〈11〉日向菜月:ヒナタナツキ
「お待たせしまた。クロコ大臣、はじめまして、レイ・ベティーです。今日父は仕事の都合で出かけてますので後取りの僕が参謁致します。よろしくお願いします」
レイは大広間の中央に置かれたやたら大きな長机に座る。対面には既に会食相手であるクロコ大臣が座っていた。
私こと日向菜月はそのクロコ大臣を見て思った。
キモッ
屋敷にある本を読んでいて知ってはいた事だけれど実際に見て魔人族、クロコ大臣の場合蟲人族は体の大半が私達とは異なり奇形だ。それ故に不快感、嫌悪感がある。
だが、それでも同じ人間。
昔はこの世界にも外見による差別があったみたいだけど……なくなったのは表面上だけ、純人間族や亜人族は心の奥のどこかでまだ魔人族を見下しているに違いない。
「えぇ、はじめましてレイ・ベティー殿。わざわざお時間いただきありがたく思います」
案外言葉遣いが丁寧なのは以外だ。外見的にもっと知性の感じない阿呆な感じをイメージしていたんだけど。
「なぁ菜月、魔人族初めてだけどなんか凄いな」
座るレイの後ろで同じ使用人として立つ兄の聖陽は小声でそう私に言う。
「ちょっと聞こえたらどうすんのよ、黙ってて」
使用人の小言で問題なんて起こしたくない。レイの面子を考えて発言しろよバカ。
まぁ…私もめちゃくちゃ言いたいけど。
「では食事しながら話しましょう」
レイがそう言ったので私はあらかじめ用意しておいた料理をレイとクロコ大臣の目の前に食事が置く。
「こちらはベティー家が管理している土地で作られた野菜をペースト状にし香辛料を少々混ぜ肉と絡め炒めた料理です。お口に合えば嬉しいです」
「ホホッこれはとても美味しそうですな…ではいただきます」
クロコ大臣は異形の手ながらナイフとフォークを上品に使い料理を奇形の口はと運ぶ。
「………おっほ!」
クロコ大臣はそれはそれは大層幸せそうな顔をした。私はその顔を見て不用意ながらキモ可愛いと思ってしまった。
「お口に合った様でなりよりです。では食べながら本題に入りましょう」
「……そうですな。では…最近ベティー家が統治する領地内で魔物が活性化していると聞いたのですが?」
「はいおっしゃる通りで……」
「対策などは?」
「ベティー家で雇っている兵士と傭兵の手配。それでも足りない時は冒険者を」
「ですが今の現状を見る限り根本的な解決にはなってないと思いますが」
「はい、それは僕も十二分に承知しております」
「……では差し出がましいながら私から提案がございます」
「なんですか?」
「私共の保有する戦士500名程を問題が解決するまでの間、お貸ししましょう」
「……………」
「見返りは求めておりません。なにせ隣国ですからこれ以上となると私共の領土にも被害がでかねませんからね。私が今日ここに来た理由はこれを言いにです。正直、今にも自国民に被害が出ていないか心配で心配で…」
「……なるほど」
今の話で引っかかる点は2つ。
1つは向こうが見返りを求めないという事。隣国というのは分かるがそこまで親交のないドンイ国がベティー家に対し無償で何かをするというのは不自然だ。
そして2つ目、提示された戦士の数が500という事。確かに500という数は魅力的だ、魔物の群勢などあっという間に片付けてしまうだろう。だがそれと同時に500という数の未知の戦士をベティー家の領土に大義名分を持って入れてしまう事。500という数の戦士がいえばベティー家の領土を侵略出来てしまうかもしれない。
レイは馬鹿じゃない、今私が引っかかったとこは既に理解しているだろう。
父という領主がいない以上勝手に返事を出していいものかどうか、一旦待って貰う事もアリだが……ここでレイが返事を保留したら向こうからは有事に即判断、行動が出来ない奴等とスキを見せてしまうことになる。
「…………」
レイは顎に手を当て少し考える、そして…
「わかりました、是非お願い致します」
レイは受け入れた。
「ホホッ…そうですか、その返事が聞けて私安心いたしました。では即時500名の戦士を派遣させますので入国証の方を頂ければ……」
「待ってください」
「?……何か?」
「出動させる戦士は100名でお願いします」
「………何故ですか?人はいた方がよろしいかと」
「確かにいた方が憂いはないです。ですがその500名の食事、寝床、その他諸々どうするかは別です。生憎僕等にはいつまでいるかもわからない500名を養える余裕はありませんので」
「戦士には馬車で寝泊まりさせます。食料も出来るだけ持たせるつもりです」
「では性的処理の対策は?戦士の中には女性もいるでしょうが大半が男性のはずです。領民に対し間違いが起きないとは言い難いですが」
「男性戦士10人につき1人の嬢を同行させましょう」
「それと…」
「ちょっとちょっとー、細か過ぎでは?」
「当たり前です。領民の命に関わる問題ですから」
おいおい、そのセリフは疑ってますって言ってる様なもんじゃん…レイって結構ギリギリまで攻めるよねー。
「……そうですか、では聞きましょう」
それからレイはあらゆる疑問と解決策を求めた。クロコ大臣もレイの疑問に対し即改善策を提示。やり取りは夜遅くまで続いた。
「最後に…見返りはいらないとおっしゃっていましたが、それだと僕等の面子が保てません。なので問題が無事解決したら金貨70枚と銀貨6000枚をお渡しさせていただきます」
「……わかりました。ではまた後日」
「はい、お互い頑張りましょう」
そうしてドンイ国代表クロコ大臣との会食は幕を閉じた。
はぁー…立ってるの疲れたー。もう足が棒こえて鉄パイプなんだけど。
まぁなんだかんだ平和に終わって良かった。
――
会食が終わり私と聖陽は自室に戻っていた。
「聖陽……今日の事どう思う?」
私は寝る前に隣のベットで横たわる兄に聞きたかった。
「クロコ大臣…思った以上に虫だったな」
「アハっ!って違う違う、レイの従者になれって話」
「あーそっち?俺もうクロコ大臣しか頭になかったわ」
「まぁ衝撃的なのは分かるけど、その話はレイに任せておけば大丈夫だって、それより私達の事でしょ?」
「………俺は正直…ありかな、レイは良い奴だし剣の稽古だって楽しい…まぁお前が言ってた色んな場所に行きたいって気持ちも分かるけど…俺はいいかな」
「そっ…」
まぁ聖陽はそうだよね、けど私は違う。
出来るだけ早く、出来るだけ後腐れ無く、ここをでたい。その為に外の世界の知識は屋敷の本で駆け足ながら学んだ。
聖陽と一緒に行ければ最高だけど、聖陽にその気が無いならダメだ。
私1人でも独りだけでも……失われた青春を取り戻したい。
「聖陽……」
「何?」
「いや何でもない………おやすみ」
「あぁ、明日は早く起きろよ」
そして聖陽が眠りについた後、私はベティー家を出た。




