原案6 勇者→魔王→フリー ②
次回からまたRCWに戻ります。
・真実 後半
大国は共同で研究を行い、ある解決策を見出した。それは勇者を浄化装置の増設ユニットとして使用するというものだった。勇者たちは魔物や悪魔と戦うほど、その浄化能力が強くなる。激戦を潜り抜け成長した勇者の浄化能力で、浄化施設の機能の不足分を補う。それは一見すると不合理的な案であった。しかし、そこには様々な思惑が籠められていた。
まず、聖域という施設についての扱いだ。本来なら危険な施設として破壊してしかるべきなのだろう。しかし、この施設があるからこそ世界の大部分は安全を維持していられるのだ。もし聖域がなければ世界中で魔物による被害が発生することが予想され、各国の指導者にとってそれは大きなリスクだった。『聖域周辺の被害はどうなのか?』と聞かれれば答えは『気にする必要は無い』だろう。何しろそこは既に壊滅し、誰も済んでいないのだから。
聖域の一部として人柱となる勇者は1人だった。複数人数を組み込むと、術式の制御が上手く行かないことが予想されたのだ。『船頭多くして船山に登る』というやつである。代わりにその1人には、ただひたすらに質が求められた。幸か不幸か勇者たちは皆、激戦に次ぐ激戦でその力を大きく高めていた。候補者は多かったのだ。ダムの決壊などでも最も勢いがあるのは決壊直後である。それを乗り越えたため、徐々に敵の勢いが落ちてきていることも幸いした。政治的な事情を加味する余裕が生まれてしまったのだ。
現在生き残っている勇者たちは実力伯仲。しかも全員が聖人のごとき高潔な人物だった。どうやら勇者はその特性上聖人気質の者が多く、浄化能力の向上によってそれが顕著になるようだった。勇者たちは求められれば喜んで立候補するだろう。しかし、選ばれた勇者の所属する国の影響力が増すのは避けられない。結局のところ、大国は自国から魔脈の管理者である『魔王』を選出したかったのだ。
これは話し合いで解決する問題ではなかった。大国は勇者たち全員に自身を聖域の一部に組み込む魔道具である『聖剣』を与え、『魔王』となる事を命じた。早い者勝ちのバトルロイヤルである。もちろん、勇者同士のつぶし合いなど起きなかった。一般人が立ち入ることができない瘴気の中、勢いが衰えたとはいえ聖域周辺には強大な悪魔や魔物が溢れており、そんな事をしている余裕などなかったのだ。裏の事情を知らない民は『地獄』へ『勇者』たちが逆侵攻を仕掛けた事に沸いた。
そして終に『地獄』は『聖域』へと戻り、瘴気の氾濫と悪魔の発生は治まった。帰還した勇者たちの報告によって、『魔王』となった勇者の顛末が知らされた。魔脈の傍で彼が聖剣を掲げると瘴気が彼の流れ込み、彼は異形の怪物と化してしまった。しかし、彼は理性を失っておらず、溢れ出す過剰な瘴気を全て受け入れた。試しに何人かが同じことをしてみたが、聖剣は反応しなかったという。勇者たちは彼に別れを告げ、悪魔や魔物の残党を討伐しながら帰還したのだ。ただし、悪魔はともかく魔物は既に聖域周辺の地域に適応し定着していた。
それからしばらくは比較的平和な時代が続いた。聖域周辺は魔物が定着し、いつ『地獄』が発生するか分からないため放置されたが、その魔物という共通の敵の存在が人間同士の争いを抑止していた。地獄の発生という悪夢が、人々に争い合う事の愚かさを教えてくれたのだ。『魔王』を選出した国が影響力を増してはいたが、各国のバランスは保たれていた。それというのも、ある懸念が消えなかったからだ。『聖域』は『魔王』が管理しメンテナンスを行っている。『魔王』がいる限り『聖域』が『地獄』と化す事は無い。では、『魔王』は永遠の存在なのか? 答えは否。魔王は元勇者だ。瘴気によって一種の魔物と化しているが人間なのだ。能力の劣化は避けられない。そしてその懸念は的中する。数百年後、再び『聖域』は『地獄』と化したのだ。
2度目という事もあり、対応は迅速に行われた。押し寄せる悪魔と魔物を撃退し、勇者たちの浄化能力を底上げする。そして勇者たちを『地獄』へと突入させる。そこで彼らが見たのは浄化能力を使い果たし、瘴気に苦しみながらも必死に『聖域』を制御する偉大な先達の姿だった。先達は勇者の代表者に『聖剣』で自分を突き刺すように命じる。そうしなければ聖域の制御権を譲り渡せないというのだ。勇者は心を鬼にして先達を貫く。だが、その結果予想外の事が起きた。瘴気が抜けた先達は、かつての人間の姿を取り戻したのだ。
