5 戸惑いの昼休み
昼休みになり、昂大がいつものように爆弾おにぎりを頬張ろうとした時、雪がそっと近づいてきた。
ふんわりと香る良い匂いに、昂大は思わず顔を背ける。
「ねえ昂大くん。お昼一緒に食べない?」
雪は朗らかに笑うと、小さなピンク色の弁当箱をちらつかせる。
その行動に、背後のクラスメイトたちは感嘆の声を上げた。
「一人暮らし、だよね? お腹空いてない? 実はちょっと余分にお弁当作って来たんだけど……」
「えっ……」
雪は大きな紺色の二段弁当箱を、昂大の机に置いた。それを見たクラスメイトたちは、羨望の眼差しを向け、騒ぎ始める。
――――――突然の弁当は嬉しかったが、少し妙な気もして、即答できなかった。
「ごめんなさい。迷惑、だった?」
「いや、嬉しいんだけどさ、その……」
「いきなり迷惑だよね。ほぼ初対面の人からのお弁当なんて」
「ううん。そういうことじゃなくて」
「正直に言うとね、ちょっとお話したかったんだ」
雪はそう言うと、クラスメイトたちに手を合わせる。
「ごめんね。皆には今度、お菓子作ってくるから」
その言葉に、クラスメイト達は大喜びで散っていった。
「行こっか」
「……うん」
昂大は、胸に何か閊えるものを感じ、足早に教室を出る。
二人はそのまま人気のないグラウンドの隅へ移動する。石段の上に横並びで座ると、雪が弁当を開いた。
「ごめんね。いきなり連れ出したりして」
「いや、全然大丈夫」
「実は私、昂大くんのこと、詳しく一方的に知ってたんだ。万屋さんから聞いて」
雪は紺色の二段弁当を開け、昂大の前に置いた。
「そうだったんだ……」
「私ずっと、仕事で海外にいたから。日本にいたのって、十歳くらいまでなんだ」
「そうなんだ。会ったことないよな」
「うん。色々勉強したり、訓練したりしたのも……拠点は海外がほとんどだったから」
雪は少し俯いたまま、自分用の弁当を食べ始める。
「いただくよ。ありがとな、ほんと」
昂大は雪が作った弁当にがっつく。
からあげ、ハンバーグ、たこさんウインナー、野菜も入ったバランスの良い弁当だった。
「うまい……めっちゃうまい」
「ほんと? よかった。日本人が考える弁当って、こんな感じかなって思いながら作ったからよかったよ」
「うまい」
昂大は嬉しそうに弁当を完食する。
「昂大くん、部活やってるんだって? もしよかったらさ、明日も作ってきていい? 栄養もきちんと考えるから」
「そんな、申し訳ないよ……」
「ううん。いいの。どうせ家に帰ってもやることないし」
雪はにっこり笑い、自分の弁当を食べ進める。雪の弁当は、肉が一切入っていない、野菜中心のヘルシー弁当だった。
「……そのさ、すごいな、近藤さんって」
「雪でいいよ。名字で呼ばれるの、あんまり慣れてないから」
「じゃ、じゃあ雪……さん」
「呼び捨てでいいよ。海外ではみんな呼び捨てだしね」
雪は顔の赤くなった昂大を見て、朗らかに笑った。
「同じ境遇で、同い年の子と一緒に学園生活が送れるなんて……夢みたい」
「……おれもそうだよ。嬉しい」
「ねえ、そのさ、良かったら……友だちになってくれる?」
雪は照れ臭そうに頬を掻くと、上目遣いで昂大を見つめる。
その薄桃色の双眸に射すくめられ、昂大は目を泳がせた。
「も、もちろん……お願い、します」
「ははっ。なんだか告白みたいだね」
雪は昂大をからかうようにからからと笑った。
昂大は焦って勢いよく立ち上がる。
「も、戻ろうぜ。ほら、次の授業、体育だろ。着替えなきゃいけねえし」
「そうだね。戻ろっか」
足早に歩き出した昂大は、ふと思っていることを口にする。
「いきなり来て、みんなから好かれて、それで弁当も作れて、すごいな」
「……」
思わぬ昂大からの賛辞に、雪の顔から笑みが消えた。
「そんなことないよ。私は昂大君が羨ましいのに」
「……えっ」
――――――強い日差しが、雪の背中に降り注いでいた。
笑みを覆うように、深い陰が落ちる。
「じゃ、また後でね」
雪は空になった二つの弁当を持ち、校舎の方へ戻っていく。
昂大はその背中を、茫然と見つめていた。
何やら不穏な気配が漂っていますが……どうなることやら。




