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蒼境の子羊《メシア》たち  作者: くろ飛行機
3章 ぬくもり
21/32

2 何しに来た

「で、何しに来たんだよ」


 昂大は部屋に入るなり不機嫌を全開にし、美樹をじろりと睨みつける。


「え、用事がなくて来ちゃダメ?」

「別に……そういうことじゃないけど」


 昂大は渋々敷きっぱなしの布団を壁際に避け、折り畳み机を引っ張ってくる。


「ここに住んでるって、(バン)ちゃんから聞いて。元気に学校生活送れてるかなって思ったんだけど」

「……別に普通だけど」

「そう? 顔には何かあったって書いてあるけど」


 美樹はふあーっとあくびをし、机の傍にあぐらをかいて座った。


「タバコ吸っていい?」

「ダメって言っても吸うだろ」


 昂大は窓を全開にし、外からの風を入れ込む。

 少し冷たい春の余韻が、夜風に乗って部屋を満たす。


「仕事の話、聞いた?」

「……聞いてない」

「わかった。だから怒ってるんだ」

「……怒ってない」


 昂大はビニール袋からハンバーグ弁当を取り出すと、キッチンの半分を占める大きさの安物の電子レンジで温め始める。


「あ、シュークリーム。一個貰っていい?」

「うん」


 昂大は適当な温かさになったハンバーグ弁当を机の上に置くと、不機嫌そうに「いただきます」と言ってから食べ始める。

 美樹は窓の方へ、煙をゆっくり吐き出した。


「雅治に何かされたんでしょ」

「さっきからなんだよ。うるせえな」

「顔に書いてあるんだって」

「意味わかんねえし。勝手に人の心を詮索すんな」


 昂大はより一層ムスッとして、ハンバーグを豪快に口の中に放りこむ。


「……前々から、あの人よくわかんねえんだよな」

「うんうん」

「爆弾をおれの教室の天井に仕掛けたって、嘘吐かれた。おかげで死ぬほど焦った」

「ははっ。やっばー。爆弾は嘘だったの?」

「最後まで本物だと思って解除したら、残り一秒で止まった。爆薬も入ってなかったし」

「それはまた大変な目に」


 美樹はにっこり笑い、シュークリームにかぶりついた。


「今回の仕事に関する責任者というか、リーダーはあいつなのよ。だから余計に気が立ってたんじゃないかな」

「会ったらいつもあんな感じ。おれ、何かした記憶もないのに、あの人に嫌われてる。まあいいんだけどさ。どうせおれなんて」


 不意に、美樹の顔から笑みが消える。


「ま、流石に何も知らないのは不公平よね。勘違いしないで欲しいんだけど、昂大に知らせなかったのは意地悪とかじゃなくて、万ちゃんの計らいだから。なるべく仕事に参加せず、学校を楽しんでほしいんだって」

「……おれ、吉凶の一員なんだけど」


 昂大はがっくりと肩を落とし、弁当と寿司のゴミを片付ける。シュークリームに手を伸ばし、包装を強引に開けた。


「だから尚更。本当は三年間仕事して欲しくなかったって言ってたよ。でも今回の仕事は、吉凶設立以来の最重要ミッションだから」


 昂大はそれを聞いて、一気にカスタードクリームを飲み込んでしまった。


「最重要ミッションって何だよ」

「新田川高校には、大きな秘密(・・・・・)がある。世界を揺るがす、重大な秘密が……ま、私も知らんけどね」


 昂大が内容を聞こうと言葉を吐きだす寸前、美樹の携帯の着信が鳴った。


「……ごめん急用。話はまた今度にしましょ」

「はあ? それだけ言って帰るのかよ」

「まあまあ気にしないで。オカルトみたいなもんだと思ってさ」


 ぺろっと舌を出した美樹は、玄関で靴を履く。


「ああそうだ。これだけは言っとかなきゃ」


 美樹は振り返り、真剣な顔つきで告げる。


「明日、優秀なメンバーが一人、派遣されてくるわ。昂大と同い年。私は何度か会って知ってるけど、多分昂大はがっつり関わるの、初めてなんじゃないかな」

「えっ」


 その言葉に、昂大は凍り付いた。


「おれの知らない人?」

「うん。名前は近藤雪(こんどうゆき)。吉凶で最も人を殺している(・・・・・・・・・)女の子よ」


昂大くん、めっちゃ思春期やなぁなどと。

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