〈13〉第一話
やぁ!俺こと日向聖陽だよ!俺が何やかんやで勇者ゼルバトスとその妹のヤトウの勇者パーティーに荷物持ちとして加入してから7日を過ぎた頃。
俺は今、絶賛死にかけていた…。
「ウギャァァァァ!!」
何故かと言うと、俺の前方と後方に火を吐くドラゴンが1匹ずつ、異世界版『前門に虎、後門に狼』状態に陥っていたからだ。
「虎とか狼の比じゃねぇけどなー!」
「『楽聖ヤトウが提唱する、かの勇者ゼルバトスに……ってちょっとヒナタうるさい黙って。唄にノイズが混じるじゃん」
「んなこと言ったってよー!無理だよこれーマジ死ぬってー!」
「はぁ…これじゃー荷物持ちじゃなくてお荷物だね」
「上手い事言ってんじゃねーよ!早くどうにかしてくれよー!」
「まぁ……このくらい…お兄ちゃんは支援無しでも大丈夫だけど」
このくらいって…あのドデカいドラゴンを2匹よ、いくら勇者っつっても流石に…。
「ウオォォォ!!」
だが、ヤトウの言ったことは正しかった。勇者ゼルバトスは2匹のドラゴンが吐く炎を剣の腹で流すと同じ人間とは思えない程の跳躍力で空へと…文字通り、飛ぶ。
そしてたった一振り、なんの変哲も無い、俺にはただの一振りに見えたそれが、勇者ゼルバトスが剣を鞘に納めたと同時に2匹のドラゴンの首を綺麗に切断していた。
「うおっ…マジか……」
ドラゴンの切断された断面から、まるで公園に設置された噴水の様に溢れ出す真っ赤な血が俺の全身を包み込む。
「血が……」
熱い…。
ついさっきまで俺達を食おうと生きていた証。
だが、その血は勇者ゼルバトスには一滴をかからなかった。
血の雨の中、ドラゴンと戦う前と変わらないその姿に俺はこう形容するしかなかった。
「奇跡…」
「いや、奇跡じゃないよ。お兄ちゃんなら当たり前の事だよ」
「……ヤトウさぁ、今そういうの辞めてよ」
いい感じに勇者の強さを表現してるんだから…。
「大丈夫かヒナタ?」
勇者ゼルバトスは血の雨の中、腰を抜かした俺にそう言い手を差し出す。
「あっあぁ…ありがと助かったよ」
「俺にとって誰かが困っていたら助けるのが当たり前、それが仲間ならなおさらだ。大丈夫、俺がいる限りお前は無敵だ」
「かっ…かっこいい」
俺は決してソッチの気は無いが、この時もし勇者ゼルバトスから迫られたらうっかりオッケーしてしまいそうであった。
「さて…と、魔物のせいで道草食っちまったな。依頼の場所までまだ結構あるからな…散らばった荷物回収したらすぐ行くぞ!」
「はい勇者様!」
俺が有頂天になっている隣には冷たい目をしたヤトウがいた。
「…………」
ヤトウさん…そんな悲しい生物を見る様な目で見ないで下さい。貴女のその目は結構傷付くんです。
――
「野良のドラゴン2匹の討伐という事ですので報酬は金貨20枚となります。ですが今回は依頼ではなくフリーでの討伐になるので規則として報酬から3割引いて金貨14枚が取り分となります。お疲れ様でした勇者様」
受付嬢はそう笑顔で勇者ゼルバトスに金貨の入った小さな布袋を手渡す。
「あぁ、いつも助かるよ」
俺達はドラゴンを倒し…あくまで倒したのは勇者ゼルバトス単独だが、倒したという事で冒険者ギルドで報酬を受け取りに来ていた。
それにしても知ってはいたことだが…
「依頼にあがってないだけで3割も持っていかれるんですね」
「あー…ギルドの管轄外の事案だからな、そういうもんだ」
「一回逃げて依頼としてあがるまで待ってから倒しに行けば良かったんじゃないですか?」
「まぁ確かにそういうやり方もある。若い冒険者は税金対策でそのやり方が主流だな、でもだからってあのまま俺がやらなかったら今頃被害が拡大していたかもしれない。それに生憎俺は金にはあんま困ってないからな、殺せる時に殺す」
「………なるほどー」
『余裕』…だな。生活の余裕、金銭の余裕、そして力と心の余裕。全てに余裕がある勇者ゼルバトスにしか出来ない考えだ。
普通の冒険者には決してその判断は出来ないだろう。
「そしてはいヒナタこれ。今回の分け分な」
勇者ゼルバトスはそう言うと金貨を4枚、俺の手の平の上に置く。
「えっ…こんなに?」
「俺のパーティーの荷物持ちだぞ、当たり前だ」
「……って言っても」
金の切れ目は縁の切れ目、的な事だろうか。
「ヒナタ、素直に受け取って大丈夫だよ、お兄ちゃんはお金に自分の生き方を左右されないから」
うーん……ヤトウがそう言うなら信じてみるか。
「わかった、ありがとう」
って言ってもやっぱ何もしてないに等しい俺がこんなに貰ったら金銭感覚がおかしくなりそうだ。
「……なぁヒナタ、ちょっといいか?」
すると勇者ゼルバトスがコソコソと小さな声で俺をヤトウから少し離れた所に呼んだ。
「なんですか?ヤトウ抜きで、隠し事ですか?兄妹で喧嘩は良くないですよ」
俺は勇者ゼルバトスの元に行くと、勇者ゼルバトスは顔を近づけ俺の耳元で俺にしか聴こえない様話し始める。
「いやそうじゃなくて……そういや聞いてなかったなーっと思ったんだけどさ、ヒナタって童貞?」
当然勇者ゼルバトスから振られた男子高校生の様な話題に俺は一瞬思考が止まった。
「……はっ!?…はぁ?今それ関係あります!?」
いきなりなんなのこの人?
