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蒼境の子羊《メシア》たち  作者: くろ飛行機
1章 株式会社吉凶へようこそ
14/32

エピローグ 人の価値


 夕方、昂大は社長室に足を運んでいた。

 パソコンに向かっていた万屋は、昂大の緊張を感じ取り、作業を止める。


「何だ」

「ちょっと話があって来ました」


 昂大は、随分とよれよれになった入学案内を万屋の机に置いた。


「この話、受けてもいいですか?」


 昂大は万屋に頭を下げる。


「おれ、この間万屋さんに、純也の判断は間違っていたのかって言われて、考えたんです。純也はおれを守って(・・・)死んだ。それは、おれのせいです。死ぬまで背負っていかないといけない。でも今回の一件で、ハルに気づかされた……夢は誰かのために追うものじゃないって。それを聞いて、ハッとしました」


 昂大は拳を握り、一息ついて続ける。


「純也も、同じことを言ってたんです。それを思い出して。背中を押されたような気がしたんです」


 万屋はただ何も言わず、昂大の話を聞いていた。


「だから、ちょっと、やってみたいです」


 そして昂大は、指で頬を掻き、照れ臭そうに告げる。


「それにおれ、ただ悪人を裁くためだけじゃなくて、今回みたいに、吉凶の一員として……誰かの夢を護る(・・・・・・・)ことも、その……悪くないなって」


 万屋は昂大の目を直視する。そして仏頂面を、フッ、と崩す。


「それがお前の信念(・・)か」


 万屋はそれだけ言って、仕事を再開する。


「では、入学の手配はしておく。だが新田川高校は京都の方にある。三年間は下宿をしてもらうぞ」

「あ、そっか」

「不満か?」

「いや、大丈夫です」


 昂大は「お邪魔しました」と言って、社長室を出て行った。

 その背中を見送った万屋は、どこかへ電話をかける。


「……はい。ええ。最重要案件ですが」


 万屋は、決意を込めた表情で告げる。


「沖田昂大を、新田川高校へ通わせます。それで、よろしいですね?」


 万屋は返答を聞くと、電話を切る。

 ふう、と息を吐いて両肘を机につけ、指をからめた。


「……私は、必ずお前たちを救ってみせる」


 万屋は椅子をくるりと回すと、窓の向こうに見える黒い海を眺めた。


「それが、私の信念(・・)だ」



======



 乾いた空気と澄んだ夜空。冬の夜を背に、遠江佳彦(とおとうみよしひこ)はある場所を訪れていた。

 小高い丘の中腹に立つ、厳かな豪邸。重々しい門が開き、佳彦は中に招かれた。

 美しい庭園を歩き、屋敷の入り口へ向かっていく。


「佳彦君」


 老成した、それでいて美しい声だった。名を呼ばれ、佳彦はハッと声のした方向へ顔を向ける。そこには大きな噴水があり、月光が水面に反射する幻想的な光景が広がっていた。


玄武(げんぶ)さん……」

「この度は目的を果たせなかったようですね。君は顔だけが取り柄だったのに、見るも無残な姿になって……お労しいことです」


 噴水の傍にあるベンチに、和装の女性が座っていた。身長は160㎝以下で小柄だったが、まるで月を背負って座っているような存在感の女性に、佳彦は委縮する。

 女性は壮年であったが魅力的で、生気を感じさせる。皺が刻まれていたが、非常に眉目秀麗だった。

 何より存在感が強いのは、琥珀そのものかのような光を放つ相貌だ。見つめられれば、どこか遠い世界へ吸い込まれてしまいそうである。


「ぼ、僕は貴方の用意してくださった部下を連れ、貴方の言う通りに動いたのです! ですが、吉凶が……奴らが思った以上に手ごわくて」

「そうでしょうね。吉凶は〈蒼花幻想機関〉の中でも指折りの武闘派。金で雇えるゴロツキ程度では太刀打ちできないでしょう」

「で、ではなぜ僕に……」


 佳彦は腫れあがった顔で、玄武と呼ばれた女に縋る。

 玄武は距離を取るように、立ち上がって噴水を見つめた。


「二年前、私と君は社交界で出会いました。はきはきとした話術、何よりもその柔和な笑顔が私の好みに合っていました。だがその愛らしい表情の裏で、君の心の内には黒い野心があった。それを見て、非常に心惹かれたのです」


 玄武は言葉とは裏腹に、酷く憂いを帯びた表情で噴水を見つめ続ける。


「ですから、たっぷりエサを与えた。裏社会とのコネクションを与え、君の心の野心を育てようとしました。結果君の心は、非常に醜くなってしまったのです」

「な、何を言って……」


 佳彦の背筋に、悪寒が奔る。


「端的に言えば、私は匹夫に成り下がった君に、もはや興味などありません。でもせっかくだから、君から全てを奪い、心を折り、去勢した上でもう一度観察してみようと思いましたが……その顔ではね。とても残念です」


