原案5 ゲーム&異世界 シンクロ④
異世界視点
「ふん! 後悔するぞ!」
「お気遣いなく~。私は凄く充実してますので~」
「首を洗って待っていろ!」
「身体なら毎日洗ってますので~」
鼻息荒く、去って行く屈強な獣魔達。
それを見送るのは魅惑的な美女であった。
豊満な肉体を包むのはレオタードの様な服。
ただし、膝まであるロングブーツと肘まである手袋を着けているので意外と露出は少ない。
頭部には羊の様な巻角、ふんわりとした薄紫色の髪はセミショート。
背中には黒い蝙蝠のような翼があり、臀部には細長い尻尾が生えている。
眠たげに細められた金色の瞳が、鋭い光を放った事に獣魔達は気付かない。
彼らが去ったことを確認すると、女性は困ったように呟いた。
「う~ん、予想以上のお馬鹿さん達ですねぇ。まあ、旦那様の予想通りでしたが……」
周囲にいる兵たちは身動きしない。
いや、できない。
のんびりした口調だが、滲み出る怒気は隠しようがない。
そして彼女はその気になれば兵の100人や200人、雑草の様に薙ぎ払う事ができる。
淫魔のメザリア。
魔王ベルフェゴールの娘であり、魔公ゼノンの副官にして宰相。
その実績により『悪夢』の二つ名で呼ばれる上級魔族だった。
ちなみに彼女はゼノンを旦那様と呼び、ゼノンはもう諦めている。
そして彼女はゼノンに対する暴言を許しはしない。
「べリスの目的は戦いそのもの……。故に和睦はあり得ない……」
ブツブツと呟きながら歩き出すメザリア。
いつもの事なので兵たちは気にしない。
のんびりとした口調の裏で、その頭脳は常に凄まじい速度で回転している。
眠たげな瞳はしかし、未来を見通すとまで言われている。
魔王より魔公に与えられた君主の証にして至高の才媛、それが彼女だった。
そして
「現在のべリスの動きは……」
「すでに兵を集めている」
いつの間にかメザリアの隣を歩いていた女性が呟きに答えた。
赤みがかったストレートロングの銀髪にアメジストの様な紫の眼、そして褐色の肌に長い耳。
上級妖魔の代表種ダークエルフ、それも族長格の高位個体である。
人間界に住むエルフは金髪緑眼である。
そして上位個体のハイエルフは髪に緑色が混じる。
その特徴は魔界に移住した者達にも受け継がれているのだ。
魔界においてダークエルフは恐るべき暗殺者として畏怖されている。
彼らは元より身軽で弓や短剣の扱いが上手く、例外無く精霊魔法の達人である。
さらには魔物や魔草に詳しく、それらから強力な毒を調合できるのだ。
だが、誇り高い彼らは特定の勢力に所属する事を拒んできた。
つい最近までは。
彼女、ルシャナはこの魔公領の諜報部隊を率いる将軍の1人である。
比較的若いが当然のようにその実力は高く、メザリアと同格の強者だ。
とある事情から、彼女の氏族は魔王サタン領の郷を追われ、魔王ベルフェゴール領に移住していた。
その移住を手伝ったのが当時のゼノンであり、その縁で彼女は配下を連れて彼に協力しているのだ。
その事情というのが
「お帰りなさ~い。彼、相変わらずの戦闘狂ぶりですね~。こちらの返事など聞くまでも無いってわけですか~」
「ああ、忌々しい事にな。全く変わっていない」
そう、ダークエルフはべリスと敵対して故郷を追われたのだ。
もちろんダークエルフに敵対する気は無かったし、実際に言いがかり以外の何ものでもなかった。
単にべリスは暗殺者として恐れられるダークエルフと戦ってみたかったのだ。
ダークエルフにとってはたまったものではない。
もちろん彼らも必死にべリスを暗殺しようとした。
しかし、暗殺に向かった者達は誰1人戻る事は無かった。
そして郷はべリスの軍に蹂躙され、氏族の半数近くを失い辛うじて逃げ延びたのだ。
「彼の固有スキルについてはどうです~?」
「確認はできた。暴政の犠牲者を反逆者として蹂躙していたよ」
静かな、しかし燃え盛るような怒りを宿した声。
クールな印象のルシャナだが、実は情に厚い性格をしている。
友情も、愛情も。
故にゼノンが魔公領を得た際に、自ら志願して彼の元に付いた。
「閣下は?」
「もう会議室で待たれていますよ~」
2人がたどり着いたのは豪奢な扉の大部屋であった。
扉の両脇に立っていた近衛兵が一礼し、扉を開ける。
部屋の中からは濃密な魔力が溢れ出してくる。
一般人にとってはガス室にも等しい部屋に、平然と2人は入っていく。
「ゴミ共は帰りましたよ~。財と女を全て差し出せとか寝言を言ってましたね~」
「ただいま帰還しました。べリスのスキルの情報は確認できました」
「ご苦労。座ってくれ」
メザリアは議長席の右側に、ルシャナはその隣に座る。
議長席に座るのは痩身の悪魔。
3対6枚の黒い翼に山羊の角、その位階は最上位。
魔公領の主、ゼノンである。
そして部屋には彼以外に3人の魔族が揃っていた。
1人はゼノンの背後に立つ金髪碧眼の女性だった。
長い金髪は緩く波打ち、上品な雰囲気を漂わせている。
その身には頑強な鎧と煌びやかなドレスを合わせたような防具、いわゆるドレスアーマーを着込んでいる。
腰には華麗な装飾の長剣を差し、両の小手は小型のラウンドシールドと一体化していた。
そして最も特徴的なのは、その背に生えた翼だった。
カラスのような黒い翼。
