〈1〉浮浪する者
「ニャー……疲れたニャ歩くの早いニャ……」
途方もなく続く砂の平野、痛い程の太陽に照らされながらそう獣人の女が呟く。
そして、その獣人は汗が滴る瞼の下に鋭い眼光を覗かせ、5m程先を歩く黒いローブに全身を包んだ男を睨みつけていた。
「だったら着いてくんなよ、クソネコ」
黒いローブに身を包む男は、イラついた口調で獣人を罵りながら足を進める。
「い、嫌ニャ。お前を殺すまで着いてくっニャッ!」
獣人はそう物騒な言葉と共に腰に携えていた小さなナイフを男に投げる。そのナイフは疲弊している者が投げたとは思えない程正確に、ローブ越しに男の首筋へと深く刺さる。
「クッ……ブヘッ!」
ナイフの刺さった傷口からは血が垂れ、男は吐血する。
「クソッ…痛ってぇなクソネコ」
だが男は倒れる事もなく、まるで手に刺さった小枝を抜くかの様にナイフをひき抜き、地面に投げ捨てた。
「チッ…いい加減死ねよニャ」
獣人は目の前に起こっている超常に驚かない。何故ならこのやりとりは既に何十回と繰り返され、彼女にとって当たり前の事になっていたからだった。
「ハッ!クソネコ!お前こそいい加減無駄だってわかんねぇのか!?俺は死なねぇ!死ねねぇんだよ!ヴァンパイアだからな!」
男は怒号をあげる、だがその感情の行き先は獣人にではなく、まるで自分に言い聞かせているようでもあった。
「関係ないニャ、賞金首のお前を殺せばニャーの家族一生養えるくらいお金貰える……ニャーはお前を殺さないといけないんだニャ!」
「……………」
男は賞金首だった。価格はなんと破格も破格、金貨1000枚という馬鹿げた価格だった。この価格は大豪邸を建てた上で5世代先でも成金の様な生活が出来る程の大金である、つまりこの男1人を殺すだけで人生超絶イージーモードという訳だ。
「おい、クソネコ…俺は死ねないし傷もすぐ治る、でも1発は1発だからな」
「フッ…仕方ないニャー、1発だけニャ」
「おう、」
男はそう言うと獣人に近づき左手を振り上げる、そして獣人の右頬を殴った。
「痛ッたいニャー……………フッ…フフフ、やっぱお前は優しいニャ、ナイフで刺されたくせにビンタ1発だけ…相当甘々な奴だニャー」
獣人は赤く腫れた頬を手で抑えながらも、まるで男の本性を見透かしているかの様に不適な笑みを浮かべニヤついていた。
「………黙れ」
「黙らないニャ、優しい優しいお前はこんなニャーも殺せないぬるい男…ホント……ホント可愛いニャ」
「チッ……」
すると獣人の鼻から鼻血がポタポタと砂に落ちる。
獣人はその遅れて出てきた自身の鼻血を舌で舐めとると、ローブの男に近づきキスをする。
獣人は血の付着した舌を男の口内へと入れ唾液と絡める。
「んっ……ぷはッ……血が欲しい時はそんなまわりくどい事しなくていいニャ」
「………」
男は抵抗する素振りは見せず、むしろ積極的に血が混じった唾液を飲み込む。
何故ならヴァンパイアの彼にとってこれは食事だったからだ。
「………てかニャ、毎回思うんだけどこんな少量の血で良いんかニャ?」
獣人は自身の鼻血を手で擦りながら言う。
「………俺にはこんだけで十分だ」
「ふーん嘘ニャ……前に会った時のヴァンパイアにはニャーの三分の一位吸われたニャ、ついでにちょっと横腹も」
獣人はそう言うと服をたくし上げ自身の横腹にある痛々しい傷後を見せつける。
「俺は……人肉は食わない」
「それも嘘ニャ、覚えてるかニャ?ニャーとはじめて会った時、お前ニャーの体見て超食いたそうにヨダレ垂らしまくってたニャ」
「知らん、誰だそれ?」
「お前ニャ」
「違う………俺は⬛︎⬛︎⬛︎しか食べない」
男は獣人に聞こえない声量で小さくそう呟いた。
「ん?なんニャ?」
「何でもない、十人十色、俺はちょっとの血で足りる、この話はこれで終わりだ」
「あっそうかニャッ……でもニャーがもし死んだら、ニャーはお前に食べて欲しいニャ」
