3 考え事をしているとよく見る夢
――――――おれには、七歳よりも前の記憶がない。
最後に覚えているのは、泣きそうな顔でおれを見る万屋さんの顔だった。
その顔は、本当にすごく悲しそうに見えて、この人のために何かしなくちゃって思った。その姿だけはよく覚えている。
――――――人を殺した。
おれが初めて人を殺したのは、九歳の時だった。
万屋さんはおれに、人の殺し方を教えてくれた。
人を殺すことは、おれが生きて行くための荒療治なんだって、そう言って。
どうしようもないクズ、悪人、生きてちゃいけないゴミ。そんな人でなしだけを、殺す。そいつらから被害を受けた、弱い人のために。
初めて人を殺した時、おれの心はまっさらだった。
何も感じなかった。何も思わなかった。ただ、目の前で人でなしが死んでいるだけ。
死体の前で茫然と佇んでいるおれを、万屋さんは抱きしめてくれた。
その時の顔は、初めて会った時と同じだった。
おれは――――――万屋さんのために生きて行こうと思った。
万屋さんが言えば、何だってする。
万屋さんから言われれば、何人でも殺す。
万屋さんの言うとおりにする。
「ねえ。君はどうして、人を殺すの?」
誰だろう。聞いたことのない声だ。綺麗な、女の子の声。
おれは万屋さんのために人を殺しているんだけど。
「それで君は満足するの?」
うん。万屋さんがそれを望んでる。万屋さんがおれを認めてくれる。
「認められて嬉しいんだ」
嬉しい。認められたいから、万屋さんの言う通りにするんだ。
「じゃあ君の意思は? そこに、君自身の意思はないの?」
おれの意思? そんなもの、いらないよ。意味がないよ。必要ない。
だって、万屋さんのために、人を殺すんだから。
「気持ち悪い。変だよ、それ」
え。なんで。なんで、変なんだ?
心臓が激しく動く。
何度も何度も動いて、怖くて、息ができなくなって――――――。
「どうして人を殺すの?」
おれは、万屋さんのために。
「ねえ。どうしてってば」
えっ。おれは。おれ、は。
おれ、おれ、おれはおれは、おれ、はおれ――――――。
「そんなの、人形みたい。気持ち悪いよ、君」
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「はあ……はあ……」
昂大は全身にびっしょりと汗をかいていた。
慌てて体を起こし、呼吸を整える。
(あれ、おれ、何の夢見てたんだっけ……)
直前まで覚えていた夢の内容を思い出そうとして、ふと目覚ましを見る。
時刻は八時ちょうど。つまり、完全に遅刻だった。




