【3】リーキン・ストゥー
「あーあのなホンマ運が悪いとしか言いようないんやけど、フェティーちゃんな、ダークエルフアレルギーやねん」
ハッジさんはそう、まるで真剣に、嘘偽りの無い事を述べるかの様に私に言った。
つまりはそういう事なのだ。
「いや、……いやいやハッジさん。流石に…流石にそれは無理がありますって…何なんですかその限定的なアレルギー…あるわけないじゃないですか…」
「…………」
「ハッジさん?」
「…………」
「……………ハッジさん?」
「…………」
ハッジさんは何も言わない。ジッとただ私の目を悲しそうに見つめているだけだった。
「ほん…本当なんですか?」
「……まぁ俺は応援しとるで。それがたとえ絶対叶わない恋だとしてもや」
「………嘘」
「ほなら、俺は飯食ったし帰るわ。フェティーちゃんの介抱はリーキンちゃんがやり、普通に接する分にはなんも問題あらへんよ………頑張りや、これ金や。じゃっ」
「ッ…………」
「あっせや、それとな………リーキンちゃん超絶技おもろかったで……ククク…ギャハハッハハハハ!!あーやばい!明日キリスコに教えたろ!ギャハハハハ!!」
先程の悲しそうな面は何処はやら、ハッジさんは千切れんばかりに口角を上げ笑いながら店を出て行った。
残されたのはハッジさんが机に置いた余分なお金と私とフェティーさんだけだった。付け加えるならそれとフェティーさんの吐瀉物。
「だ、大丈夫ですか?フェティーさん」
「うぅ……ムリー気持ち悪い……」
「ぐッ!」
好きな人から面と向かって『気持ち悪い』と言われると凄く傷つく。
あーこれが失恋か。
「あっ!ごめんごめん。気持ち悪いってお前の事じゃなくてっ…」
やはり良い人だな。こんな時まで他人に気を遣えるなんて。
「…でも気持ち悪くなった原因は私なんですよね」
「………う…まぁそれは…」
否定しないという事はダークエルフアレルギーというのも本当なのか。
これはもう好きになる程辛くなるやつだ。
「とりあえず私達も帰りますか。家の近くまで送ります」
「……我家っていう家無い…第6の事務所の隣の部屋が我の居場所」
「……わかりました。では少し失礼します」
「うん」
そうして、私はうなだれるフェティーさんをそっと担ぎ第6の事務所に戻り、フェティーさんを見送った後私も家に帰った。
………結局私は迷惑しかかけなかった。勝手に突っ走って、告って、自分の心情を理解せず、何よりそれによって生じる他人の感情を無視して……。
「あー…ほんとっ嫌になる」
この日は全く寝付けなかった。
――
次の日。
「おっはよー!!リーキンくん!」
第6の事務所の扉を開くと目の前には満面の笑顔をしたキリスコさんがいた。
「ねーねー!ハッジから聞いたんだけどー昨日フェティーちゃんに告ったでガチ?」
そう私に問うキリスコさんの顔からは悪意しか感じなかった。
というかハッジさんはもうバラしたのか。
「……まぁはい。告白しました…ね」
「キャー!チョーステキー!」
「…でもダメでしたよ」
「えっ?なんで?」
「だってフェティーさんダークエルフアレルギーなんですから」
「………うーん?別にそれ関係なくない?フェティーちゃんの気持ちはちゃんと聞いたの?リーキンくんが勝手に諦めてない?」
「それはまぁ…」
「てかーなんか禁断の恋って感じで逆にモえる!」
その時のキリスコさんの言葉に私は何故かとても心を打たれた。
「ッ!!……たっ確かに!キリスコさん!私イケますかね!?」
「うんうんイケるイケるー。と、いう事でー次のお仕事はフェティーちゃんと2人で行ってもらいまーす!」
「仕事…ですか……また誰か殺すんですか?」
まったく……上げて落とさないでほしい。
「うん!もちろん!副隊長命令デス!」
「そ、そうですか」
そんなフランクに言われても…こっちは未だまともに食事すら出来ないというのに。
「んー?なんかやる気でない感じ?顔死んでるけどだいじょぶそ?」
「正直だいじょばないですね」
「アタシと一発ヤッとく?チョー元気でるよ」
「…………今回は誰を殺すんですか?」
「テメェこの新入り!ケツ穴から逃げるな!!」
「………」