「あるある、で?どっち?」
だが、勇者ゼルバトスの表情は至って真面目だった。
「ッ!……いやー俺は……そのっ……あえて、あえてね!ヤッてないだけで。やろうと思えばもうそりゃ…」
「…………ヒナタ……言い訳は見苦しいぞ」
ッ…言ってて俺もそう思ったよ…。
「だって……そういうのって俺からいかなくてもいつか来るもんだと思ってて……気づいたらもう」
23歳……。
「いやー分かる、分かるよヒナタ。男ってのはやっぱ求められたいもんな。けどそれじゃ今と変わらない、変わりたいならさ、やっぱ自分から動かなきゃ」
「ゼルバトス兄さん…」
「あっちなみにヤトウに手出そうとしたら殺ッ…ダメだからな」
今『殺す』って言いかけた?目がマジなんだけど、実兄怖いよー。
「いっ…いやいや楽聖は流石に歳が離れ過ぎてますから。大丈夫です」
ロリコンになってしまう。
「まぁーつまりだな、俺が言いたいのはだな、今から娼婦でも買いに行かないかってこと」
「娼婦ッ!」
つまりソープか!
「どうだ?長旅で溜まってるんじゃないか?この際一緒にぶち撒けちゃおうぜ!」
「ゼルバトス兄さん!是非イキましょう!」
「明日にはもう今のヒナタは居ない。今日の晩には漢ヒナタ・セイヨウだ!」
俺は勇者ゼルバトスと固い握手を交わす。そして夜の街へと向かう。
と、話がひと段落つき、席に戻ろうと振り返ると冷たい目をしたヤトウがいた事はまた別の話。
――
「いらっしゃいませー!」
娼婦の館…客が金を払い店の嬢は対価としてフュージョンをさせてくれる場所。まさか初体験が異世界の娼婦になるとは日本にいた頃は思ってもいなかった。
虚しいだって?おいおい辞めてくれよ、ハジメテがプロで何が悪い。生憎俺は青春は死んだ時に捨ててきた。これからだ、俺のセックスライフはこれから始まるんだ!
俺は今日登るぞ!大人の階段!自動車保険に入るんだ!
「ヒナタはどんな娘がタイプだ?」
「デカケツ!!!」
おっと…つい声が大きくなってしまった。お恥ずかしい。
「ケツのデカい女か…この娘なんかいいんじゃないか?」
勇者ゼルバトスはそう言うと嬢の詳細が載った用紙に書かれた1人の嬢を指差す。
「えーっと…すいませんゼルバトスさん。俺文字読めないんで読んでもらえますか?」
「えっ!?あっあぁ………『街をも破壊する巨大な尻!期待の新人[ルナちゃん]25歳。種族『獣人、牛馬型』搾乳プレイ(可)、馬乗り(可)、AF(可)ets…』……だとよ。いいんじゃねーか?」
「なるほどなー、うんうんなるほどなー……すいません、同族でお願いします」
初体験で人は歪むという…俺はマニアックならぬアニマルになる勇気は無い。気になるけど。
「お前がデカケツがいいっつったんじゃねーか……まぁわかった。同族ね、だとしたら…『まさに生きた人形!洗練された美肢体はエルフ以上![パルルちゃん]21歳。種族、『純人間族』過度なSM以外全て(可)』だとよ」
「その娘で」
「あははッ即決かよ!じゃあ俺はルナちゃんでいいや。では大人になった後でまた会おうヒナタ!」
「はい、ゼルバトスさん」
お互い嬢を指名したのでササっと入室。
「はじめましてーパルルでーす。よろしくお兄さん」
部屋に入ると目の前にはキャッチコピー通りのお人形さんの様な美女がいた。
「よっ…ヨロシクオネガイシマス」
やっ!やべぇェ普通に緊張してきた……マジ可愛い過ぎるだろっ。腰まで伸びた綺麗な黒髪、大きな目と長いまつ毛に鼻も高い。それに何より、ひょうたんの様に出るとこは出て締まる所は締まった体。
2次元かよっ!
