猛暑日一歩手前まで気温が上昇し、外で立っているだけで汗が吹き出してくる。


「……夏は嫌いだな」


 京都府警新田川署地域課所属、藤堂尽一(とうどうじんいつ)警部補は、署内から外に出た時、思わずぼやいてしまった。

 新田川署では、重喫煙者(ヘビースモーカー)の肩身が狭い。

 煙草を吸いたいと思うたびに、外にある喫煙所に向かうことが規定となっていた。

 本来は休憩時間のみ、という制約の元でしか吸えないはずだったのだが、今は休憩時間ではない。


 署員からじろじろと不審な目で見られることには慣れていた。そんなことよりも、最近は電子タバコが普及したこともあり、公共灰皿の数が絶滅寸前であることに嘆き悲しむ気持ちが大きい。


「流石に、俺も禁煙しないとな」


 そう言いながら、二本目に火をつけた。


 一服した藤堂警部補は、ゆったりとした足取りで、新田川署一階にある自席へ向かう。

 窓口を抜け、奥へと進むと、簡易的な間仕切りに覆われた窓際(・・)に到達する。

仕切りを開けると、二人分の席だけがある。机に申し訳程度の内線が置かれているだけで、仕事に関するものは一切存在していなかった。

 その代わりに、デスク周辺には二人分の私物(・・)が所せましと置かれている。

 特に酷いのは、藤堂の向かいの席に座る若い警官―――実質的な部下であり、唯一の同僚、大谷昇(おおたにのぼる)巡査の私物だった。

 プラモデルやゲーム機、フィギュア等が乱雑に置かれており、およそ公務員とは思えない素行の悪さである。


「ふんふんふん~、あそーれ、それ」


 大谷は現在、ご機嫌に歌いながら、昨日発売日だったというプラモデルを組み立てていた。


「おい。地域課の書類整理は終わったのか?」

「もー藤堂さんったら……そんなことは後でいいんすよ、後で」


 ニヤニヤと笑いながら、幸せそうに趣味に興じている姿に、藤堂はため息で意思表示する。


「だめだ。せめて終わってからやれ。せめて」

「いいじゃないっすか~。どうせ誰も見に来ないんだし。そんなことよりこれを見てくださいよ! 百分の一、『マージン号Z』の特大プラモ!! どうですかこの絶妙な色彩といいこのポージング!」


 へらへらと幸せそうに笑う大谷の顔を見て、藤堂は少し考えると、


「まったく良さがわからん。というか、ニッパーの処理も塗装ムラも酷すぎる。作り直せ」


 と言って、マージン号Zをゴミ箱に投げ捨てる。


「あああああああっ!! オレのマージン号Zがぁぁぁ」


 絶望し、ムンクの叫びのようなポーズを取っている大谷をよそに、藤堂は資料整理(しごと)を始める。

 間仕切りの外に置かれていた折り畳みコンテナに入っていたのは、昨年度地域課に寄せられた相談内容を記した用紙だった。これを整理してきちんとファイリングすることが、今日の二人の仕事である。


「とっとと終わらせるぞ。お前はそっちの折コンな」

「ウデト、アタマガ、コワレチャッタ……」


 藤堂は急ぐことなくのっそりと、相談内容を仕分けしていく。


「クレーム処理も大変だな、こりゃ」


 近年、よくわからないことを言う相談者が増えていると、地域課長が嘆いていたのを思い出す。治安が良いのはいいことだが、交番がお悩み相談室になるのなら、警察官ではなくカウンセラーを常駐させた方が良いのかもしれない。

 そんな下らないことを考えていると、ふと気になる相談内容を見つける。


「……ほうほう。今年の三月の内容だな。降霊術(・・・)について、か」


 平和すぎる警察は、とうとうオカルト的な内容まで捜査することになるのか。

 藤堂は内心呆れつつも、降霊術というワードに妙な胸騒ぎを覚える。


「え、何すか」

「〈2060年、3月20日〉。相談者は市内在住の『飯田とよ、九十八歳』だ」

「九十八歳って、えらい元気っすねー」

「相談内容は、私立新田川高等学校を調べてほしい。相談者によると、当該高等学校にて、夜な夜な降霊術が行われており、生徒諸君を悪魔の贄としている、とのこと。相談者は予言を行うことができると供述しており、その予言によると、〈10月20日〉に、生徒諸君の洗脳が完了し、大いなる悪魔が降臨するとのこと。その後の対応としては、対応に当たった駅前交番の巡査が、家族に電話をかけ、相談者を引き取ってもらった……なんだこれは」

「ははは!! なんだそれ! ヤバすぎるっしょ」

「そうだな。だが、これを書いた警官はとても真面目なようだぞ。報告書様式の備考欄に、気になることが書いてあってな」


 藤堂は報告書の原文を大谷に見せた。


「えっ、何すか……相談者は、信じようとしない巡査に対し、家族構成プライベート等を占うという形で言い当てた。恐怖を感じるほど、的確に当たっていた……何だコレ」

「どうやら、これを書いた駅前交番の巡査は、少し信じたようだな。この婆さんの力を」

「えっ。まじすか」

「じゃなきゃ、こんな書き方しないだろ」


 藤堂は報告書を折り畳みコンテナに戻す。


「市民からの通報がなければ動くことができないのは、警察の良くないところだ。逆に、通報は大切にすべきだ。思わぬ事件が隠れているかもしれん」

「ええ……藤堂さんそれ、サボりたいだけっしょ」


 ジトっとした目で藤堂を睨む大谷をよそに、藤堂は間仕切りから出て行く。


「あ! ちょっと、オレだけに押し付けないでくださいよ!」


 大谷は慌てて藤堂を追いかける。



※この章は、昂大くんの視点ではなく、全くの別視点(刑事パート)で物語が進んでいきます。リメイク前のコンセプトを継承した形にはなりますが、違う視点で物語を同時進行するというのは本当に難しい……( ;∀;)

最初に書いた作品でこのような形式を採用するとは……勢いというのは恐ろしいですね。

とはいえ、裏社会とは少し違った表の視点から、物語見ていただくのも面白いと思いますので、合わせてお楽しみいただけますと幸いです。

ちなみに、刑事パートは完結までに複数回登場する予定です。


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