「………っはぁー、はいはいごめんなさいねー。はい、コイツらが標的。結果が同じだから特にこれやれあれやれってのはないよ。ってことであとよろー」
と、キリスコさんは似顔絵が描かれた紙を2枚渡してきた。
1枚目に描かれているのは綺麗な純人間族の女性だが、顔に無数の傷痕が描いてあった。歴戦の戦士の様だ。
そしてもう1枚目には、こちらも純人間族で男性。だが純人間族と言うには珍しく、髪が赤色の塗料で塗られていた。
どちらとも10代後半くらいの若い2人。
「って!キリスコさん!もうちょっと説明ないんですか?」
「えー?これから殺す奴の事なんて知りたい?」
「はい、殺す以上、ちゃんと理解して、責任をもって殺さないと、自分の仕事に納得出来ませんから」
「………そう………イカれてるわ」(ボソッ)
「え?なんか言いましたか?」
「いーやなんも、それよりそいつらの情報でしょ。わかったわかった言う言う」
「お願いします」
「そーねー……まぁ一言で言うと爆発魔よ」
「爆発魔?」
「そ、こないだダフト街で起きた用水路崩壊事件しってるでしょ?」
「はい、私の出身地なのでかなり詳しいです。用水路が突然爆破してかなりの被害者も出たとか…」
でも事件が起きたのが真夜中だったから不幸中の幸いで死者はいなかったんだよな…。
「なら話は早いわね、で、その2人が事件の犯人ってわけ」
「ん?でも犯人がわかってるなら第3部隊案件じゃないんですか?わざわざ私達第6が手を出す程じゃ……」
「……まっ普通に考えたらそうよね、でも、こっからが重要だからよく聞いて。その2人、どうやら今日中にでもこの首都のどこかで爆破事件起こすみたいなのよ」
「………は?」
「いやーだからね、もう捕まえるとかヌルい事言ってらんないの。一刻でも早く、見つけ、ぶっ殺す」
「なっ、なんでそんなギリギリなんですか!」
「しっかたないじゃーん。だってほんとついさっき入ってきた仕事だしー!文句は※『影』に言ってよー!」
「ッ!!フェティーさんはどこにいますか!?」
「隣の部屋にいるわ」
「じゃあもういってきます!」
「はーいがんばってねー……万が一爆発してもアタシは責めないからー」
そうして、私の2回目のお仕事が始まった。
全く、つい最近入隊した新兵にやらせるレベルじゃないだろどう考えても!ふざけてる!
だが文句を言っている暇なんて無い。一刻も早く、国民の平和の為に犯人の2人を見つけ潰す!
――
※「影」…引退した老兵や戦争などで体のどこかを欠損し使えなくなった者で構成される部隊。普段は日常的に暮らしているが今回の様に事件の可能性があったり不審な人、物があった際、近衛兵団に報告する事が義務付けられている。
今回の爆発魔の件でいうと、1人の影が最近『ボンブ草』という乾燥させ着火すると爆破するという植物の売り上げが良いという話を薬草を取り扱っている店の人から聞き、つい最近ダフト街で爆発事件があったこともあり怪しく思った影が調査をしていて辿り着いたという。だが辿り着いた頃には時すでに遅く、犯人達の手元には超大量の乾燥ボンブ草があり国王の判断で第6部隊へと依頼があった。
――
「と、いうことでフェティーさん、頑張っていきましょう!」
「おー……」
フェティーさんを部屋から連れ出し外に来たのは良いものの、フェティーさんの寝起きなのかやる気はあまりなかった。だが、寝起きで気怠るそうにしているフェティーさんもとてもキュートだ。
「なーリーキン、ざっとしか聞いてないんだけど今回の案件、今にでも爆発するかもしれんのだろう?どうするんだ?」
「まぁーそうですね、まず当たり前なのですが探しに行きます。でも首都は広いです。闇雲に探しても見つからないでしょうしなによりこの衛兵の制服のまま探し回っていたらかえって目立ってしまうかもしれません。ですが安心してください、私は魔法使いです。それら全ての問題を無くせます」
「おー!」
「フェティーさん、高い所は好きですか?」
「?……嫌いじゃないぞ」
「良かった、では、行きましょう……『空を歩む』+『認識阻害』!」
私はそう、いつも腰に携えている杖を空に向け言う。