 佳彦は無意識に後ずさりしていた。


 ――――――二年前、社交界でこの女と出会ったことは運命だと思っていた。

 当時、ベンチャーとして立ち上げた会社経営がうまくいかず、太い人脈を作ろうとしていた佳彦に、玄武は全てを与えた。

 必要な知識、人材、取引先とのコネ、そして、遠江家(・・・)との繋がり。

 婿養子となり、完璧な経営基盤を手に入れた佳彦は、まるで世界を手に入れた気になっていた。

 しかし、それは全て、この女により実現したまやかしに過ぎなかったのだ。


「私が最も嫌うものは何か、わかりますか?」

「へ……」

醜い顔(・・・)ですよ。その」


 玄武は澄んだ琥珀色の瞳で、佳彦を一蹴する。その顔には一切の感情が籠っておらず、まるで佳彦を道端のゴミ同然に見下しているようだった。


「人間の価値は美しいか否かのみ。醜い人間など、人間に非ず」


 玄武はベンチに置いていた黒い折り畳み傘を手に取る。傘を開き、石突部分を佳彦に向けると、小さく呟いた。


「ああ……やはり醜い。もう見ていられない」

「あ……れ……」


 佳彦の体は、瞬く間に水風船のように膨らみ、ぐちゃ、と弾け飛んだ。

 血塗れの肉塊は、美しい庭に、真っ赤で歪な彩りを添える。


 ぎいい、と屋敷の扉が開き、中から若い女性メイドが出てくる。

 玄武と入れ替わるように庭に出ると、美しい所作で玄武に頭を下げ、スマホを手渡した。


 屋敷のエントランスに入った玄武を、美しい洋灯(シャンデリア)が出迎える。

 その時不意に、スマホが震える。玄武は温かい暖色の光の下で、メッセージを確認した。


「ふふ。彼は計画の要。その在り方、儚く脆い心、あの方に似た愛らしい瞳……全て鑑賞に値します」


 画面に映し出された昂大の写真を見て、玄武は口元を歪めた。



以下、ちょっと長めの前書きになっています。読み飛ばしていただいても問題ありませんので、よろしくお願いいたします。興味があれば、読んでやってくださいm(_ _)m



お読みいただきまして、本当にありがとうございます!!

こちらの作品は、Xで去年予告していた、私の初めて書いた作品を十年越しにリメイクしたものとなっております! (リメイク前は、偽りの惑星とかいう訳のわからんタイトルのついた、未完作品です( ;∀;))

リメイクとは言いつつも、はっきり言って全く違うものになっております。完全新作としてお楽しみいただけますと幸いです!


さて、述べました通り、私は創作を趣味にして十年……ああ、年を取るのは複雑な思いがあります(笑)

創作者としてのピークっていつなんだろう、なんて考えると嫌になるので、若気の至りだったリメイク前はそれとして置いておくにしても、成長した自分をしっかりと認識できるように書きたいなぁなんて思いながら書いております。

本作は私の十年間の集大成として、様々な感情や創作に対する思い、書きたいものに対する一つの答えを出した作品となっております。

十年もあると、中々色々なことを考えるものです。悩むことも多かったし、何より自分の至らなさみたいなところを痛感しながらも、自分の作品と向き合う……そんな十年だったかと思います。

十年間で最も大きな創作の転機というのは、〈エボルブルスの瞳~特殊事案対策課特命係傀異譚~〉を揺井さんと創り出したことです。現在投稿が止まっておりますが、今年で五年目に突入するほど、長く続く作品です。私の作品は、良くも悪くもこのエボに引っ張られておりまして、なんと二作品もの関連作品を書いては、完結させられていないという体たらく……これは由々しき事態です。打首獄門。絶対に完結させなければならないと気合を入れ……また本作を書いています。やばいですね。本当にだめじゃん!

しかぁし!!! どうしても書きたかったのは、十年前の置き土産を片付けたかったからなんです。というのも、エボルブルスの瞳を構想する前からずっと、関連した地続きの世界として、偽りの惑星(リメイク前のことです)ともう一作を書いていて、これらもエタらせています。(ちなみに、エボに登場するキャラクターで、偽りの惑星時代から登場する者がいたりします。これはちょっとすごい)

つまり、十年間の集大成とするならば、この負の遺産(笑)を、今に続く形で完結させることで、初めて前に進めるんじゃないかと思ったのです。ですから、リメイクするという体で、あの時は未熟だった十年前の自分が書きたかったものを今書いてみようと思い至りました。ということは、十年前の自分が何を考えて、何に悩んでいたのか、みたいな負の感情と向き合わねばならず、それはそれで楽しかったです。

長々と語ったのですが、何が言いたかったのかというと、本作の大きなテーマの一つに、『自分で自分のことを認められること』があります。

過去の自分を否定するのではなく、受け入れることで初めて前に進める。本作の主人公の昂大くんは、くろ飛行機と似てネガティブで歪んだ自己愛を抱えてしまっているのですが、互いに前に進めるようにという願いを込めて、プロットを書いたりしています。その他にもたくさんのテーマやくろ飛行機のアンチテーゼもふんだんに盛り込んでいるのですが、それは割愛します。いつか機会があれば語りたいなぁなどと思っています。(完結した時にしようね)

色々語ってしまい、長くなりましたが、完結まで止まることなく、絶対に走り続ける決意を持って、現在進行形で創作中です。ここまで気合を入れたので、絶対にエタらすわけにはいかない!!

という決意を込めて、前書きとしたいと思います。

長くなりますが、よろしければ最後までお付き合いいただけますと嬉しいです。

一か月に一章投稿していきたいと思っています。完結まで止まるんじゃねえぞ、と、何度も自戒し、頑張って書いていきたいと思います。


2026/3/20 くろ飛行機

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