〈7〉東京讃歌:トウキョウサンカ
この世界には大きく分けて3種類の人間が存在する。
そしてそれらには今となっては暗黙の了解になってはいるが、ヒエラルキーが存在している。
まずそのヒエラルキーのトップに立つのが人口の半分以上をしめる『純人間族』俗に『純潔』と呼ばれる種族。
これはいたって普通の人間であり、変に特徴が無い故にその地位を確立している。登場人物の中では第2部隊副隊長であるザヲォ・マイトがそれに位置する。因みにステイが忠誠を誓うサッドアヴリル国の国王も純人間族である。
そしてその次に位置するのが『亜人族』。これはエルフや獣人、有翼人など身体の一部分に外的要因を持つ種族を総称する。巨人族の末裔であるキリスコも見た目は純人間族となんら変わりはないが彼もまた厳密には亜人族に属する。
そして最後、ヒエラルキーの最底に位置する種族は『魔人族』と呼ばれ、身体の半分以上が外的要因で出来ている者達である。鬼人族の第6部隊のフェティー・セントや蟲人族であるベルゼブブ・モスキートがそうである。
だが、これらヒエラルキーは最初に言った通り暗黙の了解となっており、この考え方は古く既にあって無いようなものである。
……………え?
…………ヴァンパイア?
ステイやクレンの様なヴァンパイアはその3種族でいうとどの種族に入るかだって?
いや……いやいや、ヴァンパイアってそもそも母数が少な過ぎるしそれに……アイツら人間じゃないじゃん、化け物じゃん。
――
リダ国の辺境にある小さな洞窟にそいつらはいた。『トウキョウサンカ』……勇者ヒナタ・セイヨウが率いる4人組のパーティーである。
「チッ!……ったく、何で俺がこんな低レベルな仕事受けなきゃなんねぇんだよ…もっと勇者である俺に見合った仕事もってこいやあの国王!」
と、荒れた言葉使いで愚痴を言い、暗いダンジョンを先頭で歩くこの男は史上最悪の勇者という汚名を背負った張本人、ヒナタ・セイヨウである。(純人間族)
「低レベルで良いじゃないか、この国が平和になっていってる証拠だよ!」
勇者ヒナタの右隣を歩くポジティブ思考のこの男はトウキョウサンカのメンバー、雷人のテテ・コルノック。(純人間族)
「でもさーテテ、だからって低レベルの仕事をわざわざボク達にやらせる意味無いよねー……もう歩くの疲れたし眠いし帰りたい」
雷人テテの後ろを歩く気だるそうにしているボクっ娘は楽聖のヤトウ・ゼルバトス(純人間族)。もちろん彼女もトウキョウサンカのメンバーである。
「娘よ、文句を言っても仕方がないだろう。儂等がこの国で好き勝手出来るのもこういう日々の媚売りが大事なんだ。それが分からぬ内はまだまだ子供だな。のぅ大将」
楽聖ヤトウの前を歩く老人は、そうゆっくりと落ち着いた口調で話す。もちろん彼もトウキョウサンカのメンバー、拳雄のサラバ・カイヌ(純人間族)である。
勇者ヒナタ・セイヨウ、雷人テテ・コルノック、楽聖ヤトウ・ゼルバトス、拳雄サラバ・カイヌ。4人合わせて勇者パーティー『トウキョウサンカ』。
彼等は今、ダンジョン内に出現した謎の魔物を討伐もしくは捕獲しろという依頼をリダ国国王から受けている。
謎の魔物による被害者は推定35人、被害はおおよそ50日程前から出始めたということらしい。
「ってもなー…謎の魔物って何だよ!そもそも生還者がいねぇんだから魔物かすら分かんねぇし!謎なだけだし!魔人族って可能性はねぇのか?だったらやる気出てくるのに…」
勇者ヒナタは相も変わらず愚痴を垂れ流す。
「まぁその可能性は無くは無いよね、ボクも魔物じゃなくて魔人なら瞬でギンギンになれるのに…」
楽聖ヤトウはそう暇そうに爪をいじりながらヒナタに賛同する。
「儂は別に魔物でも魔人でもどちらでも構わん、どちらも結果は同じだからのう」
「ハハッ!ほんっと!皆んな魔人族が嫌いだよね!まぁ俺もだけどッ!……そうだ、この後どうせ皆んな暇でしょ。だからさいつものやろうよ!」
トウキョウサンカには共通点が1つある、それは全員が異常なまでに魔人族を嫌悪していること。理由こそバラバラ、けれど根本は変わらない。
雷人テテが言う『いつもの』とはリダ国で捉えた捕虜の魔人族を一方的に嬲り遊ぶ事を意味する。
それほどこのパーティーは歪み傷を舐め合っている。