「フェティーさん、私は今空を飛ぶ魔法と他人から認識され難くなる魔法を自分達に掛けました。なので私達は鳥の様に上から全体的に街人を見れます。これなら面倒な人探しも少しはマシになりますね」
「すっごーい!ほんとに浮く!楽しいーなこれ!」
「では行きましょう!」
「ウェーイ!」
――
それから私達は犯人の傷だらけの女と赤髪の男を探し首都中を飛び探し回った。時には二手に別れたり、『すけすけ』という魔法を使い建物の中を透視した。いつ爆発するかもわからない恐怖と責任感で押し潰されそうになりながら。
だが…
「見つからない!!」
首都中を朝から丸1日探したが犯人達らしき人は見つからなかった。
「もう日が暮れちゃたな…我もう眠いんだけど、明日に持ち越すか?」
「いやダメです。流石にそれはリスキー過ぎます、少し休憩したらまた再開しましょう」
「えー…でもお前魔力は大丈夫なのか?ずっと使ってて流石に限界だろ」
「……まっまぁ、そうです。けど!国民の安全が先です」
「………フッ…だな。もうちっと頑張るか」
「ええ」
「でもだ、とりあえずあそこのバーでお茶でも飲んでちょっと休憩しよう。我が奢ってやる先輩としてな!フハハハハ!」
「フェティーさん……好きです」
「うっ!マジ辞めろ!吐く!」
「ハハッ、すいません。魔法解除」
と、私達は休憩の為バーまでの細道を進む。
すると前方から黒いローブを着てフードを深く被った2人組の人とすれ違った。
「あぁ、すいませんどうぞ」
私は道が狭かったのでその2人組に道を譲る。こういう小さな親切を忘れいないのも衛兵としての仕事だ。
「あ゛〜ありがと〜な兵隊さん、お疲れ様です〜♪」
「ちょっと!余計な事すんなバカ!」
フードの中から男のしゃがれた声と女の声が響く。
「………………………………あ」
すれ違う瞬間…
見えた、というか目に入った。
「おいリーキン、どうした?早く行こうよ」
黒いローブのその下。
「フェティーさん、振り返らないでそのまま進み今から言う私のセリフに反応しないでください」
「ふえ?」
手前の女の顔にあった…無数の傷痕が。
後ろを歩く男にあった…フードから少しはみ出た赤い髪の毛が。
「アイツらです」
「……ッー!」
「多分向こうは私達をただの衛兵だと思ってます。今なら日も落ちて人通りも無く誰も見てません。ヤりますか?」
「うん、お仕事だから」
「わかりました。では……」
私は静かに振り返る。そしてあの2人に気づかれぬ様ゆっくり杖を構え、その先端を奴等に向ける。
「……ふぅー」
殺す、殺す、殺すんだ!今から!この爆発魔達を!
国の平和の為、国民の安心安全の暮らしの為!
私は人に向けて魔法を放つ。
殺すから…
「『光輝く弾丸』」
――
光輝く弾丸……鋼鉄をも溶かす程の熱量を持った小さな弾丸が杖の先に生じる魔法陣から発射される魔法。人間に一発でも当たれば風穴が出来る程の殺傷能力はもちろんのこと、この魔法の真の恐ろしさはその発射される弾丸の数である。普通の魔法使いなら好調でも2、3発が限界、だがリーキン・ストゥーは最大で千発の弾丸を発射する事が出来るまさに化け物。だが日中の魔力の消耗と街への被害を考慮しリーキン・ストゥーは弾丸の数を14発へと調整、そして発射した14発の光の弾丸は1発も外れる事なく犯人達に命中した。男の方には10発、女の方には4発、共に急所を貫いた。
犯人達の身体中に空いた無数の風穴から血が噴き出る。そして倒れる、誰が見てもそれは一方的なまでの殺戮、これが100年に1人の天才魔法使い[リーキン・ストゥー]である。
「……ウッ………オエェッ…ゲロッ」
人を殺した事により胃液の逆流が起きた。
だがいい、爆発魔共はちゃんと殺した。一件落着、オールグリーンだ。
「はぁ……フェティーさん、では帰りましょう」
私は後ろに振り返りフェティーさんに話かける。だがフェティーさんの顔は何故か変だった。
何というか、目をまん丸く見開いて、眉間にシワを寄せ、まるで現実が受け入れられない様な凄い険しい顔をしていた。
「?…フェティーさ 「リーキン!うしろッ!!」
フェティーさんはそう大きく叫ぶ。
「えっ?」
私は振り向き、死体となった爆発魔達の方に目線を向ける、だがその瞬間にはもう遅かった。
