〈9〉勇者な人と王な蟲
「テメェ……魔人族だよな?」
ダンジョンの最深部、ボンブ草の爆発により砕けた天井の瓦礫によって隔たれた1つの空間に勇者ヒナタとベルはいた。
「うんそうだよベルゼブブ・モスキート…蟲人族だとも……久しぶりだね、勇者ヒナタ君」
「久しぶり?……はじめましての間違いだろ。それともあれか?ナンパか?」
「なんぱ?……」
「なぁ…ヤトウを殺したのはテメェか?」
「厳密に言うと私では無いが私の仲間……いや厳密には友人の友人がやった事だからそう捉えられても良いんじゃないかな」
「……マジ魔人族ってのはとことんクソだな」
「……フフ、否定するつもりはないがそれはいささか主語が大きくないかい?魔人族にだって良い人はいる」
「いねぇよ」
「随分と返答が食い気味だねー……余程自分の意見に自信があると見るよ」
「ハッ!特に蟲人族はな……魔人族の中ではクソ中のクソのクソのクソだ!街中でも見かけたらつい殺したくなる」
「じゃあ明確に君の敵にあたる私はどうだい?」
「言わなきゃダメか?」
「いーや別に」
「だったら…死ね!!」
勇者ヒナタは腰に携えていた剣を抜きベルに向かい飛び掛かる。そしてベルもそれに合わせ魔術を発動。
「禁断魔術『亡人ノ再現』」
ベルの魔術が発動、勇者ヒナタを中心とした全方位の地面に闇が円形に広がる、闇からは勇者ヒナタによって殺された計75体の蟲人族の精鋭が生前の全盛期の姿で顕現。それら蟲人族は勇者ヒナタに対し殺された憎しみしか感情を持ち得ず、勇者ヒナタの存在を認識するやいなや一斉に襲いかかる。
「うおっ!?このッ!クソカスがァァ」
「私は接近戦が苦手でねぇ…時間を稼がせてもらうよ」
ベルは知っていた、勇者ヒナタがこの程度でやられる奴ではないと、なのでベルは勇者ヒナタの次の行動に備え地面に魔術陣を描く。
「ハッ!ゴミはどんだけ集まろうがゴミ!数いればどうにかなるとでも思ったのかよこのクソッタレが!」
だが、勇者ヒナタはベルの想定より早く75体の蟲人達を圧殺、魔術陣が完成する前にベルの首へと剣を伸ばした。
「クッ……やるじゃないか」
「ハッ!クソに褒められても胸糞悪いだけだ!」
ベルは何とか勇者ヒナタの剣を皮一枚でかわし、魔術陣から口頭魔術へと魔力ベクトルを移行。
「禁断魔術『記憶ノ再築』」
ベルは魔術を発動、だか禁断魔術である『記憶ノ再築』は詠唱と対象に触れることにより効果が発動する為ベルは未だ発動条件を満たしていない。
このままでは接近戦の弱いベルは不利、結果として勇者ヒナタにやられると判断したベルは魔術と魔法の二重発動を同時実行。
「『炎による消滅』」
ベルによって発動された魔法により、勇者ヒナタとベルの間には球状の黒炎が出現、ベルは黒炎を盾とし後方へと避難。
だが、
「意味無いねぇ!」
勇者ヒナタに魔法は効力を発揮しない。
黒炎をまるで羽虫の様に手で払いベルを追う。
「フッ…意味はあるよ」
だが、それを知っているベルの意図は別にある、黒炎はあくまで勇者ヒナタに対する目眩し、接近が苦手という弱点を逆手にとりベルは逃避を装い、既に勇者ヒナタの背後をとっていた。
「さぁ……君の心を見してくれたまえ」
ベルは勇者ヒナタに後ろから抱きつく。そしてこの瞬間ベルは禁断魔術『記憶ノ再築』の発動条件を満たす。
――
禁断魔術系列第四番『記憶ノ再築』
術者の自我が触れた対象の脳内に侵入し、対象の知識、感情、経験を術者の好きな様に閲覧、抹消、書き換え、構成する事が出来る。つまり、ベルの采配によっては勇者ヒナタを廃人にすることも可能という訳である。
だが禁断魔術の使用には代償が伴う、禁断魔術系列第四番魔術『記憶ノ再築』の場合、術者は自身の『知識』『感情』『経験』のいずれかの内2つを失う事となる。
――
「勇者ヒナタ……私はね、知りたいんだ。君が何故、私の国を滅すまでにいたったのかを。恨んでいないと嘘になる……けどね、私は仮にも王の器だ。何かしら同情の余地が私にあれば何もしないで帰してあげよう。…………まぁ…君はどのみち死んでしまうのだけれど」