「ヨシッ!じゃっサッサっと謎の魔物片付けるか」
動機こそ褒められたものではないが、勇者ヒナタ以下4名のやる気は上がる。
そして、トウキョウサンカはダンジョンの奥深くへと進む、そこに何が待ち受けてるかも分からずに。
――
「ねーヒナタ、ここで終わりだよね?」
楽聖ヤトウはダンジョンの最深部らしきただっ広い部屋を見回し、勇者ヒナタに問う。
「あー分岐はどれも潰したからそうだ……と言いたいがキナクセェな」
勇者ヒナタがそう思うのも無理はなかった、何故なら彼等がここに来るまで何一つとしてダンジョン特有のトラップや魔物と遭遇しなかったからである。
「どうする大将、引き返すか?」
「いや……待て…………………上だ、上に何かいる」
勇者ヒナタは部屋の天井を見つめそう言う。だがそれに根拠は無い。
それでも、他3名は知っている。勇者ヒナタは伊達に勇者と呼ばれていない事を。
「……………」
だだっ広い部屋に緊張が走る、トウキョウサンカは合図するでもなく各々が武器をとり陣形を構える。
そして…
「……………来る」
勇者ヒナタがそう言った瞬間、天井の岩盤が崩れ中から女児がその金髪をなびかせ、何かを抱えトウキョウサンカの真上に落ちてきた。
「ヒナタ…撃ち落とすか?」
雷人テテが武器の先端を女児に向ける。
「……いや、ダメだ」
だが、勇者ヒナタは女児が落ちきるまで待つ事を選択、雷人テテもそれにしたがい武器を下ろす。
そして女児は陣形を組んだトウキョウサンカの中心に勢いよく落下し血を撒き散らした。
「うっ!?……女の子の……死体?……何だこれ?」
トウキョウサンカの中心に落ちて来たのは金髪の女児に変わりはないが、その女児の死体には何故か縄で大きな布袋がくくり付けられていた。
楽聖ヤトウは無用心にもその布袋を開け、中身を取り出す。
「……葉っぱ?」
布袋の中にあったのは植物の枯葉だった。
「……ッ!まずい!今すぐ捨てて散らばれ!!」
拳雄サラバの言葉に瞬時に反応したのは勇者ヒナタと雷人テテ、だが後方支援である楽聖ヤトウは動き出すのが一瞬……遅れた。
拳雄サラバはその植物を知っていた。
その植物とは…正式名称をボンブ草と言い、一見普通の雑草に見えるのだか、それが本領を発揮するのはそれから水分が完全に抜けカピカピに乾燥した時、それは火気に触れる事で大爆発を起こす。
そしてそんな危険な植物がいつの間にか布袋から溢れ、部屋中に広がっていた。
「チッ!……ボンブ草かよっ」
勇者ヒナタの判断は正しかった、あの時雷人テテが攻撃をしていたらボンブ草は瞬く間もなく大爆発を起こしトウキョウサンカは全滅していただろう。
だから…この結果になるに至ったのがトウキョウサンカにとって1番最良にして最悪の結果だったのかも知れない。
[楽聖のヤトウ・ゼルバトス]ボンブ草の至近距離の爆発により発生した風圧で右前頭部および右上半身欠損、後即死。
そして、大爆発により起こった突風に巻き込まれた残りの3名は北、南、東方向へと別々に吹き飛ばさた。
そしてそれに重なる様に都合よく天井が崩れ壁となり、トウキョウサンカは壁に阻まれ完全に離れ孤立状態となった。
こうして、雷人テテ・コルノックの元にはクレンが。
拳雄サラバ・カイヌの元にはステイ・セントが。
勇者ヒナタ・セイヨウの元にはベルゼブブ・モスキートが。
完全な一対一の構図へとなるにいたったのだ。
――
「クソッ!クレンの奴、ボンブ草の威力高すぎだろ。おかげでベルさんと離れちまった………まぁベルさんなら大丈夫か。それより………よぉ拳雄、拳雄って呼ばれてるくらいだからやっぱステゴロだよな……俺も得意なんだよステゴロ。やろーぜ素手での殺し合い」
拳雄サラバの前に1人の上裸の男が現れる。
「何だお主?お主が一連の主犯か?」
「んー………そーいうのはさーやっぱ素手で語り合うもんじゃね?なんちゃって……」
上裸の男は拳の骨をポキポキならし挑発をする。
「ハッ……ワッハハッハッ!!面白い小僧だ!良いだろう!この拳雄サラバ!受けて立とう!」
だがそこは拳雄、挑発を軽く流し笑う余裕を見せる。そして拳雄サラバは拳を前に構え臨戦体制へと入る。
「年季の入ったお胸借りますよ、おじいちゃん。ステイ・セント、喧嘩売ったが受けて立つ!」




