6 違和感
雪が来てから三日経った。
放課後、昂大はいつものように一番乗りで部室へやってきた。練習着に着替え、グラウンドに出ると、率先して練習の準備を始めようとする。しかし、いつもは誰もいないはずのグラウンドに、数人の三年生が待ち構えていた。
「ちわっす。お疲れ様です」
「おい沖田」
「えっ」
挨拶の代わりに、突如胸倉を掴まれる。
「てめえ、調子に乗ってんじゃねえのか。あ?」
昂大は突然のことに目を丸くする。
この先輩たちはレギュラーではなかったが、後輩をいじめたり、ましてや暴力行為をするような者たちではない。少しおちゃらけているが、練習も真面目で印象は悪くなかった。
「す、すいません。おれ、ちょっとわからなくて。もしかして、何かしてしまいましたか?」
「してしまいましたか、じゃねえよ!!」
昂大は先輩に突き飛ばされる。力を受け流し、転ぶことはなかったが、かなりの力だった。
先輩たちは烈火のごとく怒りを募らせ、昂大に迫る。
「お前さ、近藤さんの何なんだよ」
「……は」
「この間、校舎裏でいちゃいちゃしてたみたいやなァおい!」
昂大は完全に面食らって、しばらく思考が停止してしまう。
この先輩たちの怒りの原因がまったくわからない。
校舎裏―――先日の昼に雪と弁当を食べたことは認めるが、それと先輩の沸点がまるでリンクしない。
「えっと、すいません。雪のこと、知ってるんですかね……」
「雪、やと……!?」
昂大が思わず、雪と名前で呼んでしまったことで、先輩たちの怒りが爆発してしまう。昂大は思いっきり頬を殴られ、尻餅をついた。
「てめえ、前から思っとったけどな、クソ生意気やねん!!」
「調子乗んなボケ!!」
「許さねえ……死んでもらおうぜ、なあ」
明らかに様子がおかしい。本気の殺意を向けてくる先輩たちに、昂大はなすすべなく連続で蹴られる。昂大は咄嗟に丸まると、頭を両手で抱え、防御の姿勢を取った。
蹴る。踏む。蹴る。蹴る――――――そして、一人が練習用の金属バットを持ち出してきた時、命の危機を感じ取った。
(やべえ……さすがにどうしよう)
「おい! 何してる!!」
その時、顧問の平本先生が遠くから近づいて来てくれた。
何度も蹴られたことで、練習着が土塗れになっていた。それを見た平本先生は、怒鳴り声を上げる。
「お前ら……何やってんだ!!」
「あ、いや、いいんです。大丈夫です!」
昂大は慌てて立ち上がると、平本先生に笑いかけた。
「おれが頼んだんです。亀の姿勢って、防御手段に最も適した体勢だから、熊に襲われた時とかにもいいんだーなんて話してて……誤解です。すいません」
昂大の言葉に、先輩たちは目を覚ましたように焦り始めた。
「あれ、俺たち何やってたんやろ……」
「沖田、俺ら、お前に……」
「いや! いいんす。大丈夫っす!」
昂大は元気であることをアピールするように、わざと体を大きく動かして見せた。
「平本先生。誤解なんで、気にしないでください」
「そ、そうか……」
昂大は誤解が解けるまで、へらへらと笑い続けた。
(正直めっちゃ痛ってえ……でも……)
先輩たちは、糸が切れた人形のように大人しくなり、皆青ざめていた。
(どういうこと……なんだろ……)