獣人はそう笑いながら言う、冗談を感じない曇りなき瞳を男に向けながら。
男はおもむろに獣人から目を背ける、その真っ直ぐな瞳が自身にとって毒になるとわかっていたから。
「………チッ!もうすぐ次の街に着く、まずギルドに行って依頼を受ける、出来るだけ安全なやつでいい。2、3個受けたらまたすぐ出発だからな」
「わかってるニャ」
もちろん安全な依頼ほど成功報酬は安い、2、3個受けたとしても稼げるのは銀貨5枚、食料に換算すると1人3日分である。
だが彼らにとってはそれで十分だった、何故なら男の方は食費がかからない安い存在だったからである。
つまり獣人の食費に稼いだお金を全振りできるのだ。
男は獣人から血を少し貰う、獣人は死なない化け物にボディーガードしてもらい飯も楽に食える。彼らの間には『賞金首を殺す』『賞金稼ぎから逃げる』という建前が存在しながらも互いに支え合う形になっていたのだ。
そうして、2人はギルドへと到着し、依頼を受ける。
「おっ……コレは…珍しいな」
男は依頼の掲示板に貼られた1枚の依頼書を手に取った、その依頼書は周りに貼られている依頼書とは用紙から内容まで異質だった。
【〔緊急〕アストラサウド北東部にて超重害魔物および魔獣識別番号「3」にあたる魔物、『害亞』が出現。
討伐もしくは捕獲した者には賞金として金貨100枚。】
「ふーん……なぁーネコ、コレ行こうぜ」
安全な依頼とは何のことだったのか、男はその依頼書を手に取りピラピラと獣人の顔の前で振る。獣人は獣の本能で男の振る依頼書を目で追って楽しんでいたが、少し経ち我に振り返ると、男が軽く言った一言の重要性に気がついた。
「……ニャッ!!?お前頭沸いてるのかニャ?個体名がついてる魔物の危険性知ってるのかニャ?しかも害亞って………一国の全戦力と戦わしても勝てるか怪しいニャ。そもそもここの近くに害亞がいるならニャー達も早く離れるべきニャ」
獣人は冷や汗を垂らしながら説明口調で早口に喋る。
「どうも正論ありがとう。それでも俺はヤルぞ。ネコは着いてくるだけで良いし報酬だって半分やるけど?さぁさぁどーする?」
だが、男の意思は既にカチコチに固まっていた。戦うのは男だけ、獣人はついて行くだけで報酬が半分つまり金貨50枚貰えるという超好条件、だがそれでも死ぬ危険性が十二分ある案件だが獣人の中でリスクよりリターンの方が美味しく見えてしまった。
「…………勝てる見込みはどんくらいニャ?」
「6割ってところか……そもそも害亞ってただの再生能力持ちの木偶の坊だろ?だったら俺に持って来いの案件だ」
「持久戦かニャ?」
男と害亞と共に再生能力持ち、互いに身を削り合い先に相手を消耗させ切った方が勝ちになると獣人は考える。
「いんや、相手は同族じゃ無いんだ、必ずどこかに弱点がある、運が良けりゃ1分で終わる」
男が言う言葉には根拠があった。何故かと言うと一般的な再生能力とは髪が伸びる、爪が伸びる、といった細胞の成長を超加速させるモノだが、男の再生能力はヴァンパイアという存在の概念に由来してのモノであり細胞が『無』から再生する、さらに再生にエネルギーを使用しないソレはまさにチート。同じ再生能力と言っても質が明らかにだん違い。
つまり害亞には細胞分裂を加速化を促す器官が体のどこかしらにあり、ソレさえ潰せば勝てると男はふんでいた。
「そんな簡単な事ならどれだけいいことかニャ」
そう、だがその器官が害亞の何処にあるかなんてわからない、害亞は全長150mにも及ぶ超巨大な魔物、もしソレが1ミリにも満たない探すの激ムズのふざけた器官だとしたら勝てるのはもはや運ゲーであった。
「まぁ……あとはやってみてだな…ヨシッいざ魔物退治へ!」
そうして2人はアストラサウド北東部へと向かい歩き始めた。果たして、そこに訪れるのは吉か凶か。
2人の冒険が今始まる!