「あはは!ちょっとお兄さん緊張しすぎー…ほらほらーリラックスリラッークス」
パルルちゃんはそういうと俺の肩に手を置き、上から下に撫で下ろす。
そして、そんな俺はそれだけで既にガッツになってしまった。
「あはっ……ちょっとー元気ありすぎー。私そんな魅力ある?」
「あるある……ありすぎてやばい」
「お兄さんって冒険者?」
「そうだよ…まぁ荷物持ちだけど」
「えー!ほんと!?かっこいいー!」
「勇者ゼルバトスって知ってる?そのパーティーに入ってるんだけど」
「えっ!?ゼルバトスって…あの?」
「そう…あの」
「すっごーい!!えっやばッ!お兄さん急にめちゃくちゃかっこよく見えてきたー!」
「ハハ……」
ゼルバトスの名前を出して見栄を張ったはいいものの、俺自身が褒められてる感じがしなくてあんま嬉しく無いな。
「えっじゃあ…お兄さんも超強いでしょ」
「いやいや、俺はただの荷物持ちだって…剣の練習は何回かやってたけど実戦は一回も無いし、前線に立ったらすぐ死ぬ自信しかない」
「えー……良い体してるのに勿体なーい。じゃあ今夜だけは私の勇者になってくれる?」
「なりますっ!」
そうして俺は勇者になった。と言ってもそこに愛は無くあったのはただの快感だけ。
だがそれでいい、こんな可愛い娘とできたんだ。悔いなどあるはずがない、むしろ最高の気分だね。
素人童貞?ハッ…ほざいてろ……。
「あっお兄さーんそういえばさーそれ、その剣」
パルルちゃんは乱れた髪を整えながらレイ・ベティーから貰ったベティー家の家紋が彫られた剣に視線を写す。
「あぁこれ?……良い剣でしょ」
やっぱレイがくれたこの剣良く注目浴びるよなー。
「その家紋……ベティー辺境伯のところのヤツでしょ?」
「うん」
そういやレイは最近どうしてるんだろう、元気にやってれば良いな。あっそうだ、いつか依頼でレイの方に用事が出来たら寄ってみるか、久々に一緒に剣の稽古でもしよう。でもそういや俺がベティー家を出て行く時隣国やら魔物やらで忙しそうだったよな、まぁレイの事だし上手くやってるだろう。ヨシッ決めた、俺はこれから強くなろう、今はまだ荷物持ちだけどゼルバトスさんやヤトウと一緒に強くなればいつか菜月やレイの耳にも冒険者ヒナタセイヨウの存在を示せるはずだ。
思いついたら即行動!童貞も捨てた事だし、明日から本気だして頑張るぞー!!
「あーって事はベティー辺境伯の処刑見てたんだ!私も見たー」
「……………あ…?」
「?……だからー処刑だって…あっ知らない感じ?まぁ冒険者だからあんま世情は詳しくないのか…えとねー10日くらい前にこの街であったんだけどー…なんかベティー辺境伯の領地が隣のドンイ国に侵略されちゃったらしくてー、それで責任問われて…って感じ。まぁ辺境伯なのに侵略されちゃ仕方ないよねー。お兄さんのその剣は戦利品?」
「…………なぁ…その処刑の中にレイ・ベティーって奴はいなかったよな?」
「レイ?………知らない…けど、ベティー家は一家まとめて処刑されてたよ……ってどうしたの?顔怖いよ?」
「……………」
「お兄さん?」
「……………」
「おーい、だいじょぶ?」
「……………」
「…………お兄さんもしかして、そのレイ・ベティーって人の……友達…だったり?」
「…………………………あぁ」
「ッ!ごっ……ごめんなさい。そのっ…私はっ…」
それからの事は覚えていない、気づいたらどこかわからない細く暗い道の端っこで俺は倒れていた。
そして、その日…近くの冒険者ギルドに行くとヤトウと勇者ゼルバトスはいた。
「ヒナター!昨日あれからどこ行ってたんだ?さがしたんだぞ」
勇者ゼルバトスはいつも通り俺を気遣う。
「?……ヒナタ…どうしたの?」
隣のヤトウは俺の様子が変なのか、首を傾げそう言う。
「…………」
「………まぁいい、とりあえず今日受ける依頼を決めるぞ!」
「…ゼルバトスさん、ヤトウ………次の仕事…俺が決めていいですか?」
「?……………聞こう」
「とあるマモノを討伐してほしいんですけど…」
こうして史上最悪の勇者と呼ばれる勇者ヒナタの物語がはじまる。




