25 唐揚げ定食
「アンズさん、今日の定食は?」
「あ、はい。今日は豚肉の生姜炒めか唐揚げです。小鉢はかぼちゃの煮つけとレンコン餅と初物で作ったフキノトウ味噌です」
アンズの説明を聞いてトカの腹の虫が鳴いた。
恥ずかしくて顔を背けたトカにコウは聞く。
「どうしますか?兄さん」
「…お前と同じものでいい」
「そうですか、では、自分は豚肉で兄さんには唐揚げを。小鉢3つ付きで。ご飯の量は自分は普通盛で、兄さんには大盛りで」
「はい、こちらお茶です。お料理すぐお持ちしますね」
アンズが席を離れるとトカはコウを睨み付けた。
「同じものでいいって言っただろ」
「兄さん、唐揚げ好きでしたよね」
「まあ…」
「自分の豚肉食べていいんで、唐揚げ1個ください」
「…おう」
2人は向かい合ったまま料理が来るまで特に会話を交わすことはなかった。
トカはそっぽを向いているからコウと目が合わない。
「お待たせしました、唐揚げと豚肉です。唐揚げ揚げたてなので気を付けてくださいね」
目の前に置かれた料理にトカはごくりとつばを飲み込んだ。
「食べましょう、兄さん」
「おう」
「いただきます」
「…いただきます…」
目の前のコウは汁物を飲み、豚肉を食べ、息を吐きながら美味さを味わっている。
揚げたてだと言っていた唐揚げはおいておいて、トカは汁物に手を伸ばす。
塩加減がちょうどよくて、体に染み渡るおいしさに思わず息が漏れた。
「美味いな…」
「美味いですよね」
トカのつぶやきにコウが返せば、トカは唐揚げを一つつまんでコウのご飯の上に乗せた。
「豚肉、よこせ」
コウは匙で豚肉と生姜をすくって同じようにトカのご飯の上に乗せた。
それからトカは夢中になって飯を掻っ込んだ。
少し腹が落ち着いたところで、フキノトウ味噌を口にしてその苦みが体中に広がった。
別の客の会計をして店内を見回したアンズと目が合って、アンズが近寄ってきた。
「お口にあいました?」
「あの…酒…」
「うちは定食屋なんでお酒おいてないんです」
「そうか…」
そう言ってトカは白飯を口に放り込んだ。
半分ほど食べ終わったところで、トカが箸をおいた。
「兄さん?」
「コウ、悪いんだけど、握り飯とか何か持ち帰りの分、金かしてくれねえか?」
「持ち帰りですか?」
トカは答えない。
言いにくそうにただうつ向いている。
「…アンズさん」
「はーい」
呼ばれてアンズが席にやってきた。
「兄さんが持ち帰りでっていうんだけど、弁当か何か作れますか?」
「作れますよ。今日のお品書きで言うと、ご飯、唐揚げ、豚の生姜炒め、かぼちゃの煮つけ、レンコン餅も。どれをおいくつおつくりしましょう?」
コウとアンズの視線がトカに向けられる。
「…弁当って言うか…病人とか、けが人とか、小さいこどもとかが食えそうなやわっこい飯がいい…2人分…」
トカの言葉にアンズとコウは顔を見合わせた。
トカの口からそんな言葉が出るとは思わなかった。
持ち帰りをしてまで食べさせようとするならば、その2人はトカにとって大切な人たちだ。
「少し時間かかりますけど…鶏出汁のお粥おつくりしますね。味は薄めにつけておくので、お好みで調整できるように。あと…レンコン餅は角切りレンコンを入れなければ柔らかくできますし、かぼちゃはつぶして、汁と混ぜて柔らかくして準備しますね」
アンズが今あるものでできる料理をあげると、トカは目を丸くする。
「いいのか?」
「はい。準備ができるまでゆっくりご飯をお召し上がりください」
アンズは厨房に戻っていった。
板前さんとシイカに少しだけ事情を話して、持ち帰りのお粥を作ることにした。
本当はお米から炊きたいけど、さっきの深刻な様子ではなるべき早く持っていかなければいけないだろう。
炊いてあるごはんを使って、いつも作ってある鶏だしで柔らかく、出汁と旨味をご飯に吸わせるように炊く。
レンコン餅は器に入れて蒸し、かぼちゃは取り分けてつぶし煮汁と混ぜて柔らかく、食べやすいようにした。
シイカが準備してくれた籐の籠にお粥と塩、その他のおかずを注意深く入れた上に、唐辛子味噌とフキノトウ味噌を塗って焼いた握り飯を2つ、唐揚げも入れた。
相手が病人か子どもかわからないけど、看病する側が倒れたら元も子もないのだから。
特急で仕上げた持ち帰り用の弁当をもって、席に戻ればコウもトカもキレイに食べ終わっていた。
「お待たせしました。こちらお持ち帰りのお弁当です」
「恩に着る」
「兄さん、ここは支払っておきますので、行ってください」
「悪いな…」
トカは籠の柄をもってコウとアンズに頭を下げた。
「飯、美味かった」
そう言ってトカはお粥をもって店から出ていったのだった。
トカを見送って、コウもアンズに静かに頭を下げた。
「アンズさん、ありがとうございます」
「いえ…ちゃんと食べてもらえるといいですね…」
「はい」
2人は入口の方に目をやったのであった。




