4 爆弾を解除しなくてはならない。
翌日、始業のチャイムが鳴ると、担任の堀田が出席を確認していく。
「沖田……えっと、沖田休みか」
堀田は昂大からの連絡はなかったと思いつつ、一応確認してみる。
「誰か沖田見たやついるか?」
教室がわずかにざわめくだけで、どうやら誰も目撃していないらしい。
「ったく……寝坊か?」
「そう言えば、昨日普通に部活にもおりましたけどね~」
そう答えたのは、同じ野球部員の宮原陽喜だった。五組にいる野球部は彼だけだ。
「そうか。まあいいや。今日も一日よろしくお願いしますってことで」
堀田が出て行くと、まもなく一限目が始まる。
引き戸が開かれ、タブレット端末を持った石川が登壇する。
――――――起立。礼。着席。
石川は昂大の席を一瞥すると、爽やかな笑みを浮かべた。
「おはようございます。では、教科書32ページから行きましょう」
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屋根裏の排気口に飛び込んだ昂大は、飲まず食わず一睡もせず、爆弾と向き合っていた。
排気口はアルミ製で、中は蒸し暑く、空腹と喉の渇きで集中力が削られていく。
(くそ……チャイム鳴っちまった)
排気口は教室の換気扇とダイレクトに繋がっているらしく、教室で発せられた音がよく聞こえていた。
――――――パチ。
マニュアルを何度も見返しながら、慎重に配線を切る。
もう何回繰り返されたかわからない。数百本以上は切っている気がする。
(まだか……まだかよ……)
もう時間が無い。
額から流れる汗が、基盤に落ちないか不安で仕方がない。緊張で手が震えている。
一手たりとも間違えられないプレッシャーと、人の命を背負っているという責任が、昂大に重くのしかかっていた。
――――――残り、十分。
マニュアルの、最後のページをめくる。
「!!」
「さて、今日は奈良時代の政治の流れについて、一通り終えました。大化の改新以降、律令制は安定していくことになりますが、壬申の乱や藤原氏の台頭など、権力闘争が激化していくこととなります。平安時代に向けてのポイントの一つに、天皇を両立するたびに政権の中枢にいる者は誰か、という点に注目して流れを抑えるようにしましょう。明日は聖武天皇の時代、天平文化について詳しく見ていきたいと思います」
授業が終盤に差し掛かったところで、石川がふと告げる。
「ところで……今日は沖田君は休みですか?」
「ああ。なんか、無断欠席らしいっすよー」
「寝坊じゃね?」
「全然興味ないけど」
石川の問いかけに、クラスメイトたちが口々に答える。それを聞いた昂大は、思わず爆弾から目を背ける。
(なんだよ……なんだよこれ!)
昂大はマニュアルの最後のページを見て絶望していた。
最後に切る必要のある、信管に繋がる大元の導線。
残された導線は三色だった。赤、青、黄色。しかし、マニュアルは白紙だった。