帰還した勇者たちと先達は事情聴取を受けた。先達は勇者としての力は失っていたが、健康体そのものであった。つまり、『魔王』はたしかに人柱だが、役目を果たし終えれば解放されるのだ。その後、先達は監視下にはあったが、家庭も造り平穏な一生を遂げた。心配された悪影響は出なかった。そして数十年後、魔物の活性化が観測され再び継承が行われる。やはり解放された先達は無事であった。『魔王』でいられる時間が短かったのは単純に力量差であった。すでに解決法が特定されており対処が早かった分、先代は先々代より己を鍛える時間が少なかったのだ。そして、これにより『魔王継承』はシステム化していくことになる。
大国は『伝説』を広めて真実を隠した。そして地獄の発生の前兆が観測されると、即座に継承を行った。長く平和を維持し続けたシステム。それは大国首脳部の危機感を失わせる事にも繋がった。『魔王』を輩出した国は魔王在位中は影響力が強くなる。大国は次第に魔王の座を奪い合うようになる。勇者たちは協力せず国の威信をかけて競争し始める。初めは少しずつ裏で行われていた暗闘は、ある時遂に表に出た。互いの勇者を暗殺し合い、国を挙げて妨害し合う。そんな継承が何世代か続いた結果、遂に悲劇が起こる。他国の勇者を駆逐した当代最強の勇者が、聖域にたどり着く前に死んだのだ。内輪揉めをしている間に先代が完全に力尽き、聖域の機能が低下して悪魔が誕生していたのだ。『継承』という代理戦争によって増大した瘴気から生まれた悪魔たちによって、魔物よりも人を殺してきた勇者はあっさりと殺されたのだ。
大国首脳部は大慌てだった。今更目を覚ましても手遅れだった。幸い悪魔は瘴気濃度の低い所では生きられないため、すぐに溢れ出す事は無い。しかし、活性化した魔物は津波のように襲い掛かり甚大な被害が出ていた。次世代の勇者たちも奮戦したが、とても対処しきれなかった。しかし、そんな中で聖域周辺に乗り込み悪魔を討伐する傭兵の噂が流れる。大国が調査を行った結果、彼はスカウトから漏れた勇者であることが判明したのだ。スカウトの基準は浄化能力の有無だが、あまりに低い場合は候補から漏れる。彼も初期の浄化能力自体は微々たるものであったため、スカウトから漏れていたのだ。だが、大国と勇者が内輪揉めを繰り返している間、ひたすら魔物を狩り続けていた彼の実力は当代随一に高まっていたのだ。
大国は先を争い彼を自国に引き入れようとした。しかし、孤児であり流浪の傭兵であった彼はそれに応じることも無く、魔物を狩り悪魔を倒し続けた。形振り構っていられない大国は、彼に勇者の真実を話し、聖剣を与え、依頼した。どうか魔王となって世界を救って欲しい、と。勇者ではなく傭兵としてその依頼を受け入れた彼は、莫大な依頼料と資産を隠し地獄と化した聖域へと向かった。そして、既に力を失い瀕死の先代に代わり魔王となった。
それから百年、彼は魔脈を管理し続けていた。最近の勇者は長くても数十年が限界であったが、古の勇者に匹敵する力を身に着けた彼はにまだまだ余裕があった。だというのに、もう次代の勇者が訪れた事に驚愕する。聖域周辺でも魔物の活性化は起こっていない。伝説に感化された若者の暴走かと思いきや、彼は聖剣を持っている。つまり、どこかの大国が絡んでいるのだ。だというのに、勇者たちは真実を知らされていない様だった。彼の装備や態度から大国の1つである宗教国家に思い至る。宗教と勇者を結び付け、権威を維持するあの国なら、このような横紙破りの暴挙を行うかもしれない。そして説得も空しく、継承は行われてしまった。
・OP 続き
青髪の先代の話を聞き、絶句する当代魔王と元仲間達。騙された、開放しろと喚く彼らだが鍵となる魔道具『聖剣』が無ければどうにもできない。そして、魔王はこの聖域から出ることができない。役目を放棄して逃げることはできないのだ。絶望する彼らを残し、聖域の外に出る先代。百年ぶりの外だった。そこで先代は気付く。魔王を引退した勇者は全ての力を失うはずだった。しかし、自身にはまだ相当な力が残されている。イレギュラーな交代はイレギュラーな結果をもたらしたのだ。先程の後輩は資質は飛びぬけていたが、魔物と碌に戦ったことが無いようであった。自分とは真逆のタイプだが、あれでは10年と持たないだろう。だが、自分は依頼を達成したのだ。後は大国と彼ら次第だ。
「とりあえず、金をとって来るか……」
また、自由気ままに生きるのだ。傭兵家業に戻るか冒険者にでもなるか。
予想外な形で解放された『元勇者』にして『元魔王』の最強の一般人。
百年後の世界で彼は何を成すのか。
瘴気とか負の感情設定についての意見がありました。
作者としては、この設定は魔法文明版の環境問題として扱っています。
大気汚染や水質汚染、土壌汚染の代わりに魔力汚染、魔脈汚染が起きるってわけですね。
生物に与える影響も癌みたいな肉体への影響じゃなく魂への影響で、魔物に変化するのは魂が変質した結果にすぎないって感じです。
正の感情とかも基本状態を維持する、あるいは狂ったものを正常に戻す因子であり、それ以上でも以下でも無いってとこでしょうか。




