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蒼境の子羊《メシア》たち  作者: くろ飛行機
3章 ぬくもり
20/32

1 ちょっぴり変わった日常

3章です!! 2章に引き続きの投稿になりますが、よろしくお願いします!!

 カーテンから朝日が漏れ、昂大の寝顔を照らしている。

 浅い眠りの昂大が、不快そうに寝返りを打ったところで目覚ましが鳴った。

 時刻は七時半である。四十五分には自席に座っていなければならないが、昂大の動きは緩慢だった。


 昂大が寝泊まりしているのは、万屋に用意してもらったアパートだった。

 新田川高校の目と鼻の先にある、木造のボロボロワンルーム―――昔ながらの小さな液晶テレビと折り畳み机以外の家具はなく、布団は敷きっぱなしだった。

 のっそり起き上がった昂大は、冷蔵庫からアンパンを出し、食べながら制服に着替えていく。

 そして部活のリュックだけを背負い、家を出ると、かたつむりのように坂を上っていく。


 校門では、すっかり緑になった桜並木が、眠そうな昂大を出迎えてくれた。


 ――――――いつもの一日が始まる。

 先日の爆弾騒ぎから、昂大のクラスメイトに対する見方が変わった。

 これまで心の距離を感じ、無意識に避けていたのが、自分から進んで話せるようになったのは、大きな進歩だ。そんな昂大に対するクラスメイトの印象は、相変わらず不思議な奴(・・・・・)、というものだったが、ミステリアスな側面がプラスに働いているようで、以前よりもずっと話しかけられるようになった。


 あっという間に時間が経ち、一日の授業が終了する。

 昂大は、自身が学園生活の肝としている部活に対しては、一切手を抜かなかった。


 毎日一番に着替え、部活の準備を率先して行う。笑わず、無骨に、一心不乱に取り組んでいる姿に、上級生からの評判は良かった。


 そんな野球にひたむきな昂大を、監督の平本先生は高く評価していた。一年生ながらも先日の練習試合に出場させるなど、期待感を強めている。


「沖田。お前、今年の甲子園の予選からレギュラーとして大会に出てみるか」


 練習が終わり、監督室に呼び出された昂大は、平本にそう切り出された。

 嬉しさ半分、戸惑い半分の様子で聞き返す。


「嬉しいっすけど……でも、みんなになんて言われるか」


 平本は心配そうな昂大の肩を叩く。


「大丈夫だ。お前は雑用でも何でも、意味をわかった上で真面目に取り組んでいる。俺はそこを評価してるんだ。誰も文句は言わんさ。勉強は、あまり頑張っていないようだが?」

「す、すいません……」


 平本の呆れ笑いを見て、昂大は顔を赤らめた。


「あ、ありがとうございます。嬉しいです」

「じゃあよろしくな。もちろん勉強はちゃんとやるんだぞ?」


 昂大は、平本に一礼してから監督室を去る。


 ――――――認められた。

 そんな思いが、昂大の足どりを軽やかにする。

 アパートに帰っても食料がないので、近所のスーパーで買い物をして帰ることした。二十時を過ぎたスーパーには、ちょっぴり安くなった弁当や惣菜の売れ残りがある。

 その中で偶然、半額になった寿司を見つけ、カゴに入れる。続けて三割引きになったハンバーグ弁当も入れると、次に向かった先はスイーツコーナーだった。


「……ちょっとくらい良いよな」


 昂大はなるべく安く、たくさん食べるため、シュークリームを四つカゴに入れた。その足でお菓子コーナーに行き、アーモンドチョコや板チョコを次々とカゴに入れる。


「あれっ、昂大やん」


 突然名前を呼ばれ、昂大はカゴを背中に隠す。

 声の主は朗らかに笑うと、昂大に近づいて来た。


「こんな時間に買いもん? 野球部も大変やなぁ」


 楠木将人は昂大を労うと、背中に隠していたカゴの中身を覗き見る。


「お菓子ばっかやないか」

「う、うっせえな……別にいいだろ」

「あかんなんて一言も言ってへんやろ」


 昂大は顔を赤らめたまま、将人をちらちらと見ていた。

 将人は先日の爆弾解除騒動の最中、昂大の印象を良い方向に持っていくきっかけを作ってくれた人物だ。昂大はあの日以来、将人に礼を言おうと構えていたのだった。


「あああ、あのさ」

「ん?」

「そ、その……お前は……何しに……来たのかなーって」


 残念ながら言えなかった。

 将人は質問に答える代わりに自分のカゴを見せる。キャベツ二玉、豚肉四パックに業務用のお好み焼き粉が入っている。


「うちのチビ共がさ、明日お好み焼きがええらしいねん。買いもんくらい明日行けばよかったんやけど」


 将人は不満げに肩をすくめる。


「おれんとこ大家族やからさ、ちょっとめんどいねんな」

「そうなのか……」

「お前は夜ご飯買うん?」

「え、ああ……」


 カゴの中に入っている大量の菓子を、夜ご飯に食べると思われたくなかった。

 咄嗟に近くに詰まれていた2Lの炭酸飲料を持って、口角を上げる。


「ちょっとパーティ、やるんだよな」

「パーティ?」


 将人は首を傾げつつ、何かに気づいてうんうんと納得する。


「クラスで一番謎が多いやつが抱えている裏の顔……つまり彼女がおるんやな」

「は、はあ!? いねえよ!」

「え、それ彼女と食べるんやろ?」

「ちげえちげえ!」


 とはいえ、これを一人で食べる、なんて口が裂けても言えない。


「ふーん。まあええわ」


 将人はニマニマ笑い、レジに向かっていく。

 お互いに会計を済ませた二人は、一緒にスーパーを出た。


「そういえば昂大って、どこに住んどるん?」

「えっと、すぐそこのアパート」


 昂大は大きな道を挟んだ向かい側、アパートの方向を指さした。


「マジで? 一人暮らししてんの?」

「う、うん……」


 将人は羨ましい、と言わんばかりにため息を吐いた。


「ええよなぁ一人暮らし。彼女も連れ込めるし」

「いねえからな。いねえからな」


 そう言ってアパートに帰ろうとしたところで、異変に気付く。

 夜なのに大きなサングラスをかけた場違いな女が、昂大の部屋の前に立っているのを見てしまったのだ。


「ごほん。ちょっと用事思い出した」

「えっ。そうなん? ほな、また明日なー」


 半ば強引に将人と別れた昂大は、恐る恐るアパートに近づいていく。

 黒のジャケット、首元にゴージャスなストールを巻いたあの女性は、昂大のよく知る存在だった。


「あ、やっほー昂大! 来ちゃった」


 遠江羽流(とおとうみはる)の依頼を共に解決した浅井(あざい)美樹は、昂大に気づくと、にこやかに手を振ってくる。


「何がやっほーだよ……」


 昂大は美樹を睨みながら、押される形で玄関の鍵を開けた。



最近、スーパーの半額弁当が激減しましたね……恐るべし物価高

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