〈14〉同類
「なるほど……勇者ヒナタ、君はレイ・ベティーを間接的とはいえ私達に殺されその復讐として魔人族…主に蟲人族を嫌うのか」
何もない真っ暗な部屋に蟲人族の女が1人、ここはベルが禁断魔術『記憶ノ再築』で侵入した勇者ヒナタの脳内を写した仮想空間である。
ここでベルは勇者ヒナタの全てを見た。小さな島国の日本という異界で生まれた事も、事故でこの異世界に転移してきた事も、なぜ魔人族に対し憎しみを抱く様になったのかもなにかも全て。
「ハッ…それだけじゃねぇよ」
『記憶ノ再築』発動中、術を受けた者は普通意識は保てない、だがそこはさすが勇者、魔法ではないといえ禁断魔術の常識を破り、仮想空間でベルの前に現れる。
「おやヒナタ君じゃないか…わざわざ挨拶にでも来たのかい?」
ベルはヒナタが現れた事に驚かない、今更ヒナタが現れたところで彼には何も出来ない、全てはベルの手の平の上だからである。
「ハッ!なわけねぇだろゴミ。俺が死ぬ前にゴミの汚ねぇ面を見に来ただけだ」
ヒナタはベルにゆっくりと近づく。そして、その汚い顔とやらがよく見える様、真正面に仁王立つ。
「……君は勇者ゼルバトスとその妹ヤトウと共にクロコ大臣含め私の仲間達を暗殺……更にベティー家の領土を含み領地拡大をしていた私達から領地を奪い返しベティー家の尻拭いもした……のに、まだ足りないのかい?」
「あぁ……俺だけじゃねぇトウキョウサンカの全員がそうだ。どれだけ魔人族を殺しても痛めつけても絶望させても………俺達の心は何にも変わらなかった」
「フフッ……そうだね、楽聖ヤトウは兄である勇者ゼルバトスを魔人族に殺され、拳雄サラバは孫を魔人族に拉致され見つけた時には時既に遅く、雷人テテは結婚直後に魔人族が乗った馬車に轢かれお腹の中の子供諸共死亡、そして君は恩人のレイ・ベティーを……君達トウキョウサンカのメンバーは1人1人が魔人族によって最悪の方向へと人生を狂わされたいわば被害者……そう被害者!それで終わっていれば良かった!だが!!君達はどうしようもなく心の奥底から湧き出る魔人族に対する怒りを貫き発散させるだけの力があった。それぞれがそれぞれ勇者ゼルバトスに匹敵する程の…いや!それ以上の力を持ち誰にも静止出来ない!させない程の力が!……あぁ…可哀想に。復讐に囚われ歳だけ取っていく、ねぇ勇者ヒナタ教えてくれたまえよ…復讐に囚われながら食べるご飯は美味しいのかい?私は知らないよそんなコト。復讐なんて暇人がやる事だからね。でも私はやらないだけで気持ちは痛ッたいっほど分かる、君が殺したクロコ大臣……私の育ての親なんだ。普段は厳しいが、食事の時だけは誰よりも優しく楽しく面白かった!そんな人だった!……あの素敵なクロコ大臣の笑顔を2度と見れないのは流石に私も応えたよ。クロコ大臣が君達に殺された時私は遠くにいてね、クロコ大臣が亡くなったを知ったのはだいぶ後だった。そして私はそんな育ての親を殺した犯人を私なりに探してみた。すぐ見つけたよ。各々が傷を舐め合う可哀想な君達を……でもさっきも言ったけど復讐なんかしない、生憎暇じゃなかったからね、でもついに遂に!遂に遂に遂に遂に!!この時が来た!あぁー!あー!あー!あー!ほんッとステイ君に着いてきて良かった!仲間達を失いひとりぼっちになった私に手を差し伸べてくれてありがとうステイ君!感謝しても仕切れない!君になら私の全てをあげても良い!そう思える程痛快に!!……おっと話が脱線してしまったね、とまぁ…ここまで言えば分かると思うが私もそうさ、君と同じなんだ、クロコ大臣を…仲間達を殺され君を憎み、君に怒り、君を心の底から殺したかった!同類なんだよ私と君は。復讐に囚われた可哀想な人間、訂正しよう先程復讐に囚われながら食べるご飯の味を知らないと言ったがあれは嘘だ。年甲斐もなく強がってしまった。知ってる……知ってるよ最悪の味だろう。まるで柔らかい石を食べている様なあの感覚。なぁ…君はどうだった?同じだろう、理解出来てしまうだろう、だって私と君は同類なんだから」