「いやーニャ……まさか本当に1分で終わるとは思ってなかったニャ」
2人の冒険は幕を下ろした。
「それに関しては俺もビックリだったわ、まさか俺の読みが完璧に当たるとは……」
さすがに0行で害亞との戦闘を終わらすのは冷めるので解説しよう、男が害亞にとった作戦とは普通の人間だったら不可能な作戦だった。
まず初め、男は害亞に自身の存在をアピール、害亞のヘイトを自身に向けさせわざと、無抵抗のまま食べられた。
そう、本来の普通の人間ならばここで人生終了。だが男はヴァンパイア、死ぬ事はなく必ず復活する。そうして害亞に食われた男は見事、害亞の体内へと侵入したのだ、そこからの話は早い……とにかく体の中の臓器という臓器を破壊しまくったのだ。弱点というのは人間も同じで大概体内にある物だ、心臓しかり脳みそしかり、この道理から外れるのはせいぜい金玉くらいだろう。話を戻す、つまり男は手っ取り早く食われ体内に侵入し、とことん害亞の内で暴れまくる事で弱点を無自覚にも破壊していたのだ。
そして弱点を破壊され再生能力を失った害亞はそれはもうただのデカいだけの魔物、結果として無惨な姿となった。
害亞の体の穴という穴から血がメントスコーラの様に噴き出し一瞬にして超重害魔物であり魔物識別番号「3」の席は消滅した。
「ヨシッ……じゃあ帰って寝るか、そろそろ日が登るからな」
「……そ、そうだニャ…」
獣人は内心思う。この男に着いて行けば自分は一生安泰な生活どころか貴族…いや王族ばりの豪華な暮らしが出来るのではないのかと、だが獣人には離れた地に家族がいる。男は言った…『今回の報酬は半分やる』と、つまり既に獣人の手元には金貨50枚があるのだ、獣人は考える…今すぐ金貨50枚をもって家族と一緒に幸せな生活を送るか、それとも男に着いて行き更なる高みへと坂を登るか……。
そもそも獣人は賞金首の男を殺してお金を貰うのが目的である為、男に対して因縁や怨念があるわけではない。むしろ好意に近しい感情を抱いている。
だが、獣人がもう男と一緒にいる必要性な無い。
一刻も早く、家族の元へ帰りお金を届けるのが彼女の役目。
だが…人間とはそんな単純に造られていない。常に天邪鬼である。
「なー次はどの依頼を受けるニャ?」
獣人は家族を捨て男と生きる道を選んだ、その激坂を登りきった先、はたまた降りきった先に何が待っているかも考えずに。
――
そうして時が一年経った。
「おい!クソネコッ!そっちに1匹行ったぞ!頭潰して確殺しろ!少しでも意識残ってるとすぐ分裂する!」
「わかってるっ…ニャ!」
獣人は男が取り逃した魔物の頭にナイフを突き刺し足で踏み潰した。
彼らは未だ支え合い、冒険者として旅をしていた。
「………ヨシッ、今ので最後……終わったな」
「楽勝だったニャ」
「ハッ……お前が動いたのは最後だけだろ」
男は口角をあげ少し笑った。
「フッフフフフフ……お前、ホント可愛いニャ」
獣人はその悪意の無い笑顔を見せた男が新鮮に感じ、可笑しく思い獣人もまた笑った。
「ハッハハハハハ………」
「フッフフフフフフフフ………」
大量の魔物の死体の山の上で男と獣人の笑い声が響く、獣人は思う、こんな日がずっと続けば良いな…と。
そして言う…
「なーお前、そろそろ良くないかニャ?」
「あ?何が?」
「ニャー達、つがいにならないかニャ?」
まさかの『逆プロポーズ』。獣人は素直かつストレートに想いを伝える。
獣人の頬は紅に染まり、瞳は真っ直ぐ男を見つめていた。
「………………」
男はこの真っ直ぐな目が好きだった。嘘の無い、子供の様な純粋で太陽の様に輝いている目が。
