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蒼境の子羊《メシア》たち  作者: くろ飛行機
3章 ぬくもり
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5 戸惑いの昼休み

 昼休みになり、昂大がいつものように爆弾おにぎりを頬張ろうとした時、雪がそっと近づいてきた。

 ふんわりと香る良い匂いに、昂大は思わず顔を背ける。


「ねえ昂大くん。お昼一緒に食べない?」


 雪は朗らかに笑うと、小さなピンク色の弁当箱をちらつかせる。

 その行動に、背後のクラスメイトたちは感嘆の声を上げた。


「一人暮らし、だよね? お腹空いてない? 実はちょっと余分にお弁当作って来たんだけど……」

「えっ……」


 雪は大きな紺色の二段弁当箱を、昂大の机に置いた。それを見たクラスメイトたちは、羨望の眼差しを向け、騒ぎ始める。


 ――――――突然の弁当は嬉しかったが、少し妙な気もして、即答できなかった。


「ごめんなさい。迷惑、だった?」

「いや、嬉しいんだけどさ、その……」

「いきなり迷惑だよね。ほぼ初対面の人からのお弁当なんて」

「ううん。そういうことじゃなくて」

「正直に言うとね、ちょっとお話したかったんだ」


 雪はそう言うと、クラスメイトたちに手を合わせる。


「ごめんね。皆には今度、お菓子作ってくるから」


 その言葉に、クラスメイト達は大喜びで散っていった。


「行こっか」

「……うん」


 昂大は、胸に何か閊えるものを感じ、足早に教室を出る。

 二人はそのまま人気のないグラウンドの隅へ移動する。石段の上に横並びで座ると、雪が弁当を開いた。


「ごめんね。いきなり連れ出したりして」

「いや、全然大丈夫」

「実は私、昂大くんのこと、詳しく一方的に知ってたんだ。万屋さんから聞いて」


 雪は紺色の二段弁当を開け、昂大の前に置いた。


「そうだったんだ……」

「私ずっと、仕事で海外にいたから。日本にいたのって、十歳くらいまでなんだ」

「そうなんだ。会ったことないよな」

「うん。色々勉強したり、訓練したりしたのも……拠点は海外がほとんどだったから」


 雪は少し俯いたまま、自分用の弁当を食べ始める。


「いただくよ。ありがとな、ほんと」


 昂大は雪が作った弁当にがっつく。

 からあげ、ハンバーグ、たこさんウインナー、野菜も入ったバランスの良い弁当だった。


「うまい……めっちゃうまい」

「ほんと? よかった。日本人が考える弁当って、こんな感じかなって思いながら作ったからよかったよ」

「うまい」


 昂大は嬉しそうに弁当を完食する。


「昂大くん、部活やってるんだって? もしよかったらさ、明日も作ってきていい? 栄養もきちんと考えるから」

「そんな、申し訳ないよ……」

「ううん。いいの。どうせ家に帰ってもやることないし」


 雪はにっこり笑い、自分の弁当を食べ進める。雪の弁当は、肉が一切入っていない、野菜中心のヘルシー弁当だった。


「……そのさ、すごいな、近藤さんって」

「雪でいいよ。名字で呼ばれるの、あんまり慣れてないから」

「じゃ、じゃあ雪……さん」

「呼び捨てでいいよ。海外ではみんな呼び捨てだしね」


 雪は顔の赤くなった昂大を見て、朗らかに笑った。


「同じ境遇で、同い年の子と一緒に学園生活が送れるなんて……夢みたい」

「……おれもそうだよ。嬉しい」

「ねえ、そのさ、良かったら……友だち(・・・)になってくれる?」


 雪は照れ臭そうに頬を掻くと、上目遣いで昂大を見つめる。

 その薄桃色の双眸に射すくめられ、昂大は目を泳がせた。


「も、もちろん……お願い、します」

「ははっ。なんだか告白みたいだね」


 雪は昂大をからかうようにからからと笑った。

 昂大は焦って勢いよく立ち上がる。


「も、戻ろうぜ。ほら、次の授業、体育だろ。着替えなきゃいけねえし」

「そうだね。戻ろっか」


 足早に歩き出した昂大は、ふと思っていることを口にする。


「いきなり来て、みんなから好かれて、それで弁当も作れて、すごいな」

「……」


 思わぬ昂大からの賛辞に、雪の顔から笑みが消えた。


「そんなことないよ。私は昂大君が羨ましい(・・・・)のに」

「……えっ」


 ――――――強い日差しが、雪の背中に降り注いでいた。

 笑みを覆うように、深い陰が落ちる。


「じゃ、また後でね」


 雪は空になった二つの弁当を持ち、校舎の方へ戻っていく。

 昂大はその背中を、茫然と見つめていた。


何やら不穏な気配が漂っていますが……どうなることやら。

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