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蒼境の子羊《メシア》たち  作者: くろ飛行機
3章 ぬくもり
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4 それは温かい春風のような

 昂大は、一限目の数学が始まって少し経った頃に登校した。


(あーくそっ。なんで目覚ましかけ忘れたんだろう)


 思えば昨晩、美樹の帰り際の一言を布団の中でずっと考えていた。


 ――――――同い年のメンバーが来る。

 友だちだった純也と同じ、同い年の殺し屋が来るのだ。


 妙な胸騒ぎがする。目覚ましもかけずに寝てしまったのは、それが理由だろうか。


 後ろから教室に入った昂大は、クラスメイトの視線を気にしていた。何か言われるのではないかと、内心ドキドキしていたのだが、


「おーい。みんな今日に限ってどうした? えらい騒がしいやんか」


 教室内はざわざわと、別の誰かの話題で持ちきりだった。

 この状況を見かねて、数学教師の土屋が声を上げる。


「だって先生―! 気づかへん? 気づかへんの?」


 最前列に座っていた女子生徒が、窓際を指さした。


「今日、転入生が来たんやで! 見て! 見て!」

「知ってるよ。初めましてやね」


 紹介され、窓際に座っていた女子生徒が徐に立ち上がる。


 ――――――女子生徒は、ふんわりとした茶髪を後ろで結んでいる。ぱっちりとした美しい瞳でクラス中を見渡し、にこやかに笑うと、丁寧に自己紹介をする。その所作、声色、どれをとっても驚くほど魅力的だった。

 まるで、テレビやネットで見るアイドルのように―――いや、どこかの国のお姫様のようにも見える。


「初めまして。近藤雪です。今日から五組に転入してきました」

「近藤さんね。こちらこそよろしく」

「よろしくお願いします」


 にこやかにほほ笑む雪に、クラスメイトたちはこぞってラブコールを送る。


「よろしくー!」

「近藤さんって呼んでええ?」

「ほんま、かわいらしいなぁ……」


 男子も女子も、まるでアイドルの握手会に来たファン集団のようになっている。


(おれのクラスに……来たのか)


 このタイミングでの転入。それは彼女が、美樹の言っていた同い年のメンバーであることを裏付けていた。

 まさか自分のクラスに来るとは思っていなかった昂大は、ひっそりと音を立てないように自席に近づいていく。

 誰にも気づかれずに着席すると、教材用のタブレットを開いて再び女子生徒を一瞥する。


 ――――――視線が交差する。


 美しい薄桃色の双眸が、昂大を優しく見据えた。


「……ぁ」


 昂大は、時間が止まったかのように、雪にくぎ付けになった。

 胸が熱くなる。これまで感じたことのない温かい感情が、意識を支配した。


 ――――――かわいい。なんてかわいいんだろう。


 ふんわりと花の香りがする――――――気づけば目の前に雪が立っていた。昂大は慌てて我に返る。


「こんにちは」


 昂大は雪を見上げていた。

 すべてを包み込む優しい笑顔で、右手を差し出してくる。


「近藤雪って言います。よろしくね、沖田昂大君」


 昂大が右手を握り返すと、突然、優しくハグしてきた。

 何が何だかわからない昂大は、顔を赤らめて目を泳がせる。


 その様子を見たクラスメイトたちは、目を丸くして硬直する。堰を切るように大きなどよめきが起こると、土屋が手を叩いて授業を継続させる。


「はいはい。今は授業中やろ? 後で根掘り葉掘りききよし」


 その言葉ののち、男子生徒からのヤジが飛んだ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 休み時間に入ると、雪の周りにはクラスメイトの人だかりができていた。

 先ほどまで昂大に敵意を向けていた生徒たちも、今は雪と会話することに夢中になっているらしい。

 昂大はそんな様子を遠目で眺め、唾をごくりと飲み込んだ。


(なんなんだよ……)


 昂大はぼんやりと掌を見つめる。雪に優しく握られた感触を思い出し、再び胸が熱くなった。


「いやーほんまに可愛いな近藤さん」

「うおっ!」

「何や昂大。もしかして、近藤さんのこと好きになった?」

「ななな、なに言ってんだよお前!」


 突如話しかけてきたのは、先日スーパーで出会ったクラスメイト、楠木将人だった。


「ち、違う! 全然違うし!」

「うわ……そんな天然な反応されたら、関西人の血が騒いでまうで普通」


 将人は赤らんだ昂大の顔を見て、攻勢を緩めた。


「昂大って大分天然やな。わかりやすすぎやろ」

「な、何が」

「いや、そういうとこな。全ての挙動が……」


 将人は呆れたように笑うと、昂大の肩を軽く叩く。


「ほらええんか? 他の男子に近藤さん、取られてまうで」

「ち、ちげえって!!」


 その叫びに、雪の周りにいた生徒たちが反応する。


「そう言えばさ」

「沖田くん、近藤さんの何なん!?」


 一斉に敵意を向けられ、昂大は委縮する。

 そんなクラスメイトを、雪は優しくなだめた。


「まあまあ皆。昂大君とは、前に会ったことがあるんだよ」

「ええそうなん!?」

「うん。昔、ちょっとね」

「何それぇ!!」

「嘘やん!!」


 男子生徒も女子生徒も、興味津々で雪の机に縋る。


「私、嘘は吐かないよ」


 そう言い放った雪の表情に、一瞬だけ影が落ちたように見えた。


小ネタ:登場人物が京都人か大阪人か、関西弁のニュアンスを変えています。それを文面で表現するのは骨が折れますが、関西の方なら、どいつが京都でどいつが大阪か判別がつくかもしれません(笑)

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