〈3〉翼ゆえに強欲
月が昇り今日も終了に近づいてきた頃、第6部隊の事務所内にて、ステイ、キリスコ、フェティーの3人が顔を近づけ輪になり、コソコソと小さな声で何かを話し合っていた。
「キリスコ、フェティー、いいか……予定通り明るくアットホームな感じでいくぞ」
「わかってるわよ…それより分かってるわよね?ぜぇーったい…正式に入隊するまでアタシ達の仕事の事言っちゃダメだからね。特にフェティーちゃん」
「わっ…わかっとる。我そんなバカじゃない」
「ヨシッ……じゃあ入れるぞ………」
そうしてステイはゆっくりと事務所の扉を開ける。
ガチャっと開かれた扉の外には、綺麗な白い翼を背中に負う有翼人が立っていた。
そして……
「「「
ようこそ!第6部隊へ!ハッジ・ホーキンくん!!
」」」
ステイ、キリスコ、フェティーは仲良さそうに手を繋ぎバンザイのポーズをとる。これが彼らなりのアットホームの職場のイメージの表現である。
「ハッ…………なにやっとんすかアンタら、特に左2人、いい歳して痛々しいんや」
だが、これはハッジには全く刺さらなかったようだった様で、ハッジの乾いた笑いが事務所に響く。
「ッ……なっ何よアンタァ!せっかくアタシ達がアンタの為にチョーウェルカム必死なのをこけ下ろしやがって!」
キリスコは初対面の同年代に馬鹿にされたのが悔しく、珍しくそう激昂する。
「……はぁ…まぁとりあえずお邪魔しやすわ」
だがハッジはキリスコの怒りの叫びをスカし、第6部隊事務所内へと足を入れる。
するとその時、いきなりステイが口を開く。
「邪魔するなら帰ってー」
と。
「ふえ?パパなに言ってんの?この有翼人を我等の隊に入れたいから呼んだんだろ?」
「まぁまぁ見てろ……」
フェティーが父に対し困惑な眼差しを向ける。
だがそんな眼差しを見ることなく、ステイは何故かハッジに何かを期待しているかの様にニヤニヤしていた。
そしてその笑みを向けられるハッジは何か勘付いた様な顔をした後、この世界の人間なら誰もが予想出来ないコトをする。
「………ほな、分かりました帰ります……って!なんでやねん!俺呼んだんお前らやろ!ええかげんにせんかい!!」
「「……………」」
突然のハッジのノリツッコミ、キリスコとフェティーは口を半開きポカンとしていたが、ステイだけは凄く嬉しそうに笑った。
「ハッハーハッハ!!流石カンサイ弁キャラ!ナイスノリツッコミ!」
「ッはぁー……もういいっすわこのノリ…超絶技おもろないし…これやって笑うんステイさんだけすぜ」
「ハッハハハハハ……ハー……いやいや悪い悪い、それより改めて来てくれてありがとなハッジ」
「ステイさんの頼みですから、無下に出来る訳無いやないすか」
「嬉しい事言うじゃなーい…」
「恩人すから」
「恩人って…別に俺は何もしてねーよ」
「ハッハ…あの時、俺が死にそうなってた時、ステイさんが差し伸べてくれた手がどんだけ嬉しかったか」
「もう10年以上前の話だぞ」
「関係ねっすよ、ステイさん。あの時があったから俺はこうして今も生きてるんや……ほんま……ウッうぅ……」
「おいおい、もう18だろ?泣くなって…」
「すいません、思い出しちゃいやして」
「………ハッジ……………そういや…マイトは元気か?」
「…ん…えぇはい師匠なら超絶技元気すよ。今日もステイさんの所行く言うたら『飲み誘ってね』言うてました」
「ハッ…お前の話でもするよ」
「多分師匠は愚痴メインちゃいます?」
「ハハッかもな………」
「ねーちょっとーそろそろ本題ー」
「あー悪いキリスコ、そうだな。立ちでする話でもないし座ってゆっくり話そう。大事な話がある」
「…………えぇ、でしょうね」
そうして、ステイ、キリスコ、フェティー、ハッジは事務所のソファーに深く座る。そしてステイはハッジの目の前に書類を1枚提示する。机に提示されたその書類は既にステイの拇印が押されていた。
「なんすか…これ?」
「単刀直入に言う、第6部隊に入ってくれ。第6にはお前の力が必要だ……頼む」
ステイはそう真剣な顔で言い右手を差し出した。
「………………」
すると、ハッジは顔にシワを作り少し考える。
「………………」
もう少し考える。
「…………………」
結構長めに考える。
そして…
「…………いや……無理やなー…うん、すいません断らせてもらいますわ」
普通に断った。
「えっ?」
「ハァ!?」
「おぉー」
ステイは思う、こいつ俺のこと命の恩人とか言っときながら普通に断るんだ…と。
キリスコは思う、さっきの感動の涙はなんだったんだよ…と。
フェティーは思う、今晩は鳥肉が食べたいなー…と。
「理由聞いても?」
ステイは断られるとは思っていなく、引きつった表情でハッジに問う。
「せやって…単純に俺、第6の事なんも知らんすもん。そもそもこの国の衛兵団に第6って部隊があること自体、一昨日師匠から教えてもらうまで知らなかったんやで」
ハッジ・ホーキン、彼は近衛兵団の衛兵では無い。現在はフリーの傭兵である。なので第6部隊など知るはずがない、というか知っていてはならない。
それもそのはず、第6部隊とは国の為、国に危険を及ぼすであろう人物を予め、それも誰にも知られる事なく殺すのが使命。
この国の平和が、いつ何時でも平和である為に。
「まぁ肝心な仕事内容もわからんまま、はい入りますとはいかんでしょう……せやから俺は第6には入れないす」
ハッジはそう言い書類の向きをステイへとかえす。
「………ハッジ……俺の下は嫌か?」
「いやいやいや、そうとは言うてませんやん。ただ不明瞭な事が多すぎるっちゅーことで……」
「じゃあ何なら納得する?金か?名声か?」
「まぁ金すね」
ハッジはそう即答した。
「ハッいいね、俺はお前になら言い値に色つけて払っても良いと思ってる。どうだ?」
「………それと、副隊長の座。それくれるっちゅーなら仕事云々はこの際聞かんでもいいすっわ」
するとハッジは白い歯をギラつかせ、そう言い放つ。
「はぁ?」
もちろん今さっき初めて出会った奴にそう言われて黙っていてられる彼ではなかった。
「ねぇ、あんまナメんじゃないわよ……翼引き千切るぞガキ」
キリスコは落ち着いた口調でそう言う。だがその内側は真逆である。
「ギャハッ!野郎の癖して女の格好してるスカタンが!やってみろや!テメェさっきからイカ臭ぇだわ!」
ハッジは立ち上がりキリスコを見下し笑う。
「隊長ー……アタシ久々に体動かしたーい」
キリスコはステイに抱きつき上目遣いで決闘の許可をとる。
そしてステイの出した決断はこうであった。
「……ハッジ…お前が勝ったら言い値の倍、それと副隊長の座をやるよ……どうする?やるか?もちろんこの勝負、受けたらお前はもう第6部隊だぞ?それでもやるか?」
「もち、やるやろ」
ハッジは今度は少しも考えることなく承諾した。
「キリスコ、ハッジ、着替えてこい」
そうしてステイは内心思う、やったー!なんか分かんないけどハッジの第6入りけってーい!と。
――
キリスコ・インディファレント。18歳、巨人族、身長174cm、体重63kg、武器〈大戦斧〉。
ハッジ・ホーキン。18歳、有翼人族、身長179cm、体重90kg、武器〈弓〉。
「ヨシッ…決着は俺が独断で決める。もちろん贔屓なんてしない…あとは好きにやれ、喧嘩にルールは無い」
場所は近衛兵団御用達の訓練場、夜も深くなってきたこともあり人は4人以外誰も居ない。
「……じゃっ…始めー」
ステイの合図と共にキリスコが動く。彼は自身の身長と同じ程のサイズの斧を引き摺りながらハッジに一直線に突っ込む、それに対しハッジは動く事なくマイペースに弓に矢をかける。
「パパ的にはどっちが勝つと思う?」
「……うーんそーだなー……」
キリスコ対ハッジ、始まってからたった5秒、先に相手に傷を与えたのは。
「キリスコだろ」
キリスコの下から上にかけての逆袈裟、だが傷といっても薄皮一枚、血すら出ていない。ハッジはバックステップで軽々避けたのだ。
そして、ハッジはまだ矢を射っていない。
「でもまぁ……それは純粋なパワーだけならだ。武器を扱う技術を見れば…ハッジの方が上手かなー」
ハッジはキリスコが大戦斧を振り切り、胴体がガラ空きになった瞬間を見逃すほどの男ではない。
ハッジの第一射目が、至近距離でキリスコの左肩を貫いた。文字通り、貫いた。
「ッー……痛ったァァー……」
キリスコは痛みの余り大戦斧を床に落とす。左肩からは栓の抜いたラムネの様に血が溢れ出る。
見るからに大怪我、そのまま放っておけば失血でキリスコは負けてしまうだろう。
「ハッ!…俺が弓やから近づけばどうにかなる思たか?アホが、始めっからカウンター狙いやボケ。もうええやろ、降参しろや」
ハッジはそう吐き捨てると弓を肩に担ぐ、ハッジの表情は既に余裕で満ち満ちていた。
「いっ…一撃で………パパ…キリスコ負けちゃう」
キリスコから流れる血を見て顔を歪めるフェティー。
「フェティー、俺がどうしてお前やベルさんじゃなくキリスコを副隊長にしてると思う?」
そんな我が子を見てか、ステイは質問する。
「………??…わっわからん」
「……キリスコはな俺の期待を裏切った事が無いからだ。それは単にお前やベルさんがそうじゃないって訳じゃない。ただ、アイツの場合、毎回、絶対、俺の期待以上をやってくれるからだ」
「…………パパはキリスコに期待してる?」
フェティーの不安混じりの声、ステイの返答次第でこの勝負がどうにかなってしまいそうだったから。
そしてステイは1人娘であるフェティーの期待を裏切らず、ハッキリと言う。
「当たり前だろ」
と。