「ハッ……なげぇよ、話が」
「フフ……友達じゃないんだ、会話したいわけじゃじゃないんだろう」
「それもそうだな」
「ではヒナタ君……最後に言っておきたい事はあるかい?」
ベルの同類に対する最後の余地…そしてヒナタは少し間を開けた後、笑いながら言い放つ。
「…………死ねっゴミカス」
最後まで変わらない勇者ヒナタの魔人族に対する憎しみ、この時ベルは感動していた。
「フフッ……フフフフ私もまったく同じ事を思っていたよ……じゃっヒナタ君……全削除」
ベルにより実行された禁断魔術系列第四番『記憶ノ再築』とは術者自身が触れた対象の脳内に侵入し、対象の知識、感情、経験を術者の好きな様に閲覧、抹消、書き換え、構成する事が出来る。
今、ベルはヒナタのこれまでの31年間の人生の知識と経験、それによってともなった感情の記憶を全て消し去った。
……もうヒナタは何も感じない、何も思わない、ただ呼吸しているだけの植物人間と化した。
そうして、ベルとヒナタの戦いは幕を閉じる。
だが、これだけは忘れてはならない。禁断魔術の使用には必ず代償が伴う、禁断魔術系列第四番魔術『記憶ノ再築』の場合には、術者は自身の『知識』『感情』『経験』のいずれかの内2つを失う事となる。
――
「ベルさんッ!?」
勇者ヒナタとの戦いが終わり、仮想空間から現実へと意識が戻ったベルの元に、先程まで拳雄サラバと戦っていたステイが到着する。
「やぁステイ君……君も終わったのかい?」
「はい……それよりヒナタは?」
「そこだよ……大丈夫…死んではいない、血は生きてるよ」
あくまでもステイとベルの目的は『太陽の血』、勇者ヒナタの体を巡るソレは死んでしまったらただの血となる。
「じゃあ早速ですが回収を始めます……」
ヴァンパイアのステイはそうヒナタの体を持ち上げ、その首元に歯を立てる。
が……。
「ステイ君ダメだ…君じゃダメだ……それは太陽の血だよ、ヴァンパイアの君が吸収したら最悪死んでしまうかもしれない……私がやる…」
ベルゼブブ・モスキート…彼女は蟲人族で唯一吸血性を持って生まれた人間。
そしてベルは手の平から格納されていた針を出し、ヒナタの首元に突き刺す。
そうして史上最悪の勇者と呼ばれた男…ヒナタ・セイヨウは大量の失血により死亡。よって勇者パーティーのトウキョウサンカは全滅した。
「ふぅー…これで太陽の血はとりあえず回収したが………ステイ君謝らせてくれ……血の抽出はだいぶ先になるだろう」
「どう言う事ですか?」
「私はね…後ちょっとで私じゃなくなる。禁断魔術を使ってしまったからね……」
「まさか…記憶の再築ですか?」
「あぁ……話が早くて助かるよ……だからさ…すまない」
「謝らないでくださいよ……ベルさんが居なかったら太陽の血自体見つけられなかったですから」
「アハッ……そうだステイ君……私は第6にいて楽しかったよ。あぁ…それと君が第6居ない時、キリスコ君やフェティー君には迷惑をかけた。申し訳ないと伝えておいてくれ」
「…………ッ…はい」
「じゃ………あとよろしく」
そうしてベルの意識は遠く彼方の闇へと消えていく。
『知識』『感情』『経験』→『/』『感情』『/』




