2 何しに来た
「で、何しに来たんだよ」
昂大は部屋に入るなり不機嫌を全開にし、美樹をじろりと睨みつける。
「え、用事がなくて来ちゃダメ?」
「別に……そういうことじゃないけど」
昂大は渋々敷きっぱなしの布団を壁際に避け、折り畳み机を引っ張ってくる。
「ここに住んでるって、万ちゃんから聞いて。元気に学校生活送れてるかなって思ったんだけど」
「……別に普通だけど」
「そう? 顔には何かあったって書いてあるけど」
美樹はふあーっとあくびをし、机の傍にあぐらをかいて座った。
「タバコ吸っていい?」
「ダメって言っても吸うだろ」
昂大は窓を全開にし、外からの風を入れ込む。
少し冷たい春の余韻が、夜風に乗って部屋を満たす。
「仕事の話、聞いた?」
「……聞いてない」
「わかった。だから怒ってるんだ」
「……怒ってない」
昂大はビニール袋からハンバーグ弁当を取り出すと、キッチンの半分を占める大きさの安物の電子レンジで温め始める。
「あ、シュークリーム。一個貰っていい?」
「うん」
昂大は適当な温かさになったハンバーグ弁当を机の上に置くと、不機嫌そうに「いただきます」と言ってから食べ始める。
美樹は窓の方へ、煙をゆっくり吐き出した。
「雅治に何かされたんでしょ」
「さっきからなんだよ。うるせえな」
「顔に書いてあるんだって」
「意味わかんねえし。勝手に人の心を詮索すんな」
昂大はより一層ムスッとして、ハンバーグを豪快に口の中に放りこむ。
「……前々から、あの人よくわかんねえんだよな」
「うんうん」
「爆弾をおれの教室の天井に仕掛けたって、嘘吐かれた。おかげで死ぬほど焦った」
「ははっ。やっばー。爆弾は嘘だったの?」
「最後まで本物だと思って解除したら、残り一秒で止まった。爆薬も入ってなかったし」
「それはまた大変な目に」
美樹はにっこり笑い、シュークリームにかぶりついた。
「今回の仕事に関する責任者というか、リーダーはあいつなのよ。だから余計に気が立ってたんじゃないかな」
「会ったらいつもあんな感じ。おれ、何かした記憶もないのに、あの人に嫌われてる。まあいいんだけどさ。どうせおれなんて」
不意に、美樹の顔から笑みが消える。
「ま、流石に何も知らないのは不公平よね。勘違いしないで欲しいんだけど、昂大に知らせなかったのは意地悪とかじゃなくて、万ちゃんの計らいだから。なるべく仕事に参加せず、学校を楽しんでほしいんだって」
「……おれ、吉凶の一員なんだけど」
昂大はがっくりと肩を落とし、弁当と寿司のゴミを片付ける。シュークリームに手を伸ばし、包装を強引に開けた。
「だから尚更。本当は三年間仕事して欲しくなかったって言ってたよ。でも今回の仕事は、吉凶設立以来の最重要ミッションだから」
昂大はそれを聞いて、一気にカスタードクリームを飲み込んでしまった。
「最重要ミッションって何だよ」
「新田川高校には、大きな秘密がある。世界を揺るがす、重大な秘密が……ま、私も知らんけどね」
昂大が内容を聞こうと言葉を吐きだす寸前、美樹の携帯の着信が鳴った。
「……ごめん急用。話はまた今度にしましょ」
「はあ? それだけ言って帰るのかよ」
「まあまあ気にしないで。オカルトみたいなもんだと思ってさ」
ぺろっと舌を出した美樹は、玄関で靴を履く。
「ああそうだ。これだけは言っとかなきゃ」
美樹は振り返り、真剣な顔つきで告げる。
「明日、優秀なメンバーが一人、派遣されてくるわ。昂大と同い年。私は何度か会って知ってるけど、多分昂大はがっつり関わるの、初めてなんじゃないかな」
「えっ」
その言葉に、昂大は凍り付いた。
「おれの知らない人?」
「うん。名前は近藤雪。吉凶で最も人を殺している女の子よ」
昂大くん、めっちゃ思春期やなぁなどと。