だが…
「すまないが俺もう結婚して子供もいるんだ。お前の気持ちには応えられない」
既に妻子のいる男にとって、ソレは嬉しいと思いはすれど叶える事など不可能だった。
「……………えッ?……こども?」
獣人はさすがに動揺が抑えられなかった。一年以上共に旅をしてきて妻子がいる素振りなんて一切感じ無かったのは勿論、この男が子供がいる程の歳に見えなかったからである。
「あぁ……今年で12歳のな」
「12?………ハッハハ…嘘だニャ。どう見たってお前は10代後半の体ニャ」
「おい…………俺はヴァンパイアだぞ」
獣人はようやく思い出し理解する、自分が恋した相手がヴァンパイアであることを。ヴァンパイアには再生能力がある、それは単に怪我を治すだけの能力ではない、老化すらも元通りにしてしまうというものなのだ。
「ハハ…何だよニャ………じゃあ出会った時からニャーはただのバカで都合のいい穴だったのかニャ?」
獣人は膝から崩れ落ち、同時に瞼からも涙を流した。
自分の立場を認識してしまったのだ。身の丈に合わない相手と一緒にいて自分も特別な存在だと誤認してしまっていたのだ。
だが獣人…彼女は悪くない、仕方なかったのだ。恋は人を盲目にさせてしまうから。
「………そう捉えられてもいい」
男はそう静かに諭す様に無慈悲にも肯定する。だが、それは今獣人にとって一番かけられて欲しくない言葉だった。
「いっ!いい訳あるかニャ!ニャーが!ニャーが!どんな気持ちで今までお前と一緒にいたかわかっているのかニャ!?ニャーはニャーの家族の為に冒険者になった!でも今は違うニャ!ニャーはお前の隣に居たくて冒険者を続けてるんだニャ!家族を捨てたんだニャ!ニャーの家族はニャーが居ないと生きてけない!でも!それでも!ニャーはお前を選んだ!家族を殺してお前を選んだんだニャ!ニャーの覚悟を!そんな簡単に壊さないでくれニャ!」
「……ニャーニャーニャーニャーうるせぇんだよ!あぁ!?知るか!クソネコの覚悟なんて!俺に勝手に着いて来たのはテメェだろ!俺の弱味に漬け込んでんのか知んねぇけどな!俺はッ……」
男は急に口を手で塞いだ。何故なら自分の言っていることが自分に対しても同じだったからである。
「……わ、悪い」
男は謝る、だがそれはもう何の意味も成さない。
「………悪いと思うならもういいニャ」
獣人は立ち上がると男に背を向けて言う。
「何だよもういいって…」
「ここでお前とはさよならニャ」
「おいっ!……………ッ…そう…だな、元気でやれよ……あー…そーいえば1年近く一緒に居たくせに俺お前の名前知らねぇ」
「[ニャーコ]だニャ」
「へぇ…それじゃ……じゃあなニャーコ」
「ニャーもお前の名前知らないニャ」
「ハッ!お互い名前も知らねぇのか、ハッハハハッあー………俺は[ステイ・セント]だ」
「じゃあなニャ」
「あぁ、元気で」
「…………」
獣人…ニャーコはもう何も言わない、振り返らない、今ただ見捨てたはずの家族の元へと足を進める。この1年を否定する様に……。
「っはぁー…………なにをしてんだ俺は、早く目的を果たさないといけないってのに」
男…ステイはニャーコと真逆の道を進む、それは何の為なのか、それはまだ言うべきではないのかも知れないけれど決して軽くはない事はわかる。
結局…この2人の物語は何も生み出さなかった、ただどこにでもありふれた昼ドラレベルの薄い日常だった。
――
ステイがニャーコと別れて2ヶ月が経った。未だステイは一人ぼっちである。
「あー!!クソックソックソ!!なんでこんな探してんのに手掛かり1つ出てこねぇんだよ!」
