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蒼境の子羊《メシア》たち  作者: くろ飛行機
2章 犠牲の対価
18/32

4 爆弾を解除しなくてはならない。


 翌日、始業のチャイムが鳴ると、担任の堀田が出席を確認していく。


「沖田……えっと、沖田休みか」


 堀田は昂大からの連絡はなかったと思いつつ、一応確認してみる。


「誰か沖田見たやついるか?」


 教室がわずかにざわめくだけで、どうやら誰も目撃していないらしい。


「ったく……寝坊か?」

「そう言えば、昨日普通に部活にもおりましたけどね~」


 そう答えたのは、同じ野球部員の宮原陽喜(みやはらはるき)だった。五組にいる野球部は彼だけだ。


「そうか。まあいいや。今日も一日よろしくお願いしますってことで」


 堀田が出て行くと、まもなく一限目が始まる。

 引き戸が開かれ、タブレット端末を持った石川が登壇する。


 ――――――起立。礼。着席。


 石川は昂大の席を一瞥すると、爽やかな笑みを浮かべた。


「おはようございます。では、教科書32ページから行きましょう」


======


 屋根裏の排気口に飛び込んだ昂大は、飲まず食わず一睡もせず、爆弾と向き合っていた。

 排気口はアルミ製で、中は蒸し暑く、空腹と喉の渇きで集中力が削られていく。


(くそ……チャイム鳴っちまった)


 排気口は教室の換気扇とダイレクトに繋がっているらしく、教室で発せられた音がよく聞こえていた。


 ――――――パチ。

 マニュアルを何度も見返しながら、慎重に配線を切る。

 もう何回繰り返されたかわからない。数百本以上は切っている気がする。


(まだか……まだかよ……)


 もう時間が無い。

 額から流れる汗が、基盤に落ちないか不安で仕方がない。緊張で手が震えている。

 一手たりとも間違えられないプレッシャーと、人の命を背負っているという責任が、昂大に重くのしかかっていた。


 ――――――残り、十分。

 マニュアルの、最後のページをめくる。


「!!」


「さて、今日は奈良時代の政治の流れについて、一通り終えました。大化の改新以降、律令制は安定していくことになりますが、壬申の乱や藤原氏の台頭など、権力闘争が激化していくこととなります。平安時代に向けてのポイントの一つに、天皇を両立するたびに政権の中枢にいる者は誰か、という点に注目して流れを抑えるようにしましょう。明日は聖武天皇の時代、天平文化について詳しく見ていきたいと思います」


 授業が終盤に差し掛かったところで、石川がふと告げる。


「ところで……今日は沖田君は休みですか?」

「ああ。なんか、無断欠席らしいっすよー」

「寝坊じゃね?」

「全然興味ないけど」


 石川の問いかけに、クラスメイトたちが口々に答える。それを聞いた昂大は、思わず爆弾から目を背ける。


(なんだよ……なんだよこれ!)


 昂大はマニュアルの最後のページを見て絶望していた。

 最後に切る必要のある、信管に繋がる大元の導線。

 残された導線は三色だった。赤、青、黄色。しかし、マニュアルは白紙(・・)だった。


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