原案5 ゲーム&異世界 シンクロ⑤
主人公視点
どうにかロクモン・べリスとの戦争に勝利することができた。
奴との戦いはハッキリ言って辛勝だった。
直接交戦した俺のアバターとアズリエルは、まだ回復しきっていない。
まあ、全体を見れば完勝だったけどな。
アイツは古参のプレイヤーだから実力は飛びぬけていた。
しかし、こだわりなのか戦闘スタイルを変えることが無かったので対処もできたのだ。
まずは固有スキルを妨害するため、奴と敵軍を切り離す必要があった。
これは実に簡単だった。
奴の騎乗する馬は、真紅の体毛を持つ双角馬の亜種だ。
スピードも持久力も桁外れなのだが、自軍を置き去りにしてしまうという欠点がある。
そこを突いて分断させてもらった。
しかし、赤い馬ねぇ。
どれだけ無双シリーズが好きなんだか。
次に奴のスキルには、発動中は敵の大将に自分が近い程Stが上昇するという能力がある。
だから俺自身は後衛に引っ込み、アズリエル1人が奴を食い止めた。
敵軍殲滅は迅速に行われたのだが、その短時間でもアズリエルは大ダメージを受けてしまった。
俺がスキル有り、奴がスキル無しでも互角に近かったのだ。
彼女の負担は凄まじい物だったはずだ。
ホント、彼女を自分のユニットにできた幸運に感謝したい。
元々アズリエルはティアリエルという天界でも名の知れた最高位天使だった。
魔界の魔王様、地上界の神獣や精霊王のようにNPCにも強者は多い。
彼女もその1人で、何人ものプレイヤーを打ち破った天界の英傑だったのだ。
俺自身『輝晶のティアリエル』が戦場に来ていると聞いた時は、真剣に逃亡を考えた。
口ばっかのアホ上官を後ろから刺し、エディンム爺さんとタイオスを連れて逃げる。
この計画を実行しなかったのは、天界側の指揮官がもっと無能だったからだ。
こっちは寄り合い所帯で、向こうは指揮系統が統一されている。
これだけなら向こうが有利だっただろう。
だが、指揮官である敵のプレイヤーはその有利をひっくり返してくれたのだ。
どうも内政関連で出世したプレイヤーだったらしく、戦場というものを分かっていなかった。
打つ手は悪い結果しか出さず、現場に任せるという選択もできない。
終いには劣勢になったのを見て逃亡してしまった。
それによって天界軍は総崩れになってしまう。
何をしに来たのか分からない奴だった。
当然、魔界軍は追撃したのだが、殿として立ち塞がったのがティアリエルだった。
こんな駒があるんだから攻めに使えよ、と言いたいがそこが奴の馬鹿な所だ。
強力なユニットを前線ではなく自分の周りに集めていたのだ。
で、今彼らを盾に逃亡中。
救いようがない。
その後困った事に、単騎で獅子奮迅暴れ回る彼女によって、我が上官殿が殺されてしまった。
奴を倒せば英雄だ~とか吠えてるのを一応止めたんだよ? 手助けはしなかったけど。
さらに他のプレイヤーも含めた高級士官たちが、彼女にほとんど討ち取られてしまったのだ。
いやはや、軍の崩し方を分かってらっしゃる。
彼女が総指揮官だったらと思うとゾッとするね。
しかし、俺より上位の士官を全員倒したことが彼女の不幸でもあった。
俺のスキルは部下を強化する。
暫定とはいえ、俺が最上位の指揮官になった事で魔界軍全軍が強化されてしまったのだ。
さらに俺の指揮の元、大型の獣を狩る様に時間をかけて追い詰められた。
そして最後に俺が直接殴り合い(比喩ではなく)、説得し、捕虜にしたのだ。
剣を無くしてもパンチで襲い掛かってきて、めちゃ痛かった……。
話はずれたが、彼女がいなければ今回の勝利は無かっただろう。
彼女を粗雑に扱ったあのプレイヤーには感謝したい。
あの後、敗戦の責任を取らされて処刑されたらしいけど。
「次は戦後処理か……」
正直、面倒だ。
でも、丸投げすると爺さんが五月蝿いし……。
アバターがガタガタだから出歩くのも止められてるし、真面目にやるか。
戦功第一位は当然アズリエルだ。
報酬はどうするか……。
戦利品のバイコーン? いや、彼女には天馬があるしな。
何が欲しいか聞くとか? いや、寵愛とかお情けとか言われたら対応に困る。
ただでさえメザリアとかルシャナに野獣の眼で狙われてるのだ。
う~ん、奴の鎧でもやるか? 真っ赤で趣味に合わないだろうけど。
ここまでで1章END
2章開始
異世界視点
『ロクモン・べリス破れる』、この知らせは魔界を震撼させた。
彼の圧倒的な武力で辛うじて維持されていたべリス領の均衡は崩壊した。
押さえつけられていた種族たちは次々に反乱独立した。
押さえつけていた獣魔族たちは、べリスの後継者の座を巡り内輪揉めを始めた。
べリス領は彼の生前時よりも深い混沌に沈んでいく。
本来なら、べリスを下した魔公軍の逆侵攻を警戒するべきだろう。
だが、べリス領は魔王サタンの領域だ。
いくら魔公でも、魔王の支配域を超えて進軍することはできない。
それゆえの安心であったが、それゆえの内輪揉めであった。
そしてべリスが死んだからと言って、迫害されていた種族が急に盛り返せるわけではない。
吸血鬼族もそんな種族の1つだった。
元々吸血鬼族は1つの領土を持っていた。
しかし、ダークエルフと同じ理由でべリスに攻められ、降伏した過去を持つ。
獣魔族による迫害によって3万人いた民はすでに1万を切り、上位の貴族種も100人ほど。
最高位の王族にいたっては5人しか残っていない。
繁殖力の低い吸血鬼族が、泥沼の内乱に陥ったべリス領で復興できるかというと非常に厳しい。
そこでかれらは1つの決断を下すことになった。
「それではわらわが直接、魔公殿の元に向おうと思う」
「イルミナ姫様、それは……」
「しかし、誠意を見せるにはそれが最も確実ですか……」
城と呼ぶには粗末な建物。
その会議室で金髪紅眼の少女が切り出し、周囲がどよめく。
それも当然、彼女は残された5人の王族の1人なのだから。
べリスによって深手を負わされた国王夫妻は、政務を行える状態ではない。
そこで王太子が代理として政務を行い、その妹と叔父が補佐についている。
それ以外の王族は全員戦死した。
この少女は国王の娘にして王太子の妹なのだ。
そんな彼女自らが動かなければならない案件。
それは
「決まりじゃな。わらわ自らが魔公殿にベルフェゴール領への移住を願い出てこよう」
吸血鬼族は荒廃の一途をたどるべリス領に見切りをつけていた。
先祖代々の領土に思い入れはある。
だが、このまま緩やかに衰退していく事を座して待つことはできない。
もちろん、種族全員での魔王領の移動など普通は行われない。
しかし、幸いなことに前例はあった。
「上手く魔公殿に取り入る事が出来れば、我らもダークエルフのように繁栄を謳歌できるやもしれぬ」
「ルシャナ姫にいたっては魔公軍の重鎮。羨ましい事です……」
貴族たちも次々に希望を口にする。
かつて自分達と同じ境遇に置かれたダークエルフ族。
彼らは降伏を良しとせず、逃亡しながらも抵抗し続けた。
吸血鬼族も他の種族も彼らが滅ぼされることを疑っていなかった。
しかし、彼らは生き残った。
氏族の半数を失いながらもベルフェゴール領へとたどり着き、今や繁栄を謳歌している。
その過程で当代最高の使徒、ゼノン・ベルフェゴールと縁を結ぶことにも成功している。
魔公配下の諜報部隊の主力もダークエルフである。
「確かに出遅れた感はある。だが、父の決断が間違っていたとは思わない。成功する保証は無く、実際にダークエルフは民の半数を失ったのだ」
王太子は場の空気に一応の釘を刺す。
全ては結果論にすぎないからだ。
何より自分達はまだ生きている。
ここから取り返せばよいのだ。
「それではイルミナ、魔公殿との交渉は吸血鬼族の命運を賭けたものだ。しくじる事は許されんぞ」
「心得ております。身命を賭して必ずや達成して見せましょう」
使命に燃える吸血鬼の姫イルミナ。
魔公ゼノンがイルミナを個人的に気に入れば、という打算も当然ある。
しかし、彼女の前にメザリア、ルシャナ、アズリエルの3名が立ちふさがる事になる。
エピローグがあったほうが区切りが良いかなと思いまして投稿。
それだけだと少ないから、次のプロローグも入ってしまいました。
キャラ紹介は無しで。