男は目的を果たせずイラつき、酒場で酒に溺れていた。
「おいお客さん、叫ぶのは構わねぇが店荒らすのは勘弁だぜ」
酒場のマスターがステイに対しそう言い水の入ったグラスを差し出した。
「……なぁーマスター」
「あ?何だ?金が無ぇとは言わせねぇぞ」
「ハッ、金はちゃんとあるから安心してくれ」
「あぁん?じゃあ何だよ?」
「……『黒の玉寶』って知らない?」
「あぁ?なんだよそれ?お宝かなんかか?」
「そうそうお宝。探してるんだ」
「何でぇ、高えんかそれ?」
「高いよ、凄く高い、俺にとっちゃな。金貨50枚でも払う」
「ハッ!何だそりゃ君悪ぃ………悪いがこれっぽっちも知らんなガハハハハハ」
「そうか……ここももうダメか」
ステイはそう呟くとグラスいっぱいに注がれた水を一気に飲み干し、金を払い酒場を出る。
もうすぐ太陽が登る頃だ、ステイは宿へと歩を進める。
「『黒の玉寶』『女神の聖水』それと『太陽の血』か……あと3つ」
ステイは未だゴールの見えない道のりを想像し苦しくも笑う。
「あー……そういやクソネコは今どうしてんだろ」
ふとステイは思い出す。ステイはニャーコに対し責任や後悔は感じてはいない。ただふと思い出す思い出はかなり楽しいものだった。
「今頃は家族とよろしくやってんのかなー……俺もそろそろフェティーんところ戻んねぇとなー…」
ステイは薄く消えていく月を眺めてながら娘の顔を思い浮かべる。だが人は全てを手に入れる事など出来ない。何かを手に入れたいなら何かを手放す覚悟が必要だ。
ならば、既に手放したモノはどうなるのだろう。
「………ん?」
ステイの足元に何かが当たった。
ステイは月から自分の足元へと視線を移す。
「…………………………ハハ……アぁ?」
ステイの足元にはニャーコの死体があった。
「………………またかよ」
ニャーコの死体には顔を背けたくなるほど無惨に暴行された傷跡が無数にあり、肌は痣と火傷で変色し、指は全て折られ爪は無く、股からは子宮が飛び出し、目にいたってはくり抜かれ花が添えられていた。
「………何でッ!何でいつも…こうなるんだよ…なぁニャーコ……お前…ッ!」
ふとステイの目に、ニャーコの手に強く握られた布切れが写る。その布切れは以前、害亞を倒した際報酬として金貨50枚を入れニャーコに渡した物だった。
大金を1人の少女が持つところつまり…。
「ッー………俺のせいか!?また俺のせいなのか?おいなぁ!なぁ゛って!」
ステイはニャーコの死体に向け叫ぶ。だがその叫びはあまりにも無意味だった。
ステイはそれでも叫び続けた、その叫びはいつしか慟哭へと変わりなおもステイはニャーコに問い続ける。
もう直ぐ太陽が登る、ヴァンパイアのステイにとって太陽光は触れただけで体が灰になってしまう。
早くその場から逃げなければステイは灰になって死ぬ。そしてニャーコをどうこうする時間などもう無い。
ステイはニャーコの死体をその場に置き去りにし宿に帰った。
――
「なぁーステイ、どうして俺はいつもこうなんだ?」
ステイは宿の自室で自分の対し独り言で問う。
「…………」
だが答えは返ってこない。当たり前だ。
「………あっ」
ふと、思い出す。1年前のニャーコの言葉。
『ニャーがもし死んだら、ニャーはお前に食べて欲しいニャ』
「……………」
ステイは考える。
「………いやダメだな、俺は食わない。多分食ったら俺は俺じゃなくなる。俺が食っていいのはリリスだけだ」
ステイはそう亡き妻の名を呟き、目を閉じる。
また新しい夜が始まる。