それは闇に堕ちた天使、堕天使の証。
そして、その数はゼノンと同じ3対6枚、最上級天使であるセラフィムと同じだった。
彼女の名はアズリエル。
かつてゼノンに敗れ、彼に下った元天界の将軍であった。
彼女の魔力の物質化スキル『マテリアライズ』は数多の有力魔族を退けた。
だが、本来の名前を捨て『アズラ』の名を受け入れた今の彼女の立場は、ゼノンの近衛騎士である。
「ふむ、こちらの予想通りなら、べリスの討伐は可能ですな」
「ええ、奴のスキル発動条件は自軍、つまり自分以外の味方あってのものです。それは自身が軍の先駆けとなり、先陣を切る事。そしてもう1つ、敵将へと突撃し続ける事でさらにべリスは強化されるようですね」
ルシャナの報告を聞いて口を開いたのは、ゼノンの左側に座るローブの男だった。
不死族リッチの死霊術師であるエディンム。
彼はかつてのゼノンの上司であり、魔王ベルフェゴールから貸与されたアドバイザーであった。
ゼノンにとって、引退し閑職で余生を送っていた彼の元に配属された事が始まりと言っても良い。
「なーるほど。俺は奴以外を先に片付けちまえば良いわけだな!」
「さよう。アズリエル嬢は奴の突撃を妨害する。とは言え、いかにアズリエル嬢といえど、鮮血公をそう長くは押さえておけんじゃろう。迅速にな」
荒っぽい口調で応じたのは巨人族の巨漢。
ゼノンと共にエディンムの元で働いていたタイオスだ。
妖魔と巨人の混血である彼は、自身の大きさを変化させる能力を持つ。
さらにかなり頭も回り、戦士としても指揮官としても優秀な男であった。
ゼノンが魔公となった際、名指しで魔王軍から引き抜いた親友でもある。
「では~、おさらいしておきましょう~。戦闘が開始すればべリスは単騎で突っ込んできます~。そこで軍を左右に分けて彼は素通りさせます~」
「で、続く軍は左右から挟撃して一気に殲滅する訳じゃな」
「同規模の軍同士の戦いなら大将のスキルがあるからな。負けるわけがねえ」
「アズリエルさんは防御に専念して下さい~。彼の性格なら無視はあり得ません~。絶対に食いつきますので~」
「了解ですわ」
「ルシャナさんは後方の補給部隊を叩いて下さい~。アレも一応敵の軍なんで~。エディンムさん援護をお願いします~」
「了解だ」
「うむ、久々に儂の騎士たちの出番じゃな」
「べリスの固有スキルが無効化されたら……」
「ああ。俺が出よう」
メザリアの言葉に頷くゼノン。
固有スキルが無くてもべリスは強い。
奴を押さえるアズリエルに、スキル無効化後に反撃に転じる余力は残らないだろう。
ならば、奴を倒せる者はゼノン自身以外は存在しない。
「戦争とは目的を果たすための手段でしかない。だが、奴は戦いそのものを目的としている。その先に何も望まない、燃え広がる野火かイナゴの群れのような存在だ。奴の統べる地に未来は無い」
ゼノンは厳かに告げると全員の眼を見つめる。
そして宣言した。
「必ず勝つぞ」
キャラ紹介
メザリア
高位の淫魔であるサキュバス・クイーン。状態異常魔法と小剣技を使いこなす。
魔王の血を引く魔界の王族であり、のんびりした態度とは裏腹に恐るべき頭脳を持つ。
ゼノンの伴侶となるべく生み出された存在で、ゼノンを旦那様と呼ぶ。
ルシャナ
ダークエルフの姫君でハイエルフと同等の高位妖魔。べリスによって故郷を追われた過去を持つ。
その際に自らの氏族を保護し逃がしてくれたゼノンに、多大な恩義と愛情を抱いている。
弓と短剣を使いこなし、精霊術によって大精霊をも召喚する実力者である。
アズリエル
かつての天界との戦争で、アズラ・ゼノン時代の主人公に敗れ捕えられたセラフィム。
その戦争は天界所属のプレイヤー主導で引き起こされたものだったが、そのプレイヤーはアズリエルに殿を命じ逃亡している。(天界では天使は同格のプレイヤーには逆らえない)
天界の在り方に疑問を持った結果、彼女は堕天しゼノンの元に身を寄せた。
魔力を結晶化させるスキルを持ち、剣や盾、鎧を強化して戦う。
騎獣であるペガサスも彼女と共に堕天し、漆黒に染まっている。
エディンム
かつてはベルフェゴール軍で名を馳せた凄腕のネクロマンサー。数より質を追求するタイプ。
紫色のワイバーンに騎乗する全身鎧の騎士『深淵の死霊騎士』、赤い馬に騎乗する炎を纏った骸骨『煉獄の死霊騎士』、青い翼蛇に騎乗するローブを纏った影『終末の死霊騎士』の3体を使役する。
大分前に一線を退いていたが、ゼノン(当時はただのアズラ)とタイオスに出会いその才能を見出す。
タイオス
巨人と妖魔のハーフでスプリガンと呼ばれる種族の青年。
ゼノンの同期であり親友で、共にエディンムの元で成長していった。
裏表のない性格で面倒見が良く、部下からも慕われている好人物だが、戦場では巨大化して戦斧を振るう豪傑。
ゼノン同様魔王軍の将軍だったが、魔公に担ぎ上げられたゼノンを心配し魔公軍の元帥となる。
当初の予定はここまでだけど、もう1話書きたい気もする今日この頃。
べリスが破れ、大混乱に陥ったべリス領。
そんな中、ヴァンパイア族は将来を見据え、魔公に保護を求める事を決断する。
そして王族の少女を使者としてゼノンの元へと向かわせる。
こんな内容で1話追加しようかなと。




