23 お茶会のそのあとで
シキのお茶会は味も量も満足いくもので、女性たちはすっかりとろけた顔をしているのであった。
そして、口々に「美味しかった」「今度はご飯食べに来るわね」と言って帰っていった。
そしてアンズはいつも通り、「また、お待ちしています」と返すのだった。
一方、女性たちは平民街を早足で抜けてしまってから、とあるお茶屋の個室へと足を運んだのであった。
「シキさん、どうやって見つけたの!?あの子?アンズちゃん」
「うちが嫁に欲しかったわ!!」
「あの子、お姉さんや妹さんはいないと言っていたわね…」
「ああ…なんてこと…うちだって欲しいわ」
「うちも嫁に欲しいけど…うちのバカ息子には絶対わからないわよ」
「あら、うちもよ。お見合いで舌打ちして出ていきそうよ」
「お前が舌打ちするな、で説教ね」
「説教だけすむ?勘当よ、勘当」
席について、お茶と小さなお茶菓子が出された後、女性たちが一気に口火を切った。
彼女たちは同じ問屋業を営む家や取引先の女将、若女将である。
アンズには内緒だが、内輪での紙問屋の嫁になるアンズのお披露目会だった。
同じく嫁を探している同業や取引先にアンズの存在を知らしめ、手を出されないように牽制する意味もあれば、彼女たちが羨むであろう嫁をもらえることへのちょっとした自慢でもあった。
アンズに内緒なのは、言えばアンズが緊張してしまうためだ。
普段の愛嬌のあるアンズだからこそ、牽制と自慢になるのだから。
これから彼女たちはあちこちで「紙問屋が得難い嫁を得た」と広めてくれるだろう。
「紙問屋さんにお嫁入したらぜひとも仲良くしたいわ」
「私もよ、美味しいお話聞けそうだもの」
「美味しいものが食べられそうの間違いでしょう?」
「実際全部美味しかったものねえ…」
アンズと年の近い若女将たちはこれからの交友を考えても楽しそうだ。
女性たちがアンズに好印象を持ったことにシキはホッとする。
女たちのつながりは男たちの繋がりよりも強固であるものだ。
「それにしても、シキさん。あんないい子自慢しないで隠しておくなんて…」
「コウ君が選んだとしたら…放蕩も意味があるのかって思うわよねぇ…」
放蕩者の旦那と息子を抱える女性たちは深く長い溜息をついた。
「まあ、皆さんがアンズちゃんに良い印象をもっていただけて、私も嬉しいわ。あの子との出会いがコウの放蕩から立ち直るきっかけになったのは間違いないのよ。だって、コウが飲み歩かなくなった理由が『美味しいご飯を食べたから』ですもの」
「初め聞いたとき驚いたわ」
「それで本当に飲み歩かなくなるなんて」
「本当よねぇ」
「美味しいご飯ってきっかけになるのねぇ」
「放蕩が治る美味しいご飯…」
「いや、実際美味しかったわ!」
「甘いとしょっぱいが絶妙で!」
シキの言葉に女性たちは次々に同意する。
美味しいご飯が放蕩を直すきっかけになるなら、彼女たちの放蕩夫や放蕩息子にも何らかの手を打てそうではある。
「まずはトマトと卵の汁物かしら?」
「それ、自分が飲みたいだけでしょう?」
「そりゃそうよ!」
女性たちの笑い声が軽やかにお茶屋の個室に響いたのであった。
季節はゆっくりと巡り、その間にも両家では婚礼の話もゆっくりと詰められて行った。
コウの家では急ピッチで新婚夫婦の住まいとなる離れの建築が進んでいるという。
そんな話を聞かされれば、急に夫婦になる実感がわいてきて二人そろって顔を赤くしてしまうのだ。
もちろんそのころには定食屋の常連にもコウの素性とアンズとの縁談が広まっていた。
勢いよく常連に絡まれたコウだが、丁寧に応対すれば、今度は常連たちが毒気を抜かれてしまう。
「婚礼は家族と同業者を呼んで行います。婚礼後のあいさつ回りがおわりましたら、皆さまへのお披露目ができればと思います」
「その時は祝い酒注がせてくれ!」
「ありがたく頂戴いたします」
酒と言われて乾くような欲求もなければ、冷たくなるほどの嫌悪も湧かなかった。
「コウさん?」
「いえ、皆さんが優しくて…」
「そうですね」
2人の雰囲気にあてられて常連たちは「暑い暑い」と大げさに騒ぐのであった。




