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女公爵は博士にスイッチを押させる

今回後味悪い終わりです

私はずっと彼女と同じ景色を見てきた。私はずっと彼女と一緒に居た。私はずっと彼女を守ってきた。彼女は孤独だった。家族が皆、忙しく働く中で彼女は独りぼっちでお留守番。姉妹も兄弟もおらず、だから自然ともう一人の自分…私を作り出して一緒に遊んだ。普通は、大きくなるに連れてもう一人の自分は消えるものらしい。けれど彼女は私を消せなかった。彼女は私に負の感情や、思い出したくない記憶を全部押し付けていたから。消したくても、消せなかったのだ。


そうしていつしか、彼女は優しく温かいことで評判の、とても良い子になっていた。反対に私は、人が憎くて疎ましくて殺したい衝動に駆られるとても悪い子になっていた。彼女は必死になって私を殺そうとした。色んな研究をした。私と分離し、私を殺すための研究。それでも私は、ジキルが好きだった。それでもジキルは、私が嫌いだった。


「ー…なるほどねぇ。貴女、苦労したのね」


「ジキルのためだから、それはいいの。ただ、私はジキルの中に戻りたい。そう願うことは悪いこと?」


「私に聞かれてもわからないわ。それは貴女とジキルが決めることよ。最も、ジキルは貴女を回収したくはないでしょうけれど。自業自得ね」


「ジキルを悪く言わないで」


「…あら、ごめんあそばせ。そんなつもりはなかったの」


「…ならいい」


いいと言いながらむっつりするハイドに、アンジェリクはため息を吐いて頭を撫でてやる。


「ごめんなさいね」


「…うん」


「ご主人様。ジキル博士がお越しです」


「…ハイド。ジキル博士にスイッチを押させるまで大人しくしてるのよ」


「うん、わかった」


そしてジキル博士とアンジェリクは出会う。


「ご機嫌よう、ジキル博士。お噂はかねがね」


「エルドラド公爵様におかれましてはご機嫌麗しゅうございます。私などの研究に目を留めていただき、ありがとうございます」


「…ジキル博士」


「はい…?」


「このスイッチ、見覚えのあるものよね?」


ジキル博士にスイッチを見せると、彼女は途端に逃げ出そうとした。それをリュカがそっと捕まえる。見た目に反してすごい力を持つリュカに目を見張るジキル博士。そして、ハイドが人格スイッチを持ってジキル博士に近寄る。


「ジキル、これ押して」


「お前…まさかハイド!?」


「私を貴女の中に戻して」


「嫌だ!離せ!」


「ジキル、ごめんね」


ハイドとアンジェリクが、リュカに取り押さえられたジキル博士に無理矢理スイッチを押させる。瞬間、アルファが元に戻った。


「あれ?ここどこ?」


「アルファ、よかった。貴女、人格スイッチを押したのね?危ないものに触らないの」


「え?アンジェリク様?」


アンジェリクはそのまま懇々とアルファに説教をする。一方のハイドは、ジキル博士の中に戻れてご満悦だ。


「…うん、ちゃんと中にジキルもいる。ジキルと変わるね」


「ええ。ハイドさん、ジキル博士はまた貴女を捨てるための研究を続けると思いますが、覚悟の上で身体をジキル博士に返すのですね?」


「うん、だって私はジキルが好きだから」


「…さようなら、ハイドさん」


「ええ、さようなら」


そしてジキル博士に身体を返すハイド。ジキル博士は身体の主導権を取り戻すと、叫んだ。


「何故だ!私は自分の悪側面を捨てたかっただけなのに何故戻した!」


「捨てるのは勝手だけれど、それを他の人に押し付けてはいけないでしょう?」


「押し付けてなどいない!このスイッチを焼却処理しようとした直前に、空き巣に入られて勝手に持ち出されたんだ!」


「あらまあ、それは大変」


「そういうことでしたか…」


「この魔法具に私は魔力の大半を費やしたんだ!また魔力が戻るまで何年かかると思っている!?それまでまたこの人格と付き合っていかねばならないんだぞ!人を殺したくて仕方がない衝動と戦わねばならない!それがどれほどの苦痛かわかるか!?」


「わからないわ。ごめんあそばせ」


「他人事だと思って…!」


アンジェリクはため息を吐いてジキル博士を見る。


「けれど、ハイドがそういう人格になったのは、都合の悪い記憶や感情をハイドに押し付けてきた貴女のせいでしょう?」


「それは…!」


「諦めて上手く付き合って生きなさいな」


「…」


その後、ふらふらと覚束ない足取りで帰っていくジキル博士。こうして世間で都市伝説となっていた人格スイッチ騒動は幕を閉じる。…ハイド博士の、自殺という形で。

ジキル博士は耐えきれませんでした

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