私の顔面のすぐ目の前に拳があった。
何故、何で、誰の?そんな事を思う時間すら無かった。
だが、感じ過ぎた『死ぬ感』が私の避けるという行為を最大限に早く正確に発揮させた。
顔を右に背け拳が顔ギリギリ空を斬る。
「…………クッー!!」
避けれた……というには余り適切な表現では無いかもしれない、左耳が削がれ無くなった以上、今回のお仕事、前回より沢山給料を貰わないと割に合わない。
「あ゛〜???おいおい今の避けれんのかよ、やるじゃぁん♪」
「ッ…はぁはぁはぁ」
痛い!痛い痛い!左耳全く聴こえないし血がドバドバ出てクラクラする。
が、それより今私がすべき事は…
「逃げてください!フェティーさん!!」
本能で理解した、この赤髪の男は超危険、殺せない。
だって光の弾丸を10発くらったのにも関わらず、何故かその身体は無傷になっており、先程のただのパンチ1発が私のどの魔法よりも威力があったから。
それを理解してしまった私の全細胞が震え上がって体が動かない。
「早く逃げて!逃げッ!………ッ!」
だが、それももう遅かった。
「あっ…あ゛あ゛あ゛ぁぁぁあ!!」
赤髪の男と同様、光の弾丸で貫いたはずのもう1人の女、その腕がフェティーさんの心臓をえぐっていた。
「…………あぁ゛……フェティー…さん」
フェティーさんの胸から流れ出す真っ赤な血、誰が見たってもう手遅れだった。
「……な゛〜お前何泣いてんだ、あぁ?人を殺す時はちゃんと殺される覚悟を持ちなさいってお母さんから教わらなかったのか?……ハッ!まぁいい♪おいガキ、それよりさっきの魔法、『光輝く弾丸』だろ?すげ〜な〜まだちんこに毛が生えてるかもわかんねぇ歳なのに………でも残念だぁ…もうお前の人生終わっちまうなんてよぉ〜悲しいな〜♪悲しいな゛〜!!」
「サーフカース!ぺっちゃくってないで早くそいつ黙らして!」
「あ゛ぁわってるよ♪……って事でじゃぁなガキ」
「クッ………何なんだよっ…何でお前ら死なねぇんだよッ!オレの魔法くらっておいて!死ねよ!死ねッ!今からでも死ねッ!ふざけんなクソが!」
「おいおいおい、惨めすぎるぞガキィ。まぁいい最後に教えてやる♪俺達はなヴァンパイアだよん♪」
「……なっ…なんだよ…それ…………」
最後に知らねぇ言葉出してくんなよ……あぁ母さん。
「ハハッ♪」
そうして、私は赤髪の男に顔を潰され殺された。
――
後日談……というかその後の事。
第6部隊所属リーキン・ストゥーとフェティー・セントが爆発魔達と対峙してから数十分後、王城の正面門が大爆発を起こし首都は混乱に包まれた。第6部隊副隊長であるキリスコ・インディファレントは状況をいち早く理解、と同時にリーキンとフェティーの安否確認の為捜索を開始。
キリスコは途中、街中で非番中だったハッジ・ホーキンと合流しハッジに対し王城に向かい爆発事件に対応する様指示を出し2人の捜索を再開、その数分後、キリスコは道端に倒れているフェティー・セントを発見。フェティー・セントは発見時、目立った外傷は無く気を失っていただけだった。
そしてキリスコは同時にすぐ近くに倒れていたリーキン・ストゥーも発見、だが発見時のリーキン・ストゥーは頭部と腰から下が欠損していた状態だった。
その2日後、リーキン・ストゥーの死体は今回の爆発事件で亡くなった市民と衛兵合わせて257名と共に火葬された。
後日談終わり。
――
「なぁキリスコ…なんでお前あの2人だけでいかしたんや。あんなオオゴトなるわかってたんなら副隊長であるお前も動くべきだったんちゃうんか?あぁ?」
「………リーキンくんがいるから大丈夫だと思ったのよ」
「ハッ!バカが!確かにリーキンちゃんの強さは俺も知っとる!あんな超絶技エグい化け物俺も初めて見たしな!でもな!アイツはまだ衛兵なりたてのガキやぞ!実力はあっても経験が無い!そんな子供にどうして…………こんな…………死んでからじゃなにもかも遅いねんボケ…」
「……ごめん」
「ごめんで済むなら衛兵いらんわクソっ」
「…………」
「はぁーほんまっ……こんな国がエグいっちゅー時でもタイチョーは帰ってこーへんのかい……」
第零章【新兵のダークエルフ編】完。




