5 クラスメイトを気にしなければならない。
絶望する昂大の耳に、追い打ちをかける内容が飛び込んでくる。
石川のふとした問いかけが、波紋のように広がり、話題は昂大のことで持ちきりになる。
――――――沖田ってよくわかんないよね。
――――――いつも寝てるし。
――――――まともに話したこともない。
――――――存在感うっすいし。
――――――何考えてるかわかんない。
様々な言葉の中に、断片的に浮かぶ自身への印象。それらが大きな反響となって、昂大の意識にこびりつく。昂大は無意識に、マイナスな言葉や批判を探していた。
――――――なんか、違う世界にいるみたいじゃね?
どくん、と心臓が大きく跳ねる。
膨れ上がる恐怖と爆弾を解除できない絶望が、昂大の体を硬直させた。
そうだ――――――自分と彼らは、生きている世界が違うのだ。どんな理由であれ、血で汚れた人殺しである自分が、平和で平穏な学校生活など送れるはずがない。両者は決して交わることはない。
(おれは……)
残り五分。昂大の動きが完全に停止する。
マニュアルの続きが無ければ爆弾を解除することはできない。三分の一の確率に賭けて、導線を切る勇気や意志は、もはや欠片も残されていなかった。
(この学校にいる資格なんてないんだ)
聞こえてくる言葉。自分への言葉。マイナスな言葉。それらが意識を支配し続ける。
わからない。わからない。変な奴。何考えているかわからない。よくわからない。怖い。怖い。怖い。きもい。気持ち悪い。おかしい。変だ。狂っている。そうだ、あいつは――――――。
人殺し。
昂大は工具を置くと耳を塞ぎ、震えながら目を瞑った。
――――――もう、どうでもいいや。爆弾も、おれの命も。
「そうか? 俺はあいつのええとこ、見たことあるけどな」
そう言ったのは、クラスの中心にいる活発な男子生徒、楠木将人だった。将人の一言に、クラス中が注目する。
「この間放課後にな、あいつ花壇に水やってたんや。花壇って、用務員のおばちゃんが世話しとるやろ? その手伝いっていうんかな、なんか仲良さそうに喋ってたから聞いとったら、どうも自主的に手伝ってたみたいやったな」
昂大の意識が、現実に引き戻される。無情にも進んでいくタイマーのカウントダウンだけが、大きく耳に残る。
「あ、ウチも見たかも。そう言われてみたら、ゴミ出し手伝ってたのって、あいつやったんかもしれんなぁ」
将人の情報に、クラスメイト達は次々と言葉を重ねていく。
喧騒が先ほどよりも大きくなり、昂大に関する話が盛り上がっていく。
いつも寝ているのは人助けのしすぎ、という憶測や、運動神経はめっちゃ良いらしい、といった話、挙句の果てにはよく見るとかわくて癒し系ではないか、などと言った印象が湧いて出ていた。
荒唐無稽で意味不明だった。だがそれを聞いた昂大の目から、不意に涙がぽろりと落ちる。
(おれ、なんて馬鹿なんだろう)
タイマーの残り時間が、一分を切る。
昂大は箱型爆弾を掴むと、元来た配管を我武者羅に進み始める。
配管のつなぎ目に腕を打ち付け、足をすりむき、痛みが奔るが気にしない。何とか出口まで這うと、偶然使われていなかった第二化学教室の天井を突き破った。
――――――残り、十秒を切っている。
もう間に合わない。確実に皆を傷つけずに場を収める方法は一つしかない。
昂大は窓を開け放つと、三階から爆弾を抱えたまま飛び降りた。
――――――参、弐、壱。
「うおおおおおおおっ!!」
昂大は地面に落ちる寸前、爆弾を地面に叩きつけた。
零――――――キーン、コーン、カーン、コーン。
地面に叩きつけられた爆弾は、おもちゃのようにバラバラに砕け散った。
昂大は受け身を取り、一回転したところで膝を付く。荒い呼吸と流れる汗が、昂大の焦りを物語っていた。
(あ、れ……)
「では、沖田君の不思議な生態について、わかったら先生にも教えてくださいね」
「「はーい」」
そんなこととはつゆ知らず、クラスメイト達はつかの間の休憩時間に入る。
我に返った昂大は、慌てて爆弾の残骸をかき集め、茂みに隠す。
状況が呑み込めず、茫然と校舎に向かうところで、前から石川が現れた。
「プッ……ハハハッ。なんだその姿は」
「え、あの……どういうこと、ですか? マニュアルの最後のページ、何にも書かれてなかったし、それに爆弾だって……」
「そんなもの仕掛けると思うか? 訓練用の複雑なダミーだ。それにしても滑稽だなぁ。もの凄いストレスの発散になったぞ」
石川は、困惑する昂大を嘲笑うと、校舎に戻っていく。
「未熟者は、とっとと教室に戻って勉学に励め。以上だ」
石川を追いかけようと手を伸ばすが、それよりもクラスメイトのことが気になった。
なぜ、突然自分のことを良く言ってくれたのだろうか――――――そんなことよりも、助けると決めておきながら、途中で投げ出しそうになったことを深く悔いていた。
何が何だかわからない頭のまま、亡霊のように教室に戻った昂大は、クラスメイトに一斉に見られてしまう。
そして、皆から笑顔を向けられた。
「ええええええっ!!」
「なんなんその恰好!?」
「どこに行ったらそんなに汚れんの?」
昂大は鉄錆と埃に塗れた制服姿で、目の下にクマを作っていた。その上、荷物も持たずに手ぶらで来たとなれば、先ほどの話の続きが弾む。
昂大の周囲に殺到したクラスメイトたちが、昂大を質問攻めにした。
「ちょ、ちょっと待って……質問、多すぎるって……」
昂大は困惑しつつも、自然と表情が綻んでいた。
「な? 俺の言った通りやろ?」
そんな昂大を見た楠木将人は、自慢げにニカッと笑った。
二章終了です!
我ながらコンパクトにまとまった良い章だったと思っております。
爆弾は最初からその場で解体せずに外に出て解体すればよかったのに、そうしなかったのは昂大くんの真面目で単純、気が弱い性格故ということでした。石川さんは昂大くんのそんな未熟なところ見抜いて、今回の騒動を計算したのかもしれません(^_-)-☆
さて、次章はとうとうヒロインの登場です。連続して投稿しますのでお楽しみに